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統計Today No.162
新型コロナウイルス感染症で変わるネットショッピング
−家計消費状況調査の結果から−
総務省統計局統計調査部消費統計課消費指標調整官 石原 秀男
はじめに
新型コロナウイルス感染症による外出や営業の自粛などにより本年5月の家計調査結果による消費支出(二人以上の世帯)は、一年前に比べ、名目、実質共に16.2%と大きく減少しました。これは比較可能な2001年1月以降で最大の落ち込みです。6月の消費支出は、緊急事態宣言が5月に解除されたことに加え、特別定額給付金などが消費を後押しし、5月に比べて減少幅が大きく縮小しましたが、新型コロナウイルス感染症の影響が依然として見られます。一方で、外出自粛によりネットショッピングの需要が高まっていると言われていますが、具体的にはどうなっているのか御存じでしょうか。本稿では家計消費状況調査の二人以上の世帯の結果に基づき、ネットショッピングの現状について、過去からの推移を交えて紹介します。
1 感染症がネットショッピングの普及を後押し
まずネットショッピング利用世帯の割合の推移を2017年から見てみると、2019年9月までは前年同月に比べて5ポイント程度高い水準で推移していましたが、その後は前年同月とほぼ同じ割合となり、ネットショッピングの普及に頭打ち感が見られました。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言が発出された2020年4月以降は再び上昇し、5月には50.5%と調査を開始した2002年以降初めて5割を超えました。緊急事態宣言解除後の6月も50.8%と高水準を維持しており、一過性の事象ではないことが見て取れます。(図1)
図1 ネットショッピング利用世帯の割合の推移
(二人以上の世帯、2017年1月〜2020年6月)
2 高齢世帯主世帯でもネットショッピングが当たり前に
続いて、世帯主の年齢階級別にネットショッピング利用世帯の割合の推移を見てみると、65歳以上の世帯の利用のみが伸びが鈍く、特に2019年はほぼ横ばいで、全体の割合の増加を抑制する要因になっていました。ところが、新型コロナウイルス感染症下においては、65歳以上の世帯においても27.1%(4月)、30.3%(5月)と著しく伸び、これが全体の伸びにも寄与し、6月に入っても他の年齢階級とは異なり、31.2%と上昇を続けています。
このように今や高齢世帯主世帯でも3割の世帯がネットショッピングを利用するようになり、ネットショッピングが当たり前の時代になりつつあることが分かります。(図2)
図2 ネットショッピング利用世帯の割合の推移(世帯主の年齢階級別)
(二人以上の世帯、2017年1月〜2020年6月)
3 広がるネットショッピングの用途 〜旅行・チケット以外の使い道も〜
次に、ネットショッピングの支出額(1世帯当たり1か月間のネットショッピングの支出総額)の推移を見てみると、ほぼ毎年増加を続け、2017年1月の10,534円から2020年1月は14,336円となり、36.1%増となっています。緊急事態宣言が発出された4月以降は、更に増加を続けており、14,622円(4月)、15,873円(5月)、17,252円(6月)となっています。(図3)
図3 ネットショッピングの支出額の推移
(二人以上の世帯、2017年1月〜2020年6月)
品目別に見ると、これまでは旅行関係費とチケットの支出が多く、両者を合わせて、ネットショッピングによる支出額の3割弱を占めていました(2019年平均で28.5%)が、感染症を機に、外出自粛やイベントの開催制限等でこれらは減少し、一方で家電、婦人用衣類、健康食品、化粧品など幅広い品目で支出が伸びており、6月も増加の勢いを維持しています。また、6月には緊急事態宣言の解除に伴い旅行関係費とチケットにも回復の兆しが見えており、今後ネットショッピングの支出は更に伸びる可能性があります。(図4)
図4−1 家電 図4−2 婦人用衣類
図4−3 健康食品 図4−4 化粧品
図4−5 旅行関係費 図4−6 チケット
終わりに
このように新型コロナウイルスの感染拡大による外出自粛、在宅勤務の増加等により、ネットショッピングの利用状況には大きな変化が見られました。また、緊急事態宣言解除後の6月においてもネットショッピングを利用する世帯の増加基調は変わらず、年齢階級による違いもあまり見られないことなどから、支出金額においても更に増加する可能性があります。
今回御紹介した家計消費状況調査は、インターネットを利用した購入状況を把握するだけでなく、家計調査を補完し、購入頻度が少ない高額商品・サービスの消費等の実態を安定的に捉えることも目的とした非常に有用な調査です。家計調査のみならず、家計消費状況調査にも御注目いただくとともに、家計消費状況調査の実施に当たりましては、是非とも御協力いただけますようよろしくお願いいたします。
(令和2年9月7日)