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統計Today No.108
食料への支出の変化を見る
(平成26年全国消費実態調査の結果から)
総務省統計局統計調査部 消費統計課長 栗原 直樹
家計消費に関する基幹統計調査としては、毎月の消費の動向を把握することを目的とした家計調査に対し、5年に一度、家計調査の約6倍のサンプル数で消費の構造などを詳細に把握することを目的とした全国消費実態調査(最新の調査は平成26年(2014年)に実施)があります。
全国消費実態調査の結果を時系列的に見ることで、世帯による消費支出の構造的な変化を知ることができますが、今回、世帯による消費の中でも、最も生活に密着した費目である食料への支出に着目して、具体的にどのような変化が見られるか確認してみたいと思います。
消費支出に占める食料の割合の推移
平成26年の調査結果では、二人以上の世帯の1か月当たりの消費支出は292,882円であり、このうち食料への支出は72,280円で、消費支出全体に占める割合(エンゲル係数)は24.7%です。
このエンゲル係数の推移を見ると、平成元年から平成16年にかけて低下していましたが、平成21年以降上昇しています。これは、エンゲル係数が、世帯主が60歳以上の高齢の世帯では高い傾向があるため、高齢化に伴って高齢の世帯の割合が上昇※していることなどが全体のエンゲル係数の上昇にも関係しているものと考えられます。(図1)
※平成26年全国消費実態調査においては、二人以上の世帯における、世帯主が60歳以上の世帯の割合は48.4%と全体の5割近くを占めている。
図1 エンゲル係数と世帯主が60歳以上の世帯の割合の推移(二人以上の世帯)
※世帯主が60歳以上の世帯の割合は、全国消費実態調査の二人以上の世帯における割合
食料への支出の中での構成割合の変化
次に、食料への支出について、費目別の内訳(構成割合)の変化について見てみます。
10年前(平成16年調査。以下同じ。)と比べると、主に調理食品、外食、肉類などで割合の上昇が見られます。(表1)
表1 食料への支出の内訳(二人以上の世帯)
肉類への支出は増加傾向
まず、肉類への支出について、二人以上の世帯における世帯主の年齢階級別に購入状況(食料費に占める割合)を見てみます。ここでは対比のため、魚介類の状況と比較して考察してみます。(図2、図3)
肉類については、年齢階級間での割合の差は余りありませんが、10年前と比較して、各年齢層で購入割合は上昇しています。一方、魚介類は、年齢の高い階級ほど割合は高くなっていますが、10年前との比較では、各年齢階級とも割合が低下していることが分かります。
図2 世帯主の年齢階級別に見た食料への支出に占める肉類の割合(二人以上の世帯)
図3 世帯主の年齢階級別に見た食料への支出に占める魚介類の割合(二人以上の世帯)
※肉類は生鮮肉や加工肉を、魚介類は生鮮魚介、塩干魚介、魚肉練製品、魚介加工品等をそれぞれ指す。
調理食品への支出の内容
次に、調理食品について、具体的にどのようなものが購入されているのか、10年前と構成割合の変化を見てみます。(表2)
米類、麺類、パン類などの「主食的調理食品」は0.7ポイント上昇しています。そのうち「弁当」(幕の内弁当、焼き肉弁当、駅弁などごはんとおかずがセットで売られているもの)、持ち帰りの「すし(弁当)」等の割合はやや低下している一方で、「おにぎり等」、「調理パン」や「他の主食的調理食品」の割合が上昇しています。
また、ごはんのおかずなどの「他の調理食品」は、「冷凍調理食品」や「そうざい材料セット」などの割合の低下により全体としては0.7ポイント低下していますが、各種そうざいやレトルト食品等を含む「その他」は2.8ポイントの大きな上昇となっています。
最近はスーパーやコンビニエンスストアなどでも、弁当だけではなく、小分けにしたいろいろなそうざいも売られているなど多様なニーズに対応した商品がそろえられています。また、レトルト食品なども豊富な品ぞろえとなっているなど調理食品自体が多様化し、利用しやすくなっていることが、構成割合の変化にも影響しているように思われます。
表2 調理食品への支出の構成割合の変化(二人以上の世帯) (%、ポイント)
※1 焼きそば、中華まんじゅう、たこ焼き、主食となるレトルト食品なども含む。
※2 各種そうざい(コロッケ、天ぷら、トンカツ、焼き鳥、サラダ、餃子、蒲焼き等)や、主食以外のレトルト食品などを含む。
調理済みの食料の利用は高齢世帯でも増加
今度は、食料について、「素材となる食料」、「調理済みの食料」、「外食」などの形態別に分け、世帯主の年齢階級別にその構成を見てみます。(表3)
30歳代以下では「素材となる食料」が4割未満である一方、外食は約4分の1を占めています。一方、60歳以上では「素材となる食料」が5割を超え、外食は1割台と若年層よりも大分低くなっています。また、「調理済みの食料」は各年齢階級でおおむね2割前後と、年齢階級間の違いは相対的に小さくなっています。
5年前(平成21年調査)と比べると、「素材となる食料」は全ての年齢階級で割合が低下しています。一方、「調理済みの食料」については、全ての年齢階級で割合が上昇しており、上昇幅は60歳代の高齢世帯において2.3ポイントと最も大きくなっています。
表3 世帯主の年齢階級別に見た食料への支出の形態別構成割合(二人以上の世帯)
なお、同様の構成割合を世帯主のみ働いている世帯と夫婦共働き世帯について比較してみますと、共働き世帯の方が「素材となる食料」の割合が低く、「調理済みの食料」や「外食」の割合が高くなっています。(図4)
共働き世帯の増加なども調理食品などの割合の上昇に寄与しているものと見られます。
図4 世帯主のみ働いている世帯・共働き世帯別に見た食料への支出の形態別構成割合(二人以上の世帯)
最後に
今回、全国消費実態調査の結果から、世帯における食料への支出の変化を見てみました。
社会の高齢化が進む中で、高齢世帯でも調理食品の利用が増加していることなど一定の変化を伺い知ることができたように思います。今後は、高齢者の方のニーズに沿った商品をいかに提供していくかが消費の拡大という面からも課題となるように思われます。
このように、全国消費実態調査を利用することにより、世帯による消費活動について詳細な属性別の分析等が可能となり、国民生活や社会の構造的な変化を理解するヒントが得られるかもしれません。引き続き全国消費実態調査への御理解と御協力をよろしくお願いいたします。
(平成28年4月28日)