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統計Today No.10
家計消費の実態を詳しく分析するために
− 全国消費実態調査を本年9月〜11月に実施 −
総務省統計局統計調査部消費統計課調査官 木村 正一
我が国の経済は、昨年の世界同時不況に伴う急激な景気後退の後、最近は一部に持ち直しの動きが見られるようになってきました。今後の景気動向を見極める上では、国内総生産に大きな比重を占める個人消費の動向が注目されています。個人消費の最新の動向をとらえる代表的な統計調査として、統計局が毎月実施する家計調査があり、調査結果は幅広く利用されています。
家計調査は、毎月の結果を翌月末に速報として公表しており、速報性の面に優れ、継続的な消費動向の把握に適した統計です。しかし、速報性を優先させているために標本数は約9,000世帯と比較的小さく抑えられており、世帯類型別や地域別などの詳細な分析には必ずしも十分とは言えません。このため、統計局では5年に1度、家計消費の構造的な変化をとらえることを目的として、約6万世帯という大きな標本により全国消費実態調査を実施しています。本年は11回目の調査に当たり、9月から11月までの3か月間にわたって全国消費実態調査を全国各地で実施します。全国消費実態調査の結果は、家計支出だけではなく、貯蓄・負債、耐久財の保有など家計の総合的かつ詳細な状態を明らかにし、官民問わず多方面で広く利用されています。
ここでは、過去の全国消費実態調査の結果から、家計調査では得られない興味深いものをいくつか御紹介します。
家庭における情報技術(ICT)普及の地域格差は?
近年、多くの家庭にパソコンが急速に普及していますが、普及には地域間の格差もあると言われています。では、その実態はどうなっているでしょうか。パソコンの普及率はどの都道府県で高いでしょうか。平成16年全国消費実態調査の主要耐久消費財の保有状況に関する結果で見てみましょう。
図1によると、所有数量が最も多いのは神奈川県で、1世帯当たり1.20台所有しています。これに続いて2位が東京都の1.14台となっており、大都市を含む都県が上位となっています。3位は福井県(1.14台)、4位は滋賀県(1.13台)であり、大都市を含まない県も健闘しています。また、普及率(少なくとも1台所有している世帯の割合)でみると、1位は神奈川県(77.4%)と変わりませんが、2位は愛知県(76.1%)、3位は福井県と滋賀県(共に76.0%)と若干の入れ替わりがあります。他方、1世帯当たりの所有数量が最も少ないのは沖縄県(0.53台)であり、これに長崎県(0.70台)、鹿児島県(0.74台)などが続いています。
1世帯当たりの所有数量は、最高と最低の県で比較すると、2.29倍の開きがあります。この開きが今後どのようになるのか、平成21年の結果に注目したいと思います。
ライフステージによる家計消費の変化は?
家計の消費行動は、結婚、出産、子供の進学など人生の段階に応じて変化します。家計消費は世帯のライフステージごとにどのように変化をしているでしょうか。図2のグラフは、世帯のライフステージを大まかに次の四つに分けての消費支出の費目構成を示したものです。
第1ステージ:夫婦のみの世帯(夫30歳未満) (世帯主の平均年齢27.0歳)
第2ステージ:夫婦と子供が2人の世帯(長子が未就学) (同34.0歳)
第3ステージ:夫婦と子供が2人の世帯(長子が大学生) (同50.8歳)
第4ステージ:夫婦のみの世帯(夫60歳以上) (同64.1歳)
結婚して子供が生まれるまでの「第1ステージ」の世帯では、共働きが半数以上を占めています。支出の内訳では、持ち家率が低いことから家賃などの住居費の割合が高いほか、自動車や携帯電話などの交通通信費の割合が高くなっています。子供が生まれて就学前の時期である「第2ステージ」になると、食料費と教育費の割合が上昇する代わりに、教養娯楽費やその他の消費支出など裁量的な支出の割合が低下します。また、この時期には持ち家の取得が始まり、家賃などの住居費の割合は低下しますが、その代わりに住宅ローン返済が増加します。
長子が大学に進学する「第3ステージ」は、世帯主とその配偶者は働き盛りの時期であり、1か月当たりの消費支出は四つのステージの中で最大の52万6千円に達します。そのうちで支出割合が高いのは教育費であり、支出の約3割を占めています。また、住宅ローン返済も四つのステージを通じて最も多くなっており、その逆に教養娯楽費や交通通信費の割合は最も低くなっています。次に、子供が巣立った後の「第4ステージ」では、収入額・支出額とも減少しますが、支出の中では教養娯楽費や交際費などの「その他の消費支出」の割合が高くなっています。
このように、ライフステージによって世帯の支出内容は大きく変化します。我が国は、今後更に高齢化が進み、全世帯の中で「第4ステージ」の世帯の占める割合が高まることとなります。このため、我が国全体の消費構造の変化を予測するには、「第4ステージ」に代表される高齢世帯の消費行動がどのように変化していくかを見極めることが重要となっています。前回の調査以降、ライフステージ別の消費行動がどのように変化したか、最新の結果が待たれるところです。
正確で信頼性の高い統計を作成するために
全国消費実態調査では、このほかにも家計調査では得られない家計に関する様々なデータを提供しています。詳しくは、統計局のホームページを御覧ください。全国消費実態調査は昭和34年(1959年)の第1回調査以来5年ごとに実施されており、今から50年前にさかのぼる長期の比較をすることもできます。平成21年の調査結果は、平成22年7月ごろから順次公表されます。詳細については統計局のホームページでお知らせしますので御注目ください。
全国消費実態調査の結果は、国や地方公共団体の施策に用いられることはもとより、民間企業や研究機関などでも幅広く活用されています。正確で信頼性の高い統計を作成するには、調査の対象となられた世帯から正確な御回答をいただくことが不可欠です。また、調査する側の国、地方公共団体、統計調査員などに対しては、調査内容を他に漏らすことを禁じ、これに反した場合には罰則を定めています。皆様のお宅に統計調査員がお伺いした場合には、調査の趣旨を御理解いただき、調査への御回答をお願いいたします。
(平成21年8月3日)