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統計Today No.166
サービス産業動向調査における不動産取引業の特徴について
総務省統計局統計調査部経済統計課長 上田 聖
1 はじめに
「サービス産業動向調査」は、サービス産業の売上高、事業従事者数を把握し、四半期別GDP速報(いわゆる「QE」)の基礎統計などとして活用されている統計調査で、2008年7月から統計法に基づく一般統計調査として総務省が毎月実施している統計調査です。
2020年7月に内閣府が統計委員会国民経済計算体系的整備部会に報告し、了承された「次回基準改定後のQEについて」では、「分譲住宅の販売マージン」、「非住宅不動産の売買仲介手数料」を新たに供給側推計に加える方針としています。一方、これらに対応する基礎統計となる法人企業統計の当該分野の四半期別の結果等は、数字の変動が大きいことから年報データを使用するとともに、サービス産業動向調査の事業従事者数で延長することが示されました。
今回は、このようなサービス産業動向調査の利活用先における新たな取組が提示されたことから、これを機会として、関連部門としての「不動産取引業」の特徴について紹介したいと思います。
2 不動産取引業の特徴1:年周期性が極めて強く、年度末に引渡しが多く行われる
月次統計であるサービス産業動向調査における不動産取引業の規模をみると、2019年1か月当たりの平均売上高は、サービス産業全体で32.0兆円、そのうち不動産取引業は1.2兆円で全体の3.6%を占めます(図1)。
図1 売上高の構成比(2019年)
※サービス産業動向調査2019年の月平均結果から計算
また、不動産取引業の売上高の推移をみると、季節性を伴いながら年度末に売上が計上されている様子がうかがえます(図2)。その変動の周期性を確認するために、時系列を1か月ずつ動かしながら自己相関係数を計算すると、ラグ12か月で極めて強い正の相関が観察されます(図3)。
図2 不動産取引業の売上高の推移
※2020年5〜7月分は速報値。以下同じ。
図3 不動産取引業の自己相関係数
日本では、進学、就職、転勤などが年度ごとに行われることから、3月末から4月初めに人の移動が多く、不動産分譲物件の引渡し時期も年度末の2、3月に集中している実態があり、会社によっては、売上高が第4四半期に集中することを決算書等に注記している場合もあるようです。
3 不動産取引業の特徴2:他の産業と比較し相対的に変動が大きい
産業(中分類)ごとに、それぞれの売上高規模とその月次推移の変動係数及びその月次の前年同月比の標準偏差の関係をみると、不動産取引業は、他産業(中分類)と比較しても、売上高の推移の変動係数及び売上高の前年同月比の推移の標準偏差は、売上高の規模が1兆円を超えている中分類の産業として、高い値を示していることが観察されます(図4、図5)。
図4 各産業における売上高と変動係数の関係
図5 各産業における売上高と前年同月比の標準偏差の関係
次に、サービス産業動向調査の不動産取引業の売上高の変動と、土地取引を取りまとめている国土交通省データの変動等を比較すると、両者は同様の動きを示しながら大きく変動していることから、調査個別の特性ではなく、そもそも不動産取引業自体が、取引や売上の計上について大きな変動を持っている産業であることが推察されます(図6、図7)。
図6 不動産取引業等の推移(2015年=100として指数化)
注1:経済産業省「第3次産業活動指数」時系列データ原指数「不動産取引業」
・・・「新築戸建成約件数(首都圏)(公財)東日本不動産流通機構」、「マンション全売却戸数(首都圏)(株)不動産経済研究所」、「土地成約件数(売り物件:全国)(公財)不動産流通推進センター」等より作成
注2:国土交通省「不動産取引面積」
・・・「戸建住宅」、「マンション(区分所有)」、「店舗」、「オフィス」、「倉庫」、「工場」及び「マンション・アパート(一棟)」の7区分の取引面積(所有権移転登記情報より)の合計
図7 サービス産業動向調査と不動産取引面積データの散布図
4 まとめ
ここまで、他統計も含めて不動産取引業に関連するデータをみてきました。その結果、
- 不動産取引業の売上高は、年間で1.2兆円と、他の中分類レベルの産業と比べ比較的規模が大きく、進学、就職、転勤等の人の移動が伴う年度末に取引が行われることから、年度末期に売上が多く計上され、そしてその影響を受け、自己相関係数を計算すると非常に高い数値が計測され、極めて高い周期性を持っている
- 加えて、他産業と比較して月々の変動も併せて大きく、推計や加工統計を作成する際、特に留意が必要な分野である
などの特徴が確認できました。これらの特徴を踏まえると、不動産取引業は月次推計に細心の留意が必要である産業であることが分かります。
最後にサービス産業動向調査の全体についての状況です。この調査結果の速報は調査対象期間の翌々月末に公表していますが、他の景気指標となる統計と比較して公表が遅くなっていることから、利用者から早期化を望む声も出ていると承知しています。また、一般統計調査であることから、速報段階での回収率はその他の基幹統計調査に比べるとどうしても劣ってしまいます。
この統計の利活用をより促進するために、更に改善する必要があると考えており、それに向けた努力が必要と認識しています。
(令和2年10月15日)