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統計Today No.147
我が国の個人経営事業所の概況
〜個人企業経済調査を振り返って〜
総務省統計局統計調査部消費統計課長
(前経済統計課長) 小松 聖
(共同執筆者)経済統計課個人企業経済調査係長 萩原 卓人
これまでは,「製造業」,「卸売業,小売業」,「宿泊業,飲食サービス業」又は「サービス業」を営む個人経営事業所を対象として,動向編を四半期ごと・構造編を年1回実施してきました。この度,本調査の利活用の一層の推進を図るため,2019(令和元)年度に実施する調査から,対象産業をほぼ全ての産業に拡大し,都道府県別結果を新たに公表するなどの調査の変更を行うこととしました。
本稿では,これまでの個人企業経済調査の結果を振り返り,調査開始から比較可能な「製造業」の経営状況の推移をご紹介するとともに,昨今の個人経営事業所の人手不足感の高まりについてご紹介します。
戦後からの経営状況の推移
個人企業経済調査は,戦後の個人経営事業所で特に重要とされた商工業部門の国民所得の推計資料を得ることを目的とするもので,1952年度から旧統計法に基づく指定統計(現在の基幹統計)に指定されました。その後,1961年度から,従来の商工業部門にサービス業を加えて,現在の調査の原型となりました。
はじめに,調査開始の1952年度から比較可能な「製造業」の売上高等について,その推移をみていきます。
「製造業」の売上高を長期的にみるとバブル景気時をピークに減少傾向
1事業所当たりの売上高は,調査開始から1990年度にかけて右肩上がりに増加し,その後,バブル崩壊の影響もあり,減少傾向となっています。また,1事業所当たりの営業利益についても,ほぼ同様の動きとなっています。なお,1971年度から1974年度にかけての売上高の大幅な増加は,第1次石油ショックなどによる物価高騰の影響とみられます。(図1)
図1 1事業所当たり年間売上高及び営業利益の推移
(製造業)
※2 1972年度以前は,沖縄県分は含まれていない。
※3 シャドー部分は景気後退期
出典:売上高及び営業利益は「個人企業経済調査年度別結果」(総務省統計局)
国内企業物価指数は「企業物価指数」(日本銀行)
我が国の個人経営事業所の概況
次に,我が国の個人経営事業所の概況を「平成28年経済センサス-活動調査」などの結果によりご紹介します。
我が国の事業所全体に占める個人経営事業所の事業所数は約4割
2016年6月1日現在の我が国の総事業所数は534万783事業所注1,総従業者数は5687万2826人注1となっています。このうち,個人経営事業所は,200万6773事業所で,全体の37.6%を占めています。また,従業者数は571万9403人で,全体の10.1%となっています。(図2)
注1)事業内容等不詳を除く。
図2 経営組織別事業所数及び従業者数
また,経済センサスが開始された2009年の個人経営事業所数及び従業者数について,2016年と比較すると,個人経営事業所数の割合は41.9%から37.6%,従業者数の割合は12.1%から10.1%と,いずれも低下しています。(図3)
図3 経営組織別事業所数及び従業者数の割合
(事業所数)
(従業者数)
「平成28年経済センサス-活動調査結果」(総務省・経済産業省)
近年の人手不足感の高まり
近年の人手不足感の高まりについて,個人企業経済調査の結果注2により,個人経営事業所の経営形態の推移,事業主の認識の状況をご紹介します。
注2)個人企業経済調査では,雇用状況DI等の調査事項を2003年調査から把握していることから,ここでは2003年からの状況について示す。1事業所当たりの従業者数は減少傾向,事業主のみの事業所の割合は上昇傾向
はじめに,個人経営事業所の近年における経営形態の推移をご紹介します。
「製造業」,「卸売業,小売業」及び「宿泊業,飲食サービス業」における,1事業所当たりの従業者数は減少傾向となっています。また,雇用者の有無別注3事業所分布の推移をみると,いずれの産業においても雇用者がいる事業所の割合は低下傾向,事業主のみの事業所の割合は上昇傾向となっています。
