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地域公共交通確保手段の検討

北海道芽室町:地域公共交通確保手段の検討

EBPMブートキャンプ 北海道芽室町

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研究会の体制

専門家
高野伸栄(北海道大学大学院工学研究院 教授)
データサイエンティスト
日本総合研究所 研究員
データ分析アシスタント
日本総合研究所 研究員
進行管理担当者
日本総合研究所 研究員
自治体
芽室町政策推進課、商工労政課
研究会スケジュール
第1回:8月18日 第2回:9月20日 第3回:10月17日 第4回:11月16日 第5回:12月19日 第6回:1月16日

研究概要

課題

現行のコミュニティバスの代替となる地域公共交通確保手段の検討

芽室町の市街地で運行するコミュニティバスは、運行開始から10年以上が経過し、近年利用者数が減少している。また、現行のコミュニティバスは市街地内をくまなく通るよう運行ルートが設定されており、1便当たりの所要時間が長くなっていることから利便性改善に関する要望が寄せられることがある。
上記の課題を改善するため、現行のコミュニティバスの代替となる地域公共交通確保のための打ち手を検討することを研究課題とした。

要約

  • コミュニティバス乗降調査・地域交通アンケート等により、住民の日常的な移動状況やコミュニティバスの現状を把握。
  • 認知度、出発・目的地、乗降地点、運行ダイヤなど様々な観点から、適切なデータを利用し現行のコミュニティバスが抱える課題を明確化。
  • 有力な打ち手の仮説を設定した上で、目的地までの所要時間等の利便性やコスト負担等の観点から比較検討を実施。

課題解決のプロセス

  1. 01現状把握

    バス停ごとの利用状況や乗車区間、コミュニティバス全体の利用者数など現状を把握するとともに、全体の検討の流れを整理。

  2. 02目指すべき姿

    各データより現行のコミュニティバスが抱える課題を明確化した上で、その課題を解決しうる打ち手の仮説を構築。

  3. 03データ収集

    コミュニティバスに関わるデータ以外にも、出発地・目的地に関わるデータなど、様々な観点からデータを収集。

  4. 04データ分析

    • 収集したデータをjSTAT MAP等により可視化。
    • 設定した打ち手の仮説について、利便性やコスト負担の観点から比較検討を実施。
  5. 05結果

    • 現行のコミュニティバスは、バス停が多く、運行ルートが複雑になっているため、区間によっては所要時間が大幅に長くなっていることが課題であることを把握。
    • 打ち手の仮説について比較した結果、デマンド交通を取り入れることで利便性の向上が見込めることを確認。
  6. 06今後の取組

    今回の分析結果を踏まえ、住民のニーズや実態を踏まえた上で打ち手の実施を検討。

※デマンド交通…利用者の予約に応じて運行する公共交通手段

利用データ

  • コミュニティバス利用者数データ・乗降調査データ、帯広圏パーソントリップ調査データ
  • 公共交通計画に関するアンケート調査データ
  • 病院利用者数・商業施設利用者数データ
  • コミュニティバス運行コストデータ

など、多数のデータを利用。

解決プロセスの詳細

01.現状把握

コミュニティバスの利用者数が近年減少し、利便性に関する課題があることは認識していたものの、課題を定量的に把握することはできていなかった。そこで、まずはコミュニティバスのどのような要素に課題があるのかを明確化した上で、有力な打ち手について比較検討するという分析の流れを構築することとした。

