出来る人のビジネス活用術

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 統計学は意思決定のための学問です。ですから重大な意思決定を行う立場にない子どもに「こういう学問がある」と伝えてもあまりピンと来ないかもしれません。

 しかし大人になってくるとそうも言っていられません。自分の業務、部下への指示、パートナー企業への発注、クライアント向けの説明など、ビジネスマンは日々ありとあらゆる意思決定を行わなければなりません。これまではみんなそれを経験や勘やロジカルシンキングで乗り切ってきましたが、どうやらそれだけでは上手くいかないらしい、ということも徐々に知られて来ました。

1. データは経験・勘・理屈の常識を覆す

 例えば医療の世界においてこんな話があります。急性心筋梗塞を発症した後、一命を取り留めた後も多くの患者さんが不整脈で亡くなる、という経験は医師の間でよく知られていました。そのため心筋梗塞の患者さんには不整脈を防ぐ薬を投与しよう、というのは経験にも勘にも理屈にも合う当たり前の意思決定です。

 しかしながら、ある時どの不整脈の薬がこうした治療に一番効くのかを検証すべく、実際に急性心筋梗塞を発症した患者さんを対象にした実証実験が行われた時この常識は覆ります。なぜなら文句のつけようのない科学的に厳密な実証実験の結果、これらの薬は「どれが一番いいか」というよりも「そもそも何も投与しない状態よりも死亡率をあげてしまっている」というデータが得られてしまったのです。

2. エビデンス(データ)に基づく意思決定へ

 1989年に公表されたCAST studyというこの研究は医学会に大激論を引き起こしましたが、結局のところ現代の医学では「経験と勘と理屈だけじゃなく実際のデータにも基づいた方がいい」ということで「科学的根拠に基づく医療(エビデンス・ベースド・メディスン)」という考え方を採用しています。

 エビデンスつまりデータとそれに対する適切な統計解析結果に基づく、という考え方は医療に留まらず、教育でも社会政策でも、国際的に当たり前の常識になりつつあります。

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意思決定のインパクトが大きく、うかつなことはできない場ほど、エビデンスに基づくことの価値を日々ヒリヒリと感じられるからかもしれません。ちなみにこれは1989年から20年もしない間に急激に起こったパラダイムシフトです。

3. 大きな時代の転換点を乗り越える統計力

 そして2010年代、このエビデンスの波はビッグデータという呼び名でビジネス界にも押し寄せてきました。医師たちがこの20年間で急に統計学の考え方に適応せざるを得なかったのと同様、世界中のビジネスマンたちも今から急激にデータと統計学の世界に足を踏み入れなければ不利になってしまう時代が訪れたのでしょう。

 ちなみに、法律学の世界で過失という言葉は「ある事実を認識・予見することができたにもかかわらず、注意を怠って認識・予見しなかったり、回避することを怠ったこと」という意味で用いられます。社会の至るところでデータ分析が行われるようになれば、「データ分析を行わなかったこと」や「分析すればわかるはずのリスクに気づかなかったこと」も一種の過失になってしまうのかもしれません。

 このような大きな時代の転換点に、このサイトを通じて一人でも多くの社会人が統計学の力を身につけて頂ければと思います。

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