ここから本文です。
統計Today No.168
新型コロナウイルス感染症の流行と東京都の国内移動者数の状況
−住民基本台帳人口移動報告2020年の結果から−
総務省統計局統計調査部国勢統計課調査官 永井 恵子
本年1月29日、住民基本台帳人口移動報告の2020年の結果を公表しました。住民基本台帳人口移動報告は、住民基本台帳に基づき、月々の国内における人口移動の状況を明らかにしています。
本稿では、住民基本台帳人口移動報告の2020年の結果から、新型コロナウイルス感染症流行下における東京都の人口移動について紹介します。
東京都の転入超過が大きく縮小
各都道府県の「転入者数」から「転出者数」を差し引いた「転入超過数」をみると、近年、東京都は他の道府県と比べ突出して多くなっており、2019年は神奈川県や埼玉県の約3倍に相当する8万2982人となっていましたが、2020年は3万1125人へと大幅に縮小し、両県とほぼ同規模の転入超過数となっています(図1)。
図1 都道府県別転入超過数(2019年、2020年)
東京都は7月以降6か月連続の転出超過
この東京都の転入超過数を月別にみると、緊急事態宣言が発出された4月に前年に比べて半数以下に縮小した後、5月は外国人を含む移動者数の集計を開始した2013年7月以降で初めての転出超過となりました。その後、6月に転入超過となったものの、新型コロナウイルスの新規感染者数が増え始めた7月に再び転出超過となり、以降6か月連続で転出超過となっています。
季節性を除いた傾向をみるために、12か月移動平均でみると、東京都の転入超過は2020年の3月まで緩やかに拡大していましたが、4月以降、縮小傾向に転じています。転換期となった4月から12月までを合計すると、東京都は1万6938人の転出超過となっています(図2)。
図2 東京都の転入超過数の推移(2017年1月〜2020年12月)
東京都の転入・転出の状況を前年同月差でみると、転入者数は緊急事態宣言発出下の4月及び5月に大きく減少し、その後、減少が続いていますが、転出者数は5月に大きく減少したものの、8月以降は5か月連続で増加しています。東京都の転出超過は、4月以降の転入者数の減少に加え、8月以降は転出者数の増加によって生じていることが分かります(図3)。
図3 東京都の転入・転出の状況(前年同月差)(2020年1月〜12月)
では、4月以降の東京都と他の道府県の間の転入・転出の状況はどのようになっていたのでしょうか。2020年4月から12月までの合計でみることにしましょう。
他の道府県から東京都への転入の状況をみると、46道府県全てにおいて、東京都への転入者数が減少しており、特に千葉県、神奈川県、埼玉県、大阪府、愛知県、北海道、福岡県といった近隣又は人口の多い道府県で大きく減少しています(図4)。
図4 東京都への転入者数の前年同期差(道府県、2020年4月〜12月計)
同様に東京都からの転出の状況をみると、37道県において、東京都からの転出者数が増加しており、特に神奈川県、千葉県、埼玉県、長野県、茨城県といった近隣の県で大きく増加しています(図5)。
図5 東京都からの転出者数の前年同期差(道府県、2020年4月〜12月計)
この結果、道府県別の東京都の転入・転出超過の状況をみると、2019年(4月〜12月計)では埼玉県1県のみであった転出超過の道府県数は、2020年(4月〜12月計)は埼玉県、神奈川県、千葉県など15道県に増加し、引き続き転入超過となった31府県についても、その全てにおいて転入超過数が2019年から縮小することとなりました。
すなわち、4月から12月までの期間における東京都の転出超過は、他の全ての道府県に対し各道府県の人口の増加又は減少緩和に寄与したことになります。しかしその一方で、東京都からの転出超過となった15道県の転出超過数の85.5%を埼玉県、神奈川県及び千葉県の3県が占めるなど、影響の大きい道府県は近隣県が中心となっています(図6)。
図6 道府県別の東京都の転入超過数(2019年及び2020年の4月〜12月計)
東京圏は2か月連続の転出超過
東京都と近隣の埼玉県、千葉県及び神奈川県で構成する東京圏について転入超過の状況を月別にみると、2020年7月に比較可能な2013年7月以降で初めての転出超過となり、8月も引き続き転出超過となりました。その後、9月、10月には転入超過となったものの、11月以降2か月連続の転出超過となっています(図7)。
図7 東京圏の転入超過数の推移(2013年7月〜2020年12月)
終わりに
新型コロナウイルス感染症の流行を背景に、近年、転入超過が拡大傾向にあった東京都は、転入超過数が縮小に転じ、7月以降は6か月連続の転出超過となりました。テレワークの定着に伴う都心のオフィスの面積縮小や郊外への移転の動きも報道されており、通勤する必要性の低下から都心から近隣県の郊外への住み替えの動きが起きている可能性も考えられます。
我が国における新型コロナウイルス感染症の流行は2年目に入り、まもなく進学や就職などで最も人口移動が多くなる3月を迎えます。東京都への転入超過も年間で最も大きくなる月です。東京都への集中緩和の動きは、一過性のものなのか、今後も継続するものなのか、この3月の動きも含めた今後の国内人口移動の動向に是非御注目ください。
※住民基本台帳人口移動報告2020年結果の詳しい内容については、
https://www.stat.go.jp/data/idou/2020np/jissu/youyaku/index.html を御覧ください。
(令和3年2月5日)