現状把握

02.目指すべき姿

  • 各データより現行のコミュニティバスが抱える課題を明確化した上で、その課題を解決しうる運行形態の打ち手の仮説を構築する。

03.データ収集

  • 各分析ステップにおいて、下記データを収集し分析に利用。

主な利用段階 データ名 内容
Step1
現状の把握
コミュニティバス利用者数データ 芽室町所有データ:年間利用者数の推移と、月別利用者数を分析。
コミュニティバス乗降調査 新規調査データ :調査対象期間(3日間)の車内カメラ映像を目視で確認することにより、乗降者の属性を分析。
農村部アンケート調査 芽室町所有データ:過去に実施したアンケート結果を用いて、自家用車の運転状況について分析。
帯広圏パーソントリップ調査 外部提供データ :北海道が主体となって実施した同調査データの提供を受け、運転免許証の保有状況について分析。
Step2
課題の
明確化
全般/補足 公共交通計画に関するアンケート調査 新規調査データ :計画策定にあたって実施したアンケート
帯広圏パーソントリップ調査* 外部提供データ :芽室町に係るトリップデータと、交通サービスに関する意識調査結果を分析。
住民意識調査 芽室町所有データ:芽室町が毎年無作為抽出で実施している同調査から、交通に関する意識調査結果を抜粋して分析。
農村部アンケート調査* 芽室町所有データ:過去に実施したアンケート結果を用いて、交通サービスに関する意識調査結果を分析。
認知度・利用 公共交通計画に関するアンケート調査* 新規調査データ :計画策定にあたって実施したアンケート結果を用い、コミュニティバスの認知度と利用状況を分析。
出発・目的地 タクシー乗降数データ 外部提供データ :町内タクシー事業者から提供を受けたデータを用いてODを分析。
病院利用者数 芽室町所有データ:町内の公立病院から受診者数・受付時間等のデータ提供を受けて、利用者数を分析。
商業施設利用者数 外部提供データ :町内大型商業施設からレジ通過者数のデータ提供を受けて、利用者数を分析。
帯広圏パーソントリップ調査* 外部提供データ :芽室町に係るトリップデータからODを分析。
国勢調査 公的統計データ :高齢者人口や高齢者単身世帯の分布についてj-STATMAPにプロットして分析。
コミュニティバス乗降調査* 新規調査データ :利用者の乗車バス停、降車バス停を調査することによりODを分析。
乗降地点 バス停位置データ 芽室町所有データ:バス停位置をj-STATMAPにプロットし、徒歩圏内のバス停配置について分析。
運行ダイヤ 運行時刻表 芽室町所有データ:現行時刻表と、新規作成した逆回り時刻表を用い、モデルケースの所要時間を分析。
タクシー乗降数データ* 外部提供データ :町内タクシー事業者から提供を受けたデータを用いてODを分析。
病院利用者数* 芽室町所有データ:町内の公立病院から受診者数・受付時間等のデータ提供を受けて、時間帯による利用者分布を分析。
商業施設利用者数* 外部提供データ :町内大型商業施設からレジ通過者数のデータ提供を受けて、時間帯による利用者分布を分析。
事業者負担 事業者ヒアリング 新規調査データ :コミュニティバスの運行受託事業者にヒアリングを行い、運行に関する課題などを分析。
コミュニティバス乗降調査* 新規調査データ :利用者の乗降バス停調査により、バス停ごとの利用頻度や区間の乗車状況を分析
Step2.5
絞り込み
事業者ヒアリング* 新規調査データ :運行受託事業者へのヒアリングにより「打ち手の仮説」の実現可能性を分析。
Step3
比較検討
家計調査 公的統計データ :e-Statから同調査のデータを抽出し、交通分野の消費支出額等を分析。
コミュニティバス運行コストデータ 芽室町所有データ:現行コミュニティバスのコストデータを「打ち手の仮説」のコスト見込と比較分析。
フィールドワーク 新規調査データ :宮城県名取市の視察により、定時定路線型から一部デマンド交通への転換の経緯や成果を調査。

*複数の利用段階の分析に用いているデータ名

04.データ分析 

コミュニティバス利用状況の現状の把握

コミュニティバス利用者数データやコミュニティバス乗降調査で得られたデータを利用し、コミュニティバス全体の利用者数の推移やバス停ごとの利用状況を把握した。

コミュニティバス利用状況の現状の把握 コミュニティバス利用状況の現状の把握

コミュニティバスの抱える課題の明確化

現行のコミュニティバスが抱える課題について、認知度、乗降地点、主要な出発地と目的地、運行ダイヤなどの観点から、公共交通に関するアンケート調査や実際の運行ダイヤの情報などを利用し、分析した。
出発・目的地に関する分析については、町内タクシー事業者の乗降データや病院や商業施設の利用者数のデータを利用し、分析した。
乗降地点に関する分析については、jSTAT MAPによりバス停の位置及びバス停からの徒歩圏を可視化した。

