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ゼミナール編(2) 〜調査実施と分析

1時限目 意識調査の設計

1-1 意識調査とは

1意識調査の役割

政策立案の基礎資料になる「意識調査」

まずは意識調査という用語を定義しておきましょう。
現在使われている意識調査という用語は、世論調査(よろんちょうさ)とほぼ同義と考えてかまいません。世論調査については、辞典でも定義が述べられています。それらを参考にしつつ、ここでは簡単に、「社会的な問題に対する人びとの意識を調べる調査」を、意識調査として定義することにします。

意識調査は、社会の中でどのような役割を果たすものなのでしょうか。
意識調査を行うことで、社会的な問題に対する国民あるいは市民の意見・考えを、かなりの程度正確に把握できます。しかも、予算や時間の制約があるなかで、効率的にそれを達成できるのです。つまり、意識調査は、合理的なやり方で世論を把握し、それを資料として、政策立案、報道、学術研究などに資するものとなります。

「意識調査」と「統計調査」の違いは?

意識調査のほかに、統計調査も広く知られています。
意識調査と統計調査では、共通点が多くあります。どちらも、対象者を標本抽出によって選び、調査票をつくり、現地にて実査を行い、電子的なデータを集計・分析し、最終的には報告書を刊行します。すなわち、調査の手続きに関しては、統計調査も意識調査も、だいたい同じことをしているといえます。また、統計調査は統計を作成するための手段ですが、意識調査においてもその位置づけが異なることはありません。

他方で、統計調査と意識調査の間には、明らかな相違点もあります。

第1に、調査される内容に関する違いがあります。
統計調査は、もっぱら調査の内容が客観的な事実にかかわる事項に限定されます。一方、意識調査は、主観的な意識をとらえることに主眼がおかれています。ここでいう意識とは、人びとの意見、評価、欲求、情緒的な反応などをさします。こうした意識にかかわる事項は、統計調査では調べられることはありませんが、意識調査では積極的に調べるようにしています。

第2に、調査単位の違いがあります。
調査の単位とは、調査の対象となる相手が何であるかを意味しており、個人、世帯、事業所などが具体的な調査単位の種別です。意識調査では、個人を単位とすることがほとんどです。統計調査では、個人を単位とするものもありますが、少数派で、多くのものでは世帯を単位としたり、あるいは事業所を単位としています。

第3に、調査の規模が違います。
ここでいう規模とは、要するに調査の対象となる客体の数のことです。統計調査に比べると、意識調査は規模が小さめです。一般的にいえば、規模が大きくなるにつれて調査で得られたデータにみられる誤差は小さくなりますから、統計調査よりも意識調査のほうがデータの精度が低めです。しかしこの点は、両者では要求される誤差の水準がまったく違うので、さしたる問題ではありません。意識調査では、適度な人数を選んで、それなりの精度のデータを得るように調査をすることが、合理的なのです。

意識調査と統計調査の違い
意識調査 統計調査
1調査内容 主観的な意識
(意見、評価、欲求、情緒的反応)
客観的な事実
(社会経済的属性、生活様式、経験、行動、知識)
2調査単位 個人が多い 世帯・事業所が多い
3調査規模 (統計調査に比べ)小さめ
※要求される誤差の水準がちがう
(意識調査に比べ)大きめ
  • 次は、「1-1-2 意識調査の過程」です。
    意識調査の目的から報告までの流れを見ていきましょう。

執筆・監修:東京大学社会科学研究所 教授 三輪 哲

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