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統計Today No.32
団塊世代をめぐる「2012年問題」は発生するか?
総務省政策統括官(統計基準担当)付 統計企画管理官 千野 雅人
はじめに
2010年10月は、統計のビッグイベントが目白押しでした。
10月1日には、5年に一度の「国勢調査」が実施されました。皆さまのご回答、ありがとうございました。また、10月18日は閣議了解で定められた毎年恒例の「統計の日」、10月20日は2010年の国連総会で初めて採択された「世界統計の日」でした。これらの活動を通じ、統計への理解の増進が図られたことと思います。
さて、皆さまにご回答いただいた統計調査の結果からは、いろいろなことが分かります。
例えば、数年前、60歳となる「団塊の世代」の大量定年退職をめぐる「2007年問題」が話題になりましたが、その際、5年後に「2012年問題」が生じるのではないか、という声も聞かれました。
これについて、統計から分かることの一端を見ていきましょう。
「2007年問題」から「2012年問題」へ?
2007年には、「団塊の世代」が60歳に到達することから、大量の定年退職者の発生が予想されました。これにより、労働力の減少や企業内の技術・ノウハウの継承の断絶など、様々な問題が生じるのではないかと懸念されました。これが、いわゆる「2007年問題」です。
しかし、多くの企業において60歳定年後の継続雇用が進んだことなどもあり、2007年に大きな問題が生じることはありませんでした。ただし、この継続雇用も、年金(定額部分)の支給開始年齢までが目安と考えると、最長で65歳までです。すると、2007年の5年後、「団塊の世代」が65歳に到達する2012年に、同じ問題が発生する可能性があります。これが、いわゆる「2012年問題」です。
「団塊の世代」の人口は何人か
まず、いわゆる「団塊の世代」(第1次ベビーブーム世代、1947〜1949年生まれ)の人口の大きさを見てみましょう。
2009年10月1日現在の「人口推計」によれば、60歳(1949年生まれ)の人口は、226万6000人です。1歳児の人口109万2000人と比べると、なんと2倍を超える大きさになります。
また、60〜62歳(1947〜1949年生まれ)の人口を合計すると、664万4000人となります。これは、47都道府県の中で人口第6位となる千葉県の総人口613万9000人を超える大きさです。
少し広く捉えて58〜62歳(1947〜1951年生まれ)の人口を合計すると、1063万4000人と1000万人を超え、我が国の総人口1億2751万人の1割近くを占める大きさになります。
この世代は、まさに、人口構成の中で大きなかたまり(団塊)を形成しており、我が国の雇用や消費などに大きなインパクトを持つであろうことが分かります。
我が国の人口ピラミッド(2009年10月1日現在)
(資料)「人口推計(2009年10月1日現在)」(総務省統計局)
「団塊の世代」は何歳で退職するか
では、このようなインパクトを持つ「団塊の世代」は、一体、何歳で退職(仕事から引退)するのでしょうか?
2005年の「国勢調査」結果から、定年前後の各年齢における「労働力率」(注)(仕事をしている人や探している人の割合)を見てみましょう。
定年をめぐる大量退職は、主に男性労働力をイメージしたものだと思います。そこで、男性の労働力率を見てみると、25歳から59歳までは9割を超えていますが、60歳に9割を下回ってから徐々に低下し、67歳で5割となります。年齢1歳ごとの労働力率低下の大きさを見てみると、60歳では、59歳の92.7から6.7ポイントの低下と、少し大きめな低下が見られますが、その後、67歳までは、おおむね4〜5ポイント台の低下が続きます。そして、労働力率が5割を下回る68歳以降は、3ポイント台以下の緩やかな低下となります。
定年前後の労働力率(男性、2005年)
(注) 「差」は、1歳前との間の労働力率の差
このように、仕事をしている人や探している人(男性)は、60歳や65歳になったときに急に減少するわけではなく、60歳になったときから徐々に少なくなっていき、67歳になったときには約半分になる、ということが分かります。これを逆に見れば、退職(仕事からの引退)の状況になります。
(注)労働力率=労働力人口/全人口(労働力人口+非労働力人口)×100
労働力人口=就業者数+完全失業者数
「団塊世代退職の10年問題」(2007〜2016年問題)
以上のように、2007年や2012年に限って突然に大量の退職者が発生するわけではないということが、統計から分かります。この意味で、「2007年問題」も「2012年問題」も、社会全体の労働供給の視点から見れば、いずれも単年の問題としては深刻なものではありません。しかし、仕事をしている人や探している人(男性)の割合は、60歳から67歳にかけて、9割から5割に徐々に低下していきますので、この期間にわたって、それに相当する数の退職者が発生することになります。
つまり、「団塊の世代」の最年長層である1947年生まれが60歳になる2007年から、最年少層である1949年生まれが67歳になる2016年頃まで、およそ10年間にわたって、巨大なボリュームの人口の中から相当の数の退職者が発生することになるのです。
この意味で、「2007年問題」や「2012年問題」というよりも、2007年から2016年頃にわたる「団塊世代退職の10年問題」(2007〜2016年問題)とでもいう方が、適当かもしれません。
おわりに
統計からは、このようにいろいろな真実が分かります。
上記の分析は、2005年国勢調査の結果を基に行ったものですが、最新の2010年国勢調査の結果が、2011年2月以降、順次、公表されます。最近では、多くの企業が継続雇用制度を導入するようになって、60歳以上の年齢層の労働力率が上昇していると言われています。それが真実か否か、これから公表される最新の調査結果から明らかになることでしょう。
これらの調査結果は、皆さまに1問1問丁寧にご記入いただいた調査票を集計したものです。有用な統計を得るためには、調査票への正確なご記入・ご回答が不可欠です。正確な統計の作成・提供のため、皆さまのご理解とご支援をよろしくお願いいたします。
(平成22年12月1日)