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統計Today No.98
消費者物価指数の2015年基準改定に向けて
総務省統計局統計調査部消費統計課物価統計室長 上田 聖
はじめに 〜「経済の体温計」といわれる消費者物価指数〜
消費者物価指数は、全国の世帯が購入する商品やサービスの価格変動を、総合的に測定するもので、「経済の体温計」といわれる重要な指標です。総務省統計局は、小売物価統計調査の結果などから、消費者物価指数を毎月作成し、その結果を公表しています。
現在、消費者物価指数は、金融政策において目標指標の一つとされており、経済政策を推進する上でもエコノミストや報道機関などを含め社会的に大きな注目を集めています。また、国民年金や厚生年金などの物価スライド、重要な経済指標を実質化するためのデフレーターや物価連動国債の想定元金額(元金が物価の動向に連動して増減した後の金額)の算定に利用されており、さらには賃金・家賃・公共料金の改定の際の参考指標にも使われるなど、官民を問わず幅広く活用されています。私(著者)は毎月の記者発表を行っていますが、重要指標であり注目度も高いので緊張感を持って対応しております。
消費者物価指数の2015年基準改定に向けて
このように重要な指標である消費者物価指数については、これまで、その精度の維持・向上を図る観点から、5年に1度、西暦年の末尾が0又は5の年に指数の基準年次を更新する「基準改定」を行い、併せて、採用する品目やウエイトなどを見直し、公表する系列の拡充などを実施しています。
現在、総務省統計局は、平成28年(2016年)に予定している消費者物価指数の改定(現行の2010年基準から2015年基準への移行)に向けて、見直し作業を進めており、今般、改定の主な内容及び指数作成上の基本方針である「消費者物価指数2015年基準改定計画(案)」を作成し、公表いたしました。現在、当該計画について、国民の皆様の意見を反映するため、以下のアドレスにて8月21日までパブリックコメントを実施しています。是非皆様の御意見をお寄せください。
http://www.stat.go.jp/data/cpi/public/index.htm
皆様にこの計画案を少しでも理解いただき、多くの意見が頂けるよう、この基準改定計画案のポイントを幾つか紹介いたします。
(1)採用品目の改廃
消費者物価指数に採用する品目は、一般の世帯が購入する財・サービスから支出の多いものを選定しています。具体的には総務省統計局が行う家計調査において全国の調査世帯から提出された家計簿において支出の多い品目を選び、最新の消費実態を反映するようにしています。現在の基準(2010年基準)では、588の品目を選定して消費者物価指数を作成しています。
今回の基準改定計画案では、売上げが急増している「コンビニエンスストアのセルフ式コーヒー」、高齢化の進展を背景とした「補聴器」、あるいは、ジョギングブームを反映した「競技用靴」やペットブームを背景とした「ペットトイレ用品」など、家計の支出割合が多くなった33品目を追加しています。
一方で、少子化の影響などから「お子様ランチ」や「筆入れ」、普及が進み標準装備化されるようになった「ETC車載器」など32品目を廃止する予定です。具体的な追加、廃止品目は、本計画案の5・6ページを御覧ください。
http://www.stat.go.jp/info/guide/public/cpi/pdf/150717_1.pdf(PDF:823KB)
(2)調査銘柄の常時見直し
基準改定計画案では、基準改定の内容に加えて、今後の指数作成の方針についても示しております。ここで、その一つを御紹介します。
消費者物価指数は、580余りの品目の価格の値動きから作成されます。ここで、例えば、一つの品目「テレビ」の価格を調べることを想像してみてください。テレビは42型もあれば32型もあり、4K、ハイビジョンなど多種多様な商品が存在しています。この多種多様な商品を全て調査することは現実的ではありません。そのため、総務省統計局では、現在、テレビのうち最も売れ筋である「32型、薄型ハイビジョン、チューナー内蔵」を『調査銘柄』として指定し、この調査銘柄に該当する商品を「テレビ」として調査して指数を作成しています。
しかしながら、企業戦略や世帯の消費行動は変化し、売れ筋の移り変わりもあることから、これに対応して調査銘柄の常時見直しを行っていかなければなりません。このため総務省統計局は年間で延べ100件ほどの銘柄の変更を行っています。本計画案においても、引き続き、この調査銘柄の見直しを随時適切に行うこと、そして付属資料では「常時、出回りの状況をチェックし、年に複数回は全品目のシェア等を確認し、また、メーカーなどにも直接聞き取りを行って、必要な調査銘柄の変更(銘柄改正)を適時適切に行う」と宣言し、確実に売れ筋を調査することで的確な消費者物価指数を世に送り出すことができるよう、取り組むこととしています。
(3)品質調整の適切な実施
調査銘柄を随時適切なものに変更する取組は、調査銘柄の変更時に品質の変化分による価格変動を除去した純粋な価格変動を消費者物価指数に反映させる取組とセットで実施することによって、適切な消費者物価指数が作成されます。
私たちは、物価統計の専門家として、これまで蓄積した専門知識と経験を駆使し、銘柄改正に伴う品質変化の影響を除去するため、オーバーラップ法、容量比による換算、単回帰式を用いた換算、オプションコスト法、インピュート法、ヘドニック法及び直接比較のうち最適な手法を個々の銘柄改正ごとに選択し、品質調整を適切に実施して、純粋な価格変動を捉えるよう不断の努力を行っており、本計画案においてもその努力を続けることを明示しています。
今後の予定
パブリックコメントで寄せられた皆様の御意見、関係府省庁などの意見、統計委員会における議論の結果などを踏まえ、本年11月に基準改定計画を確定し、当該計画に沿って準備を進め、平成28年7月中旬に新基準(2015年基準)のウエイトの公表、同年8月中に平成27年1月〜6月までの新基準指数を公表し、同月下旬に公表する平成28年7月分(全国)の指数公表から2015年基準指数に移行します。
おわりに
総務省統計局は、統計を作成する専門機関として、今回の改定や今後の取組を通じて、消費者物価の測定精度の維持向上と物価指数の有用性の確保を図り、消費者物価指数に期待される公的統計としての役割を十分に果たせるよう、より質の高い統計を適時的確に提供していくことを目指してまいります。
(平成27年7月30日)