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統計Today No.7
統計調査と個人情報保護
総務省統計局統計調査部長 小暮 純也
1.個人情報保護法の「過剰反応」
(「過剰反応」と平成17年国勢調査)
平成17年4月に個人情報保護法(個人情報保護委員会)が全面施行されましたが、個人情報保護法に対する誤解やプライバシー意識の高まりを受けて、学校の緊急連絡網が作れない、災害時要援護者リストの作成が進まないなどの、いわゆる「過剰反応」が起きています。残念ながら、統計調査も、この過剰反応と無縁ではありません。特に、個人情報保護法の全面施行直後に実施した平成17年国勢調査には影響が大きく、個人情報保護法を理由に、調査に協力が得られないケースも出てきてしまいました。
(個人情報保護法の誤解)
ところで、過剰反応は、個人情報保護法の何を誤解したためなのでしょうか。それは、個人情報保護法の目的そのものです。目的は制度の根幹となるものですから第1条に規定されていますが、そこでは、「個人情報の有用性に配慮しつつ、個人の権利利益を保護することを目的とする」とされています。つまり、個人情報保護法は、個人情報の保護に重心は置きつつも、個人情報の利用が豊かな国民生活の実現に資するものであるとの側面に配慮すること、すなわち、個人情報の有益な活用とのバランスを取ろうとするものです。そして、この目的に従って、両者のバランスを適切に取りながら、具体の個人情報保護法制が構築されているわけです。これらを正しく理解しないで、個人情報を保護する側面ばかりを強調したために、個人情報の有益な活用が行われないのが、過剰反応ということになります。
(対策とプライバシー意識への配慮)
それでは、統計調査に関する過剰反応に対してはどうしたらよいのでしょうか。まずは、個人情報保護法を、目的を始めとして、正しく理解してもらうことだと思います(これは、個人情報保護担当の取組にも期待したいと思います。)。あわせて、統計調査は、統計法(総務省)で「国民経済の健全な発展及び国民生活の向上に寄与すること」を目的とされていることについて、しっかりと理解してもらうことも必要だと思います。
そして、統計調査と個人情報保護法制との関係を理解してもらい、統計調査に係る個人情報が適正に管理されていることを分かってもらうことが大事です。個人情報の管理についての不安をなくすことが、プライバシー意識の高まりへの何よりの対策になると思います。
2.統計調査と個人情報保護法制との関係
(個人情報保護法制)
実は、個人情報保護法制は、個人情報保護法だけで成り立っているのではありません。
個人情報保護法は、官民を通じた個人情報保護の基本理念などを定めた、基本法としての部分と、基本法部分を踏まえて民間事業者の遵守すべき義務など民間部門の個人情報取り扱いのルールを定めた、一般法としての部分とで構成されています(一本の法律の中に基本法部分と一般法部分が併存する珍しい法律です。)。
では、公的部門の個人情報取扱いのルールは、どこに定められているのでしょうか。国については行政機関個人情報保護法(e-Gov)で、独立行政法人等については独立行政法人等個人情報保護法
で、地方公共団体については個人情報保護条例で、それぞれ定められています。これらは、個人情報保護法の基本法部分を踏まえて、一般法として定められているものです。ただし、税法など個別の法律で個人情報保護のより適切な取扱いが定められているときは、行政機関個人情報保護法などを適用せず、個人情報保護法の基本法部分を踏まえて個別の法律の中で個人情報を保護しているものがあります。
(統計調査に係る個人情報の厳格な管理)
それでは、統計調査に係る調査票情報に含まれる個人情報取扱いのルールはどうなっているのでしょうか。御存知の方も多いと思いますが、個人情報保護法ができる前から、統計法では統計調査の個人情報保護の仕組みがしっかりとありました。このため、統計調査により集められた個人情報の取扱いについては、統計法の第52条で一般法である行政機関個人情報保護法と独立行政法人等個人情報保護法を適用除外して、統計法の中で、個人情報保護法の基本法部分を踏まえた厳格な措置が講じられています。
このように、統計調査に係る個人情報は、個人情報保護法制定前から適正に管理されていましたし、個人情報保護法制定後は、基本法部分を踏まえて、なお一層厳格に管理されています。
例えば、統計調査員(総務省)や統計調査に従事する職員に重い守秘義務が課せられています(守秘義務違反には、2年以下の懲役又は100万円以下の罰金が処せられます。)。また、集められた調査票は、外部の目に触れないように厳重に管理し、集計が完了した後は溶解処分しています。
(基幹統計調査の報告義務)
なお、基幹統計調査には報告義務が課せられています。これは、その重要性から特に正確な報告が必要なためですが、それだけではなく、厳格な個人情報保護措置が講じられているために、ためらうことなく罰則で担保された法律上の義務を課しているのだと思います。
(信頼関係を築くために)
統計調査は、国民の皆様と調査に携わる者との信頼関係を基盤として成り立ち、そして、発展してきたものです。
この観点から、統計調査に携わる者には、統計調査と個人情報保護について、丁寧な説明が求められていると思います。
そのためには、まず、「統計調査により集められた個人情報は、統計法によって厳格に保護されている」ことを知っていただくよう努めていきたいと思います。国民の皆様に安心をしていただき、かつ、信頼をしていただくことが何よりです。
また、統計調査と個人情報保護法制との関係や、統計の重要性、報告義務の背景なども理解して信頼いただけるよう、効果的な説明を、引き続き行ってまいりたいと思います。
皆様の御理解をよろしくお願いいたします。
(平成21年6月4日)