コミュニティバスの抱える課題の明確化 コミュニティバスの抱える課題の明確化 コミュニティバスの抱える課題の明確化 コミュニティバスの抱える課題の明確化

課題解決に資する打ち手の仮説の比較検討

分析により明確になった課題を踏まえて、地域公共交通確保手段のための打ち手の仮説として(1)定時定路線型+デマンド型の導入 (2)デマンド型のみの導入を設定。それぞれの打ち手について、モデルケースにおける利便性の変化及び(仮定に基づく)運行経費・運賃収入の変化を定量的に把握した。

課題解決に資する打ち手の仮説の比較検討1 課題解決に資する打ち手の仮説の比較検討2 課題解決に資する打ち手の仮説の比較検討3

05.結果

コミュニティバス利用状況の現状の把握

  • コミュニティバスの利用者数は運行開始以来横ばいであったが、令和2年度以降は13,000人/年程度まで落ち込んでいることを確認。
  • バス停ごとの利用状況を分析した結果、3日間の調査期間において71か所中24か所のバス停で乗降がゼロであることを確認。

コミュニティバスの抱える課題の明確化

  • 公共交通計画に関するアンケート調査により、コミュニティバスは住民に認知されているものの利用されていないことを確認。
  • 利用されていない要因について各データを用いて分析したところ、バス停から徒歩5分圏でおおむね市街地をカバーしていることから設置場所に課題はなかったものの、運行ルートの設定により所要時間が長くなるケースがあることを把握。

課題解決に資する打ち手の仮説の比較検討

  • 利用区間によっては所要時間が長くなるという課題を解決しうる打ち手を検討するために、(1)定時定路線型+デマンド型の導入 (2)完全デマンド型の導入という打ち手を比較。
  • その結果、デマンド型の交通の導入により町の負担額は増加するものの、利便性は大幅に向上することが明らかになった。

06.今後の取組

打ち手の実施に当たっての検討

  • 今回の検討により、デマンド型の交通の導入により利用者の利便性が大幅に向上することが明らかになった。しかしながら、実際の導入に当たっては予約制に対する利用者の抵抗など「生の声」によるニーズ把握も重要である。そのような情報も踏まえながら、打ち手の実施にあたっての検討を進める。

参加者の声

研究会への参加・検討を通じて、特に学びが得られた点を教えてください

研究会を通じて、データ利活用のプロセスやPPDACサイクルの流れを実際に体験しながら学ぶことができました。これまで地域公共交通については「近くにバス停がない」「(利用者が少なく)空気を運んでいる」「逆回りを運行したら便利になる」など、様々な要望や意見が寄せられていましたが、イメージや感覚でとらえていたことを、改めてデータを見つめ可視化することにより、課題の本質が見えてきたと思います。
また、研究会で議論をする上でも、「データに基づいて課題を明確化すると共通認識をもって議論できる」ことを実感できました。 

研究会への参加・検討を通じて、難しいと感じた点、苦労した点を教えてください 

「打ち手の仮説を比較検討」するステップでは、2つの仮説を立てるのに苦労しました。交通担当としては、現場の実情を反映し利便性向上と運行効率改善を図れる実現可能な仮説を立てたくなりますが、比較検討のためにはできるだけ条件をそろえる必要があり、葛藤がありました。
また、全体的に時間の余裕がなく、事前に議論を交わしてから研究会に臨むのではなく、各々が分析を行って研究会の場で持ち寄る形になってしまったことは反省点です。

EBPMの考え方を活かした今後の業務の改善点や、意気込みを教えてください

今回の研究会では、地域公共交通の分析を行うにあたり、OD(出発地-目的地)の分析は非常に重要でした。今回のやり方を活かし今後も定期的に行うとともに、新たな施策を実施する際には、自動でODデータを収集できることが必要と考えます。
今回の研究会には2課協同で参加しましたが、データを用いた課題の明確化や認識の共有は、どのような業務においても重要な考え方であり、今回のEBPMの必要性を全庁的に広めていきたいです。

これからデータ利活用に取り組む自治体へ向けてメッセージをお願いします 

「データ利活用やEBPMは大事だと思うけど、難しそう」と感じられる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回データ分析により「課題だと思っていたことがそうではなかった」「見えていなかった課題が見つかった」という経験をすることができました。データは、今までの経験や勘では気づけなかったことを教えてくれます。研究会の内容は、議会(委員会)でも報告を行いましたが、数字の裏付けがあることで、説明責任を果たし理解が得られやすかったとも感じています。
また、漠然としたイメージや感覚的な意見は、一見同じようでも個々人によって認識が異なる場合が多々ありますが、データの分析結果を基に議論を行えば、前提条件を統一でき、コミュニケーションがとりやすくなります。
データを難しく考えるのではなく、まずはやってみることが大切だと思います。よりよいまちづくりのために、一緒に取り組んでいきましょう。

