出来る人のビジネス活用術

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 販売、生産、在庫情報を一元管理し、グローバルな情報の見える化と社内での共有化を組織横断的に推進しているコマツ(株式会社 小松製作所)では、小売販売実績や建機の実稼働状況を日々把握し販生計画をデータで語れる事を目標に、「事実に基づいたデータ分析」を行っています。

 全世界から集まってくる様々なデータが、どのように分析/活用されているかを、生産本部生産管理部長(兼)グローバル販生オペレーションセンタ所長の西脇智彦氏と建機マーケティング本部建機経営企画室販売企画部担当部長の梅谷真一氏に伺いました。

1. 統計データはどのように業務に活かされているのでしょうか?

 弊社では、グローバル販生在(*)データベースでミクロからのデータを積み上げて一元管理し、このデータを使いながら、全体で何台売ることができるのかを予測し、より良い販売生産計画を立て、全社販生会議という意思決定会議で議論を行い、販売生産の調整を図っています。(*:販生在とは、販売、生産、在庫のこと。)この管理を行っているのがグローバル販生オペレーションセンタです。ここでは、「生産管理」と「販売管理」の2つの組織が対等な立場で同じ部屋を共有し、一緒に仕事をすることで確実なコミュニケーション・情報共有を目指しています。

 センタでは、大きく4つのデータを収集/管理しています。

  1. グローバルカメラ
    センタにいながら世界の生産ラインの状況をリモートカメラで見ることができます。
  2. Kom-Vision
    建設機械一台一台が工場からお客様に届くまでの進捗情報を管理しています。
  3. グローバル販生在コックピット
    全世界での工場から販売代理店までの販売・生産・在庫に関する情報を一元管理しています。
  4. コムトラックス
    建設機械の情報を遠隔で確認するためのシステムです。品質改善のための情報を含めて様々な情報を収集していますが、センタで使用している情報は、車両の位置情報とサービスメータアワー(稼働時間)です。

2. 具体的にはどのような分析をされていますか?

 需要予測などを行っています。以前は、重回帰分析を用いて年次事業計画策定時に主要地域毎の需要台数予測を実施していましたが、精度的に様々な問題がありました。現在はARIMA法などで時系列的に分析する方法に取り組んでいます。毎月の建設機械需要を製品別、地域別等にデータを分け、多数の変数を使って、さらに重回帰法と自己回帰モデルと組み合わせたようなモデルを組み合わせて分析を行っています。

 例えば、石炭産業に売れたのは何台、林業に売れたのは何台とお客様の業種ごとに層別化したデータをもとに予測して、最終的に積み上げを行ったり、あるいは地域ごとに分類したりするなど、様々なデータ軸(セグメンテーション)にトライして、どのように積み上げていけば良いかを研究をしています。

 他にも、さまざまな外部要因・経済指標のデータから、クラスター分析ツールを使用して要素の抽出を行い、時系列モデルの組み合わせや、過去のデータとマッチングするような予測モデル作成を試行錯誤しながら行っています。

 例えば、アメリカ全体の建機需要からどうやって予測を立てているかというと、地域ごとに需要のトレンドが違っているので、それぞれの地域でモデルを作って、過去のデータも反映させながら積み上げていきます。その上で、季節変動的な要因をピックアップして、セグメントごとに積み上げていくと、実際の傾向に近いものになります。こうした分析では、予測と合わない時に、一体何の要因が隠れていたのかを探ることが重要になってきます。

 また、計算結果は計算機が出す一つの材料であり、一方では人間の直感と経験からのアプローチとマッチングさせる必要があります。説明性が高い(因果関係が作れる)分析モデルを作成することで、関係者全員が納得して議論が成り立つように心がけています。

3. 他には類を見ないコムトラックスに関して、教えてください。

 コムトラックスをスタートした時は、盗難車対策と品質解析をメインに使っていて、販売生産に活用するまでには至っていませんでした。ところが、リーマンショック後、全世界的に建機の在庫が膨れ上がってしまい、それをきっかけに、よりお客様に近いところでのデータを収集・活用しようということになりました。そのひとつが、グローバル販生在データベースを使って、代理店からお客様への販売状況、および、代理店の新車在庫をきちんと把握することであり、もうひとつの柱が、コムトラックスのデータの活用です。

 例えば、地域ごとのサービスメータアワーの前年度比較を行って、それが稼働率の見込み内容を超えている場合は、需要があるという予測を立てています。以前は販売部門の人間は必ず売れると言い、生産部門の人間も必ず作れると言い、しかしフタを開けて見ると売れないし、作れないと言う事が起きていました。もう少しデータを見ながら話をしていこうというのがスタート地点だったのです。

 位置情報の活用例としては、代理店が売れたと報告してくるが、本当に売れているかという事を位置情報から物理的に何台在庫があるのかを確認することができますし、鉱山の緯度経度情報を利用して何台鉱山に入っていて、何台が稼働しているかを知ることができるようになりました。

4. 今後の貴社における統計の位置づけは?

 コマツの価値観とそれを実現するための仕組みや行動様式をまとめた「コマツウェイ」にも記述されているように、「データでモノを語る」ことがますます重要になってくると思います。以前は、販売と生産はお互いにデータをオープンにしていませんでしたが、センタができたことでお互いが実データで確認することができるようになり、データを使ってモノを語ることができるようになりました。これは統計だけではなく、物事の基本であろうと思います。

 統計学習に関しては、弊社では基礎統計はQC(品質管理)教育の中で学んでいきますが、今後も続けていくべきだと思っています。センタの様なデータが集まっている環境では、全員で議論する上で基礎的な統計学は理解して、知識として持っていて欲しいと考えています。

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