出来る人のビジネス活用術

インタビューイーキャッチ画像

 東京ガス株式会社では、エネルギー企業/インフラ企業ならではのデータ分析/活用を行っています。エネルギー企業としての災害時対策や、ライフサイクル(PDCAサイクル)が長いインフラ整備で、どのようにデータが分析され活用されているのかを技術戦略部戦略研究グループ ビッグデータ活用チーム チームリーダーの高安光治氏に伺いました。

1. あなたの部署ではどのような業務が行われているのでしょうか?

 社内には様々な部署があり、それぞれの部署でデータ分析は行われていますが、私が所属する戦略研究グループでは複雑なデータ分析であったり、各部署では外部にどう頼んで良いか分からない案件の対応をしたり、分析結果を基に全社的な視点や中・長期的な視点の提案を行っています。

 マーケティングに関しては、Product、Price、Place、Promotionといった4Pに関わる分析をしています。ProductとPriceの具体例として、弊社の商品ラインナップをどうするか決めるための分析を行いました。例えば、コンロについてアンケート調査を行い、そのデータを使用してコンロの機能や価格に対する効用、わかりやすい言葉で言えば満足度をお客さまごとに算出し、お客さまはどのような機能が搭載されているコンロをいくらくらいで購入したいのか、予算の範囲内でどの機能をつけたいのかを明らかにしました。分析結果の一例として、高いコンロを購入されるお客さまが必ずしもより良いデザインを求めているわけではなく、価格が低いモノを求めているお客さまのほうがデザインを求めているということが明らかになりました。このようにアンケート調査からコンジョイント分析なども用いて分析を行い、それを参考に商品のラインナップを考えています。

 またプロモーションの具体例として、価格を下げると売れるのか?あるいはチラシを配布すると売れるのか?という販促策の効果測定に時系列データを使って分析を行っています。この事例では、いろんな要素が複合的に影響しているので、どの販促策がガス機器の販売に貢献できているのか、戦略研究グループでも分析を行っています。

 エリアマーケティングも行っていますが、その分析に用いるデータは、国勢調査や所得・貯蓄等のデータ、どのエリアでどれくらいご購入いただいたかの社内販売データを紐付けて、ガス機器の需要を予測し営業戦略を考えています。分析は一般的なデータマイニングの手法を組み合わせて行っています。

2. ガス会社ならではのデータや分析を教えてください。

 災害時対応の例としては、地震が起きた時、震度5程度でガスのメータが自動的にガスを止めるようになっており、ガスメータを復帰する方法が分からないお客さまは電話をかけていただくのですが、地震が起きてからすぐに電話がかかってきますので、勤務時間外に地震が発生した場合、社員はなるべく早く電話応対のために集まらなければなりません。そのために、どの社員がどの場所に行くと一番早く電話に出られるかという、社員の出動先の最適化という事を分析しています。こういったものはエネルギー会社だからこそ必要になってくるのです。同じように、緊急保安用の車両について、どこに何台用意しておくと良いかという分析もしています。

 他にもエネルギー企業だからこそというものとして、お客さまセンターの最適な要員数算出という分析も行っています。普通のメーカーであれば、電話がつながらなければ、またかけ直していただくこともできますが、万が一ガス漏れの場合にはつながらないという訳にはいきません。一方で無尽蔵に人を投入するわけにもいかないので、高い応答率を保ちながら、必要要員が最適化できるように、何時に何人いれば良いかという事を分析しています。

3. データ活用の今後の見通しをお聞かせください。

 これもガス会社ならではかも知れませんが、コンロや給湯器、床暖房やミストサウナなど、弊社の商品は何かプロモーションを行ったとしてもすぐにご購入していただけるわけではなく、会社として施策を講じてからその効果を確認するPDCAサイクルを回すスパンが非常に長いので、どのようにしてプロモーションなどの施策の効果をチェックしていくかという事を思案している状況です。最終的に売上に効果があったかどうかというのはすぐには分からないので、中間的な指標をいかにとって効果を確認するかという取組を始めています。その中でソーシャルメディアのお客さまの反応は、中間的な指標になると考えています。

 また、社内的なムードとしてデータ分析の需要は高まっており、今後の目標としては全社員に対して分析したい人は分析ができ、結果だけを見たい人は結果だけが見られるなど、ITを使ってデータ活用を推進していきたいと思っています。さらに、今後、デジタルメディアに由来するデータやエネルギーデータなど、いろいろなデータがスピーディに取得できるようになってくるので、それらのデータの分析技術や活用についても知見をためているところで、徐々に活用していきたいと思っております。

4. データ分析をするのに望ましい人物像は?

 統計や分析に関する専門性が高いほうがもちろん好ましいのですが、それだけであれば社員である私たちが分析を行わなくても、外部の専門家に委託すれば実現できます。ビッグデータ活用チームでは、大切にしている3つの柱があります。

 1つ目が活用に向けて推進していく姿勢。
 分析したデータがビジネスに活用されなければ意味がありません。社員として会社をよりよくしていくために、またお客さまによりよいものをご提供するために、あるべき姿を積極的に提案していこうという姿勢、こだわりが必要です。そのためには、ビジネスに対する知識がないと分析したデータを活用できないし、そもそも提案もできないと思います。

 2つ目はお客さま視点を持つこと。
 マーケティングの分野では、いかにお客さまにいいものをお届けするかという気持ちが大切です。戦略研究グループは業務の特性上数字を見て考えがちな部署なので、自分の仕事の先には必ず、お客さまがいるという意識を持って仕事をしています。

 3つ目としては、泥臭いことを嫌がらないこと。
 データ分析はデータを揃えて、分析するまでにクリーニングするという作業が仕事の大半を占めているので、地道な作業をきちんとできることが大事です。

 望ましい人物として、職場への配属前から高い分析技術を持っているほうがもちろん好ましいのですが、何かしらデータ分析をやったことがある人であればやっていけると思います。それ以上に本人の信頼感が重要で、それがないとなかなか提案を受け入れてもらえません。そのためには、社内で一緒に仕事をする人からも、「わかりやすく説明してくれて、時間にきっちりしていて、感じがよい人」と感じていただけるような人物であることが必要だと思います。説明/時間/マナーという当たり前のことがしっかりできていないと、どんなによい提案でも受け入れてもらえません。極論を言えば、「検定」の内容は知らなくても、1ヶ月もあれば身につくものなので大丈夫です。それ以上に、そもそもの仕事人としての素養のほうが重要であると考えています。

Page Top