出来る人のビジネス活用術

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 日本航空株式会社では、国際線・国内線の航空運送事業を行っています。飛行機に乗るための航空券やツアー商品は、その多くがJALのホームページで販売されています。ホームページで効率的に航空券を販売するためにビッグデータを活用しているWeb販売部1to1マーケティンググループアシスタントマネジャーの渋谷直正さんにお話を伺いました。

1. どんな仕事をしていますか?

 JALのホームページには1日に約50万人のお客さまが訪れます。航空券やツアーの予約購入のみならず、マイレージや旅行に関する情報を求めるなど、お客さまの目的は様々です。ホームページにはたくさんの情報が掲載されていますが、訪れたお客さま一人一人の目的が異なりますので、できるだけそれぞれのお客さまに合致した“気の利いた”オススメ(レコメンデーションといいます)をお見せすることが、お客さまにも喜ばれますし、当社の売上も上がります。私の仕事はこうしたレコメンデーションを考えて実施することです。

 お客さまに最適なレコメンデーションをするためには、まずはお客さまが何を望んでいるのかを知ることが必要です。そこでお客さまのWebでの行動履歴(Webログ)や過去の購買情報を分析してお客さまのニーズを推測します。例えばWebログはお客さまが1ページ閲覧すると1レコード(1行)の記録として残ります。JALのホームページは月間でのべ2億ページ閲覧されていますので、2億レコードのデータになります。このビッグデータはそのままではすぐに役に立ちませんが、統計的に分析するとパターンが見えてきて施策を作ることが出来るようになります。

2. Webログデータからどうやって施策を作るのですか?

 Webログデータは、お客さまが閲覧した履歴がすべて残ります。通常のお店で言えば、どの売り場にいたとか、どの商品を手に取ったのか、ということが記録されるようなものです。通常のPOSデータは購入して初めて記録されるため、購入されなかった行動は記録に残りません。買わなかった人の行動も分かる、という点がWebログデータの優れているところです。例えば「ある商品を購入した人は30代女性が多い」ということが分かったとしても、お店に来た人全員が30代女性であったなら、それは何の特徴にもなりません。買わなかった人の情報を対比することで、購入する人はどういう特徴を持っているのかが分かるのです。また航空券やツアー商品は比較的高額なため、1回の訪問で購入されることはまれで、購入前に何回も訪問されることが多いです。そうしたお客さまの購買前の行動を捉えられる点もWebログデータは有効です。

 Webログデータから購入した人と購入しなかった人を分類し、どういう特徴をもったお客さまが購入するのかを統計的に分析します。例えば、航空券を予約する際に区間や日付を入力して空席情報を検索しますが、このときの情報をアソシエーション分析という手法で分析し、ある運賃を購入しやすくなる検索パターンを明らかにしていきます。そして、そのような購入しやすい検索パターンで検索しているにもかかわらず購入に至らないお客さまに対し、その運賃のレコメンデーションを実施します。こうすることで、潜在的に購入可能性の高いお客さまに絞ってレコメンデーションを実施できるため、お客さまの購買を後押しし、売上を上げることができるようになるのです。お客さまの検索パターンは無数にありますが、購入につながるパターンというのは限られており、それを発見できれば効率的な販促活動ができるのです。ある施策ではたった1つのロジックでも年間通じると数千万円の売上になります。JALのホームページでは、アクセスしていただけるお客様の数が多いので、効果も大きくなるのです。

3. 社内ではどのように分析人材を育成していますか?

 ビジネスで成果が出せる分析をするには、まずは業務をよくわかっていることが不可欠です。ですから当社の営業や商品に詳しい自社スタッフが分析をしています。お客さまの視点に立って課題を考えられるビジネスマインドや、わからないことは詳しい部署の担当者にヒアリングして課題解決できるコミュニケーション能力も大切です。

 実際にデータを分析する際は、データマイニングツールを使いますが、ツールがポンと答えを出してくれるのではなく、最初にもとのデータから分析しやすい形に加工する作業は大変時間と手間がかかります。そしていよいよ統計的な分析をしますが、その際にも、どういう目的でどういう分析をすればいいのかを知らないと、分析にかけることができませんし、出てきた結果も使えません。当社では、よく使う手法をツールを使って集中的に教育し、分析者が正しい分析を適用し、結果を正しく解釈できるようにしています。統計的・数理的な勉強はいったん置いておいて、ツールを使ってすぐに分析できることを優先しています。なぜならば、統計学は本格的に取り組むと実に奥が深く、最初から理論を理解しようとすると挫折してしまう恐れがあるからです。理論は後回しにして、まずは、使ってみて、結果を出してみて、「分析って面白い!」と思えることを重視しています。

4. これからデータ分析をする人へのアドバイスを

 データ分析はとてもエキサイティングで楽しい業務です。ですので、まずは身近にあるデータを題材に、統計解析ツールを使って分析してみてください。自分の興味のあるデータであれば、一番そのデータに詳しいはずですから分析の勘所もつけやすいですし、うまく分析が終わればそれをそのままビジネスの施策に使うこともできます。興味のないサンプルデータだとつまらないので、自分が詳しい興味のあるデータを統計解析ツールで分析してみましょう。

 その際に、必ずグラフを描くことを心掛けてください。Excelなどに数字が並んでいると、いきなり平均値を出す人がいますが、まずはヒストグラムを描くようにしましょう。人に見せるためにきれいに描く必要はありません。分析の途中で自分の頭の中にデータをイメージしやすくするために描くのです。他にも2変数であれば散布図を描くなど、グラフにすることで、例えば「どこでデータを区切ればいいのか」とか「ほとんどが0回のデータになっている」などの全体像が見えてきます。こうしたことを繰り返していると、分析が楽しくなりますし、腕も上達します。

 そして一通り分析をやってみてから、いよいよ理論の勉強に入ると良いでしょう。最初から理論に入ると、特に数学が苦手な人は挫折してしまいがちです。しかし理論は分からなくてもツールを使ってある程度分析をやってみると自信がついて、「どうしてこういう結果が出てくるのだろう」と疑問を持つようになります。その段階ではかなり心に余裕ができているので、腰をすえて統計学の勉強にのぞめるようになっていると思います。

 計算の細かい方法論にはこだわらず、例えば検定とか回帰分析のパラメータの推定がどういうロジックで行われているのか、に重点を置いて学習してください。数学的に正確でなくても、概念的に理解できれば大丈夫です。

 大切なのは、怖がらずに、興味を持って楽しんで始めることです。

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