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統計Today No.30
公的統計の二次利用のサービスの充実に向けて
総務省統計局統計調査部調査企画課長 水上 保
匿名データの提供とオーダーメード集計の開始
公的統計は、広く国民に利用される「公共財」といわれ、平成19年5月に全面改正された統計法では、「国民にとって合理的な意思決定を行うための基盤となる重要な情報」であるとしています。この統計法の改正以前は、基本的に国民は、行政機関が作成・公表した規定の集計表しか利用できませんでしたが、改正によって、学術研究・高等教育の発展に資すると認められる場合等に、匿名性を確保した調査票情報を提供したり(匿名データの提供)、一般からの委託に応じて新たな集計表を作成・提供する(オーダーメード集計)、新たな統計データの利用制度が整備されました。
総務省統計局におけるサービスの提供とその範囲の拡大
匿名データの提供は、統計調査から得られた調査票情報について、調査客体が特定されないように加工を施した上で、学術研究を行う研究者等に提供するものです。オーダーメード集計は、既存の調査票情報を活用して、調査実施機関等が申出者からの委託を受けて、そのオーダーに基づいた新たな統計を集計・作成し、提供するものです。これらのサービスは、平成21年4月に開始され、研究者からも注目を集めています。総務省統計局においても、制度発足当初からサービスを提供してきましたが、今後、対象とする統計調査の範囲を更に拡大することを予定しています。
総務省統計局でサービスの提供の対象としている統計調査及び今後の拡大の予定は以下のとおりです(詳細については、http://www.stat.go.jp/info/tokumei/index.htmも御覧ください)。
なお、これらのサービスの提供は、独立行政法人統計センター及び統計センターと連携協力協定を締結した一橋大学などの学術研究機関等から行われます(統計データアーカイブの運営http://www.nstac.go.jp/services/archives.html参照)。
匿名データの提供内容
オーダーメード集計の提供内容(今後の予定を含む。)
また、匿名データについても、労働力調査を対象とするなど、対象の拡大に向けた準備を進めているところです。
統計センターにおいては、統計局だけでなく、内閣府、文部科学省、厚生労働省、国土交通省などの統計調査についても、オーダーメード集計を行っています。
二次利用の利用状況
二次利用の制度が発足してから1年半ほどになりますが、この間の利用状況を総務省統計局の所管の統計調査についてみると、平成21年度は匿名データ20件、オーダーメード集計4件の利用でしたが、22年度は4〜9月までの6か月間で匿名データ20件、オーダーメード集計3件と、利用件数が増加傾向となっていることが見て取れます。また、平成22年9月までの匿名データの提供実績を統計調査別にみると、就業構造基本調査が15件、全国消費実態調査が15件、社会生活基本調査が14件、住宅・土地統計調査が1件となっています(1件の申出で複数の統計調査のデータの提供を受ける場合があるため、合計した数は、利用件数と一致しません。)。
利用件数がまだまだ少ないという指摘もありますが、諸外国の事例をみると、最初は年間10件程度の利用だったものが、学会等で発表された研究成果を見て、「私も使ってみよう」と他の研究者が利用することにより年々利用件数が増えていく、という例が多く、総務省統計局としても今後の拡大を期待しています。
なお、制度の発足以前に、一橋大学経済研究所社会科学統計情報研究センターにおいては、総務省統計局との共同研究事業として、平成16年度から20年度にかけて「学術研究のための政府統計ミクロデータの試行的提供」のシステムを構築し、試行的運用を実施してきたところです 。
この試行運用におけるミクロデータ提供について利用者アンケートの結果をみると、「多くの研究者に平等に研究の機会を与えることは非常によい」、「ミクロデータの分析が可能になることは、日本の研究発展に大きな役割を果たす」といった感想が寄せられており、二次利用についての期待の大きさがうかがわれます。
今後の展望
既に述べたように、総務省統計局においては、サービスの対象とする統計調査の拡大に努めているところです。
研究者からは、研究の必要に応じ、簡易な手続でより柔軟に集計ができる制度が要望されています。このような要望に対応するため、利用者が、情報の秘匿のため一定の厳格な情報管理の条件が整った施設において、集計を行うオンサイト利用の仕組みが考えられており、今後研究機関とも連携しつつ、その在り方を検討することが必要になっています。
統計調査の二次利用は、我が国の学術研究の発展のために重要なものであり、また、政策の根拠となるべき統計データが利用可能になることで、政策立案プロセスの透明性を高める意義を持っているといえます。一方、統計の信頼性を確保していくためには、個人情報の厳格な秘匿を確保することが必要です。二次利用については、今後、オンサイト利用なども含め、適切な情報管理を図りながら、より利用しやすい制度としていくことが必要であると考えています。
(平成22年11月5日)