専門家アドバイス
高野伸栄

北海道大学大学院工学研究院 教授

今回のEBPM研究会として、芽室町で取り組んだ「地域公共交通確保手段の検討」へ、今後各地方自治体が取り組んで行く際のアドバイスをぜひお聞かせください。

都市の大小に係わらず、高齢化の進展やカーボンニュートラルへの対応を考えると、地域内の公共交通の確保は、今後ますます重要になる。一方、交通事業者の経営状況は大変厳しく、密に利用者がいる地域を除き、料金収入だけで、事業を成り立たせることは極めて難しい。厳しい経営環境は待遇の悪化をもたらし、運転手不足に拍車をかける結果となっている。欧米においては、公共交通は料金収入のみならず、相応の税金で支えることが一般化されているが、我が国においては税金を投入することが原則とはされていないので、自治体が何らかの形で関与し、オーダーメイドで地域公共交通のしくみをデザインすることが求められる。
地域公共交通をデザインするためには、まずは、現状の交通行動と利用意識を把握する必要がある。交通データは、芽室町でも多くのデータについて分析がなされたように、色々なものがある。また、季節によって、天候によって、大きく変動する。多くのデータを分析することは重要であるが、データに振り回されるのではなく、現状の交通システムという制約を考慮し、地域住民が理想としている交通の有り様を読み解いていくことが求められる。また、利用者意識の調査を行うと「バス停が遠い」、「バスの本数が少ない」という意見が多く寄せられる。しかし、現実には全地域住民の家のすぐ近くにどこへでも行けるバス停を設置することは土台不可能である。個人意見を意識として終わらせるのではなく、公共交通に関する社会全体の共通認識を作り上げていくことが重要だ。自治体職員自らが、データを分析し、意見を聴き、他事例の情報収集を行い、交通をデザインし、実験を行うことを長年かけて、繰り返していくこと。このことが地域における公共交通の社会的共通認識を高め、好循環を作り上げることを可能にしていくものと思う。

高野伸栄さんの写真

専門家アドバイス
高野伸栄

北海道大学大学院工学研究院 教授

高野伸栄さんの写真

今回のEBPM研究会として、芽室町で取り組んだ「地域公共交通確保手段の検討」へ、今後各地方自治体が取り組んで行く際のアドバイスをぜひお聞かせください。

都市の大小に係わらず、高齢化の進展やカーボンニュートラルへの対応を考えると、地域内の公共交通の確保は、今後ますます重要になる。一方、交通事業者の経営状況は大変厳しく、密に利用者がいる地域を除き、料金収入だけで、事業を成り立たせることは極めて難しい。厳しい経営環境は待遇の悪化をもたらし、運転手不足に拍車をかける結果となっている。欧米においては、公共交通は料金収入のみならず、相応の税金で支えることが一般化されているが、我が国においては税金を投入することが原則とはされていないので、自治体が何らかの形で関与し、オーダーメイドで地域公共交通のしくみをデザインすることが求められる。
地域公共交通をデザインするためには、まずは、現状の交通行動と利用意識を把握する必要がある。交通データは、芽室町でも多くのデータについて分析がなされたように、色々なものがある。また、季節によって、天候によって、大きく変動する。多くのデータを分析することは重要であるが、データに振り回されるのではなく、現状の交通システムという制約を考慮し、地域住民が理想としている交通の有り様を読み解いていくことが求められる。また、利用者意識の調査を行うと「バス停が遠い」、「バスの本数が少ない」という意見が多く寄せられる。しかし、現実には全地域住民の家のすぐ近くにどこへでも行けるバス停を設置することは土台不可能である。個人意見を意識として終わらせるのではなく、公共交通に関する社会全体の共通認識を作り上げていくことが重要だ。自治体職員自らが、データを分析し、意見を聴き、他事例の情報収集を行い、交通をデザインし、実験を行うことを長年かけて、繰り返していくこと。このことが地域における公共交通の社会的共通認識を高め、好循環を作り上げることを可能にしていくものと思う。

参考サイト

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