2003年では,雇用者がいる事業所の割合が事業主のみの事業所の割合より高くなっていましたが,「製造業」では2016年以降,「卸売業,小売業」では2015年以降,事業主のみの事業所の割合の方が高くなっています。(図4)
図4 雇用者の有無別事業所分布,1事業所当たりの従業者数の推移
(製造業)
「製造業」では2012年以降人手不足感が高まっている
「製造業」の個人事業主(雇用者がいる事業所)の雇用状況DI(「過剰」−「不足」)をみると,2009年から2011年までは過剰の傾向がみられましたが,2012年以降は不足の傾向となっており,近年ではその傾向が強まっています。(図5-1)
図5-1 雇用状況DIの推移
(製造業)
「卸売業,小売業」及び「宿泊業,飲食サービス業」ではほぼ一貫して人手不足の状況が続いている
「卸売業,小売業」及び「宿泊業,飲食サービス業」の事業主については,調査開始後,ほぼ一貫して人手不足と感じており,特に近年では,「製造業」同様,その傾向が強まっています。(図5-2)
図5-2 雇用状況DIの推移
(卸売業,小売業)
(宿泊業,飲食サービス業)
ここで,法人企業を含む全体の有効求人倍率(1人の求職者に対してどれだけの求人があるかを示す指標)をみると,2003〜2005年及び2008年〜2013年については1.00倍を下回っている時期でも,「卸売業,小売業」及び「宿泊業,飲食サービス業」における個人経営事業所では慢性的な人手不足の傾向にあったと考えられます。(図6)
図6 有効求人倍率(新規学卒者を除きパートタイムを含む)
「宿泊業,飲食サービス業」では2012年以降人手不足を問題とする事業主の割合が上昇
「卸売業,小売業」及び「宿泊業,飲食サービス業」について,個人事業主が抱えている事業経営上の問題点注4をみると,2018年では,「卸売業,小売業」は「需要の停滞(売上の停滞・減少)」(78.3%),「宿泊業,飲食サービス業」は「原材料価格・仕入価格の上昇」(69.3%)が最も多く挙げられています。
また,「従業員の確保難・人材不足」を問題点として挙げている事業所割合の推移をみると,「卸売業,小売業」はほぼ横ばいであるのに対し,「宿泊業,飲食サービス業」では,2012年以降,上昇しています。(図7)
(1)大手企業・同業者との競争の激化 (2)需要の停滞(売上の停滞・減少) (3)製品・商品ニーズの変化への対応
(4)建物・設備の狭小・老朽化 (5)資金繰りの悪化 (6)従業員の確保難・人材不足 (7)人件費の増加
(8)後継者難 (9)原材料価格・仕入価格の上昇 (10)販売価格の低下・値引要請 (11)家賃・地代の上昇
図7 事業経営上の問題点の「従業員の確保難・人材不足」の事業所割合の推移(複数回答)
本稿でご紹介したとおり,個人企業経済調査では個人事業主をとりまく様々な状況を把握することができます。本調査の結果は,個人事業主の皆様の回答によって作成しておりますので,調査へのご理解・ご回答をお願いいたします。
2019年度から実施する調査の結果については,表章する産業も充実し,新たに都道府県別結果も公表することとしておりますので,ぜひともご活用ください。
◇主な変更点は以下のとおりです。
- 表章産業の充実
調査対象産業を,「製造業」,「卸売業,小売業」,「宿泊業,飲食サービス業」及び「サービス業」の4産業から,ほぼ全産業に拡大します。
調査対象産業の拡大に伴い,調査対象規模も現行の約4,000から約40,000に拡大することで,より詳細な産業別結果をご覧いただけます。 - 新たに都道府県別結果を公表
調査の結果は,調査実施翌年の3月までに公表します。調査対象規模を拡大することで,新たに都道府県別結果を公表します。(ただし,調査初年の2019年度に実施する調査の結果については,2020年12月に公表します。)
◇個人企業経済調査の変更については,次のURLからご覧いただけます。
https://www.stat.go.jp/data/kojinke/index2.html(令和元年7月12日)