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統計Today No.55
東日本大震災以降のサービス産業の動向
総務省統計局統計調査部調査企画課長(前経済統計課長) 井上 卓
総務省では、平成20年から、毎月、サービス産業動向調査を実施しております。この調査は、我が国の民間部門の経済活動の約半分を占めるサービス産業について、月次の経済活動の規模と動向を測る統計がなかったために創設されました。この調査により、広範なサービス産業を大企業から中小企業までをカバーし、売上高や従業者数などの動向を捉えています。この調査は、景気動向の的確な把握やタイムリーな産業政策への利用が期待されるものです。
今回は、この調査結果を用いて、東日本大震災以降のサービス業の動向を、サービス産業全体及び産業ごとに探っていきましょう。
本稿では、各産業の傾向の比較を容易にするため、震災直後(震災直後:平成23年3月、4月)、震災から半年後程度までの間(半年後まで平成23年5月〜9月)、半年後から直近までの間(直近まで:平成23年10月〜平成24年5月)の3期間に分けて、震災前の平成22年の同期間の売上高と比較することとします。
サービス産業計
「サービス産業全体」としては、震災直後大きく売上高が減少し、半年後も減少していたが、直近では平成22年をやや下回る水準(−2.2%)に回復している(表参照)。なお、鉱工業生産指数を同様に処理してみると、震災直後に−12.6%まで落ち込んだが、半年後で−1.5%、直近では+0.5%まで回復しており、それと比べると、サービス産業の回復は弱いと言えよう。
ちなみに、本調査では、平成23年5月の調査で、震災による影響を尋ねており(東日本大震災がサービス産業に与えた影響(特別集計 その2)(PDF:358KB))、それによると、『回答事業所のうち震災の影響ありと回答した事業所は42.8%で、うち、「需要減」が20.6%、「休業や営業時間の短縮」が10.8%、「原材料や物流の滞り」が10.6%、「電力供給の制約」が6.0%。一方、「需要増や提供価格の値上げ」は1.9%』、となっている。
情報通信業
「情報通信業」は、スマホ特需などに支えられた通信業の伸びに支えられ、全体としては、震災の影響が比較的小さく、その後も比較的堅調に推移している。特に、通信業や情報サービス業は、震災直後も平成22年より売上高が増加しており、その後も堅調に推移している。
運輸業,郵便業
「運輸業,郵便業」は、震災直後、鉄道網、道路網の分断により、鉄道業及び道路貨物運送業を中心に大きく売上高を減少させたが、それらも、年後半には、ほぼ例年並みの水準へと回復してきている。その一方で、コンテナ船のダブつきなどによる運送料の低下や円高の影響を受け、水運業は直近に至るまで大きく売上高を減少させており、全体としては、平成22年の水準を回復していない。
不動産業,物品賃貸業
「不動産業,物品賃貸業」については、震災以降大型物件の引き渡しの延期などにより、売上高が減少していたが、直近はおおむね平成22年の水準近くまで回復している。特に、物品賃貸業については、震災復興関連機械のリースの好調などにより、震災以降、一貫して平成22年と比べ売上高が増加している。
学術研究,専門・技術サービス業
広告業や土木建築サービス業などが含まれる「学術研究,専門・技術サービス業」については、震災直後に大きく売上高が減少し、半年後も減少していたが、直近ではおおむね平成22年の水準近くまで回復している。特に、土木技術関係の技術サービス業や広告業では、震災直後は大きく減少したが、その後、補正予算の執行や広告需要の盛り上がりなどにより、回復傾向にある。
宿泊業,飲食サービス業
「宿泊業,飲食サービス業」については、計画停電に加え、宴会需要の減少、宿泊需要の減少などにより、震災直後に大きく売上高が減少し、その後も、平成22年の水準を回復できていない。特に、宿泊業は、震災の影響が大きく、震災直後売上高が2割減少し、その後回復基調ではあるが、平成22年の水準に達していない。
生活関連サービス業,娯楽業
旅行業や理容業、パチンコ業などが含まれる「生活関連サービス業,娯楽業」については、計画停電や営業自粛、外国人観光客の減少などもあり、震災直後に大きく売上高が減少し、その後も、平成22年の水準を大きく下回っている。特に、パチンコホールやテーマパークなどの娯楽業においては1割程度平成22年の水準を下回る傾向が直近まで続いている。
教育,学習支援業
学習塾や社会教育施設などが含まれる「教育,学習支援業」については、被災地以外では、震災による需要の減少や営業時間の短縮といった影響を受けにくい産業であり、震災以降も平成22年を少し上回る水準を維持し続けてきている。
医療,福祉
「医療,福祉」については、医療業において震災直後は医薬品等の流通の滞り、計画停電や受診を手控えるなどの需要の減少がみられたが、「医療,福祉」全体では震災の影響を受けにくい特性があり、震災直後から、ほぼ平成22年ベースの売上高を維持してきており、直近では、それを伸ばしてきている。
サービス業(他に分類されないもの)
廃棄物処理業や労働者派遣業を含む「サービス業(他に分類されないもの)」については、震災直後に売上高は減少したが、その後は、平成22年を少し下回る水準程度を維持している。特に、廃棄物処理業においては、復興関連特需もあり売上高が堅調に推移している。
今回の分析は、震災から今日に至るまでの期間を大きく三つに分けて、対前年同期比で傾向を見てみました。一口にサービス業といっても、このように、産業ごとの特性は千差万別で、その動向が異なります。サービス産業動向調査により、このような動向の違いが浮き彫りになったことは意義が深いと考えています。
今回の結果についてはあくまでも試算であり、更なる分析が必要と考えておりますが、今後も、統計利用者の皆様により良い統計を提供するような試みを続けてまいりたいと考えております。
なお、サービス産業動向調査は、平成25年1月調査から、より詳細なデータを提供すべく、調査を見直します。(見直し後の調査についてはこちらを御覧ください(PDF:108KB))
調査対象の企業、事業所の皆様におかれましては、お忙しいことと拝察いたしますが、何とぞ御協力のほど、よろしくお願い申し上げます。
(平成24年9月19日)