AI政策の最前線
戦略、実践、国際。理工系事務官が描く未来
最上 桂
平成22年入省
内閣府
科学技術・イノベーション推進事務局
人工知能政策推進室
参事官補佐
内閣府
科学技術・イノベーション推進事務局
人工知能政策推進室
参事官補佐
松村 陽平
令和元年入省
デジタル庁
参事官補佐
併任 内閣官房
デジタル行財政改革会議事務局
参事官補佐
デジタル庁
参事官補佐
併任 内閣官房
デジタル行財政改革会議事務局
参事官補佐
河原 里佳
令和3年入省
総務省
国際戦略局
国際戦略課
AI政策推進室 主査
総務省
国際戦略局
国際戦略課
AI政策推進室 主査
日本初のAI国家戦略、
その中核を担う
- 松村
-
ここ最近、理工系のキャリアの幅が統計行政以外にも大きく広がってきましたね。今日はAI関連業務に携わる3者の対談ということで、日本のAI政策のまさに最前線の話を伺えるのが楽しみです。
- 河原
日本では、まさに昨年末にAI基本計画が閣議決定されましたよね。最上さんが担当されたと伺いましたが、そもそもどのような経緯で始まったのですか?- 最上
一言で言えば、危機感だね。AIは国力を左右する存在と言っても過言ではないにもかかわらず、日本の投資規模は主要国はもちろん、経済規模が小さい国にすら後れを取っている。それに、人手不足をはじめ社会課題が山積する日本こそ、世界に先駆けてAIと向き合うべきなのに、利活用も進んでいないんだよね。今やらなくていつやるんだという思いが中心。- 河原
なるほど、ではAI基本計画はどういった戦略でその状況の巻き返しを図るとしているのでしょうか。- 最上
良い質問。この計画の肝は「利活用と技術革新の好循環」をいかに生み出すかにあるんだ。だからこそ、国民の皆さまに「まず使ってみる」という機運をいかに醸成するか。だから「隗より始めよ」で、政府自らが積極的にAIを活用するということをいの一番に掲げたんだよね。政府職員の普段使いを定着させて、AIの意義を体現し、社会に浸透させるきっかけを作っていければいいなと。- 松村
タイムリーなんですが、実は私、ちょうど今AI活用を実践しているんです。
生成AIで広がる
「できること」の可能性
- 最上
-
おお、是非詳しく教えてよ!
- 松村
-
現在、各府省が作成するテーブルデータの機械可読性を高めるためのルール作りをしています。行政データは信頼性が高いため、AIの学習ソースとして使えるようになれば、より有用な回答が得られるとともに、ハルシネーションの抑制にもつながると考えられるからです。ルールの策定に際して、実効性を担保するためにExcelやCSVファイルの機械可読性をチェックするツールを開発中です。私自身が作成しているのですが、コーディングには生成AIをフル活用しています。
- 河原
-
えっ、松村さんご自身が作成しているんですか。
- 松村
-
そうなんです。私自身プログラミングは少し齧った程度で、動くアプリを一から十まで書くなんてとても、という感じでした。ところが生成AIの登場でこうしたアプリ開発までできるようになり、実現可能な業務範囲が一気に広がった印象を受けています。
- 最上
いやいや、技術が進歩したからといって、一朝一夕にできるもんじゃないからね、素直にすごいよ。それにしても、私が入省した当時は、AIを使って仕事を進めるなんて想像もしていなかったな。こうした事例を政府全体に広めていきたいね。
日本発の国際枠組みを世界へ
- 松村
-
AIを活用するに当たって、精度の高い回答を得るには多くの情報を渡す必要がありますが、そうした情報の取り扱い方は気になりますね。例えば学習データとして使われる際、個人情報が削除されるのかなどです。
- 最上
-
そうした不安を感じるのはもっともなこと。政府としてAIを推奨するなら、国民の不安をいかに払拭するか、ここに向き合うことも不可欠。AI基本計画ではイノベーション促進一辺倒ではなく、「信頼できるAI」というものを軸に据えて、AIガバナンスの確保についても一つの方針に位置付けているよ。
- 河原
信頼性という点では、国際的な取組も重要だと思っています。私が担当している広島AIプロセスも、まさに「安全、安心で信頼できるAI」を目指しています。- 松村
日本がG7議長国として立ち上げた枠組みですよね。- 河原
はい。2023年には高度なAIシステムのリスク対策について、国際行動規範と国際指針を策定しました。特徴は、法的拘束力を持つような規制ではなく、「規範」や「指針」として提示し、事業者が自主的に取り組む形にしている点です。国際行動規範を遵守する企業等が履行状況をレポートできる枠組みもありますが、こうして企業に自主的にかかわっていただきながら、政府、企業を含む様々なステークホルダーで協力してAIガバナンスについて取り組んでいます。- 最上
デジタルには国境がないから、国際的な共通認識が必要だけど、イノベーションとのバランスも考える必要があるなかで、皆が自主的に取り組めるような枠組みとしたんだよね。日本のAI法の理念も、同じ考え方。- 河原
途上国も含めて様々な国の様々なステークホルダーがいる中で、柔軟かつ実践的な国際協調の形であり、これを日本が主導していることに意義があると感じています。今年3月には広島AIプロセスの精神に賛同する国や組織が集まる会合を開催し、幅広い議論が行われました。各国・企業のハイレベルがそれぞれの立場で重視する点や課題を共有し、議論しあう場に参加できたこと、また作る側として携われたことは貴重な経験になりましたし、この会合を日本がホストしたことは、本当に意義深いと感じています。
広がる理工系事務官の活躍の場
- 松村
-
今日3人で話して改めて感じましたが、理工系が活躍できるフィールドって幅広くありますね。統計行政も然りですが、将来を見据えたAI戦略や国際協調といった大きな枠組みから、行政データ利活用やEBPM推進。本当に様々です。
- 河原
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それぞれのフィールドで、理工系のバックグラウンドが活きていると感じる場面はありますか?私は技術的な議論を理解するうえで、理工系の知識や考え方が役立っているし、自分の貢献できる部分かなと感じます。他方で国際交渉はこれまで触れてこなかった分野であり、大きな学びもあります。交渉自体はどんな分野でもあることですし、今後のキャリアにも活かせればと思います。
- 松村
-
私の場合は学生時代に培った論理的思考力やデータへの関心が、機械可読性のルール作りに活きているように感じますね。
- 最上
-
いやはや、二人とも素晴らしい。理工系だからこその視点・視野は、様々な行政の現場に新たな付加価値を生むことができると思うんだよね。その意味で、我々、理工系事務官が活躍できる行政の現場って無限にあると思う。この対談記事を読んでいる皆さんも、この可能性に満ちた環境で、私たちと一緒に新しい未来を作っていきませんか。