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リサーチペーパー 第8号
タイトル
失業率上昇がもたらす若年就業への持続的影響について −労働市場の世代効果に関する再検証−
著者 (原稿執筆時の所属)
太田 聰一 (慶應義塾大学経済学部教授)
玄田 有史 (東京大学社会科学研究所教授)
刊行年月
2007年5月
要旨
2000年代半ば以降、景気回復により若年の雇用状況に改善傾向が見られる一方、若年長期無業者も依然として大量に存在する。若年時に就業や能力開発の機会を逸した人々のなかには、経済的・社会的自立が今後困難となり、生活保護の受給など将来的に深刻な経済状態に陥る事態も予想される。そこで本研究は、学卒後の労働需給の変遷によって、その後の実質賃金と規定要因である就業状況に関する持続的影響を検討した。
本稿は労働力調査特別調査(1986年〜2001年2月調査)および労働力調査(2002年〜2005年2月調査)を接合し、学校卒業前の完全失業率水準が、その後の若年男性労働者の賃金および雇用に与える影響を計測した。その結果、卒業前年の失業率が他の世代に比べて1パーセント高くなると、高校卒・中学卒就職者の実質賃金はその後少なくとも12年にわたり、5〜7パーセント程度、低下することがわかった。背景として、不況期に卒業した世代ではフルタイム雇用の就業 機会が制限され、非正規雇用もしくは無業状態(ニート)となる確率が継続的に高まるなど、持続的な数量調整の影響が示唆された。一方、大学・高専・専門学校卒でも、卒業前年の失業率が上昇すると実質賃金は低下するものの、その影響は徐々に消失していくことがわかった。また卒業直前のみならず入学時点での失業率が高い世代でも、高校卒就業者の実質賃金は低下する傾向がみられた。加えて、在学時の失業率が高かった世代において、悪条件の就職を回避するために高校からの進学率が上昇するといった傾向は観察されなかった。
以上から、高校から高等教育へ進学しなかった就業者の賃金および雇用は進学層に比べ、持続的に劣位の状況にあることが確認された。不況期に就職した低学歴層では、卒業直後のみならず、その後も賃金や雇用状況の改善が継続的に困難であり、1990年代から2000年代初頭の不況期に 卒業した低学歴層への集中的な支援策の充実が急務といえる。
キーワード:完全失業率、世代効果、二重構造的労働市場、学歴間格差