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統計Today No.56
新展開を迎える東アジア各国の統計−東アジア統計局長会議について
総務省統計局総務課長 水上 保
総務省統計局では、平成24年11月5日から7日にかけて、東アジア諸国の中央統計機関の責任者を集め、東アジア統計局長会議を開催しました。参加国は、メンバーとして、ASEAN諸国(カンボジア、インドネシア、ラオス、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)のほか、中国、韓国、モンゴル、日本が、またオブザーバーとして、オーストラリア、香港、ニュージーランド、SIAP(国連アジア太平洋統計研修所)、IAOS(国際公的統計協会)等が参加しました。
議題は、経済統計(経済センサス、ビジネスレジスター)、2010年ラウンド人口・住宅センサスの実施状況、各国統計局における課題の3つで、これらについて、8つのセッションが催され、参加国によるプレゼンテーションの後、議論を行いました。日本からも、経済統計のセッションの中で、主として本年2月に実施した経済センサスに関するプレゼンテーションを行い、また各国統計局の課題のセッションの中で、的確な統計の提供や効率化、調査への協力確保、調査結果の有効活用等についてのプレゼンテーションを行いました。
また、5日には、総務大臣主催のレセプションが催され、樽床大臣も挨拶の後、各国の参加者とも親しく懇談を行いました。



参加した各国は、人口、経済規模などの国情に多様性があり、統計に関する歴史も様々ですが、活発な議論を通じて、共通の課題が浮かび上がり、有意義な討論が行われたところです。
共通の課題の一つとしては、統計制度や統計に関する計画の策定・見直しが挙げられます。例えば、フィリピンにおいては、2007年に専門家特別委員会により統計制度見直しの提言がなされ、現在立法府に法案が提出され、審議されています。この法案で、新組織として次官レベルの国家統計官を長とするフィリピン統計庁が設置され、センサス、分野ごとの統計、行政情報システムの統合、国民経済計算の取りまとめを所掌することになっています。また、調査の正確性の確保を図るため、回答義務への違反について、罰則の強化を図っている旨の説明がありました。そのほか、タイ(2007年)、カンボジア(2005年)で法の整備・改正がなされ、ラオスにおいても新統計法の制定が計画されているとのことでした。
一方、統計の整備・発展のため、計画を策定している国も多く、カンボジア、ベトナム、タイから、説明がなされました。とくにタイからは詳細な説明がありましたが、2011年から2015年を計画期間とする計画が策定され、国家統計委員会によって、その執行が監督されています。計画の成果として、公的統計のデータベースの確立、個別の公的統計の責任の明確化、データの統合・連係のシステムの創設、統計組織及び必要なリソース確保のための計画の推進等が挙げられ、究極の成果としては、「この国が、証拠に基づく(evidence-based)政策、意志決定を支援する公的統計のセットを持っている」ということであるという説明がありました。
日本においても、公的統計の整備に関する基本計画の改定が予定されるだけに、各国の取組は参考になるものでした。
第二の点は、行政情報の活用です。統計調査を代替・補完する手法としての行政情報の活用は、広く行われており、多くの国からその説明がありました。税務データについても、フィリピンで企業フレーム構築に使われるなど、利用されている例が見られました。都市国家で住居の移動が把握しやすいシンガポールにおいては、調査環境の悪化に対応して、個人識別番号と住所データという行政データを、センサスにおいて活用しており、基礎的データを行政データから集計し、より詳細な質問を標本調査でしているとのことです。また、将来的な戦略としては、韓国においても、レジスターベースのセンサスの採用や、行政データを用いた新規の公的統計の発展等が考えられているとのことです。そのほか、オーストラリアにおいて、2017年までに行う変革の一つとして、様々な行政データや統計データを統合し、統計・研究目的の新たなデータ群を作成するという方針が述べられました。これについては、調査の経費節減、研究・政策形成等の進展等のメリットがある反面、社会で受容されるか、経費等の課題があるとのことです。
一方、議論を通じて、行政データは、特定の目的のためのものであり、そこに入らない対象が存在するなど、データの品質確保が問題であることが明らかになり、活用に当たっては、データの収集・品質確保の枠組みを作っていく必要がある旨の意見が出されました。また、データ活用のための関係省庁間の連係の仕組みにも多くの関心が集まり、「繰り返し協力を求める書簡を出す」など苦労して、データ収集を行っている旨の発言もありました。
第三の点は、オンライン調査の推進です。これについても多数の国で取組がなされています。オーストラリアでは、2011年センサスでは、約3割の世帯がオンラインで回答をしているが、メディア・イベントなどで広報を行うとともに、インターネットでアクセスすれば簡単にできるよう、シンプルな操作を心掛けたとのことです。同国では、2016年のセンサスでは、メールでの回答を予定し、紙媒体での回答を希望する場合は申込みを必要とする方針です。オンライン調査の拡大方策については、各国の関心が高く、活発な議論がなされ、韓国からは、オンラインでの調査への回答を学生の奉仕活動時間とした旨の説明がありました。
これら3点のほか、経済センサスやビジネスレジスター、人口センサスの実施状況についても、様々な議論がなされましたが、ニュージーランドにおいて、カンタベリー地震を受け、2011年センサスの延期に踏み切った経緯の説明は、同じ地震国である日本にとって、参考になるものでした。
会議全体を通じて、証拠に基づく(evidence-based)政策形成や意志決定のための公的統計の重要性の認識が広く共有され、意識されていること、またその認識を踏まえ、各国で正確な統計の作成やデータの有効活用などのため様々な取組が行われていることが明らかになりました。一方、効率化に対する要請は強く、行政データの活用、オンライン調査の推進を始め様々な取組がなされている状況も判明したところです。大臣のレセプションにおける挨拶でも、「現在の国勢を詳明せざれば政府すなわち施策の便を失う」という大隈重信公の言葉が引用されましたが、本会議は、各国の参加者にとって、そのような統計の重要性を再認識し、今後の業務を進める重要な参考となる情報を得る機会となったのではないでしょうか。
こういった国際会議の開催は、情報交換を通じ、今後の施策の参考とする貴重な機会であるとともに、我が国の国際社会におけるプレゼンスを高めるいい機会でもあると考えています。今後とも、総務省統計局においては、積極的に統計に関する国際会議の開催を行っていきたいと考えています。
(平成24年12月6日)