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ゼミナール編(2) 〜調査実施と分析

1時限目 意識調査の設計

1-2 調査票の作り方

2質問文の作成

続いて、意識調査における質問文の作成に関して、ポイントを整理しましょう。

質問文で使われる言葉の用法のことを、ワーディングと呼びます。特に意識調査では、質問文での言葉の使い方や聞き方によって、調査結果に歪みが生じやすいので、十分気をつけなければなりません。ワーディングの問題は、3つに整理されます。

ワーディング問題
1 使用する単語の問題
2 誘導的な質問の問題
3 質問形式の問題

使用する単語の問題 ー 質問文で避けるべき言葉とは?

使用する単語に関しては、あいまいな言葉、難しい言葉、ステレオタイプな言葉の使用は避けるのがポイントです。

あいまいな言葉は、それを見聞きした人によって解釈に違いが出てしまいます。 難しい言葉は、その意味がわからないまま回答する人や、意味を取り違えて回答する人が出てくる危険性があります。
ステレオタイプとは、ある社会事象に対して一般に流布した単純化されたイメージのことで、ほとんどの場合、ネガティブな意味を伴うとされます。

それゆえに、あいまいな言葉、難しい言葉、ステレオタイプのかかった言葉を意識調査の質問で使用してしまうと、結果に歪みが生じるなど、回答の確からしさが損なわれる恐れがあるのです。よって、そうした言葉は、意識調査の質問文で用いてはいけません。

誘導的な質問の問題 ー 質問文は「中立的」に

誘導的な質問に関しては、「威光暗示効果」「黙従傾向」に注意することがポイントです。

威光暗示効果とは、質問中の事がらが社会的権威のある人の発言であることや、世間一般の見解や流行であることを明示することによって、回答が影響されてしまうことをいいます。
黙従傾向とは、回答者の中にどのような質問に対しても肯定的に回答する傾向をもつ人がいて、どちらか一方の立場だけを強調すると、強調されたほうの回答が増えてしまうことをいいます。これらは、本来得られるはずの結果よりも、偏った結果をもたらしかねないわけです。

そこで、威光暗示効果を避けるために、質問文の内容や事がらの解説を中立的にすることや、黙従傾向に気をつけて、賛成/反対両方の立場がありうることを示すようにすることが必要になります。

威光暗示効果のある質問文の例

  • 教育の国際化を図る観点から、入学時期を世界の多数の国に合わせ9月または10月にするべきと論じられることがあります。
    あなたは、我が国の学校の入学時期について、原則4月から原則9月などの秋季へ変更することについて、賛成ですか?それとも反対ですか?
結果
「入学時期を世界の多数の国に合わせ」と前置きを入れていたことで、
賛成する回答が多くなる懸念がある例

質問形式の問題 ー 聞き方の形にも要注意

質問形式によって回答へと影響が出かねないものに、ダブルバーレル質問、一般的質問か個人的質問か、ユージュアルステイタスかアクチュアルステイタスか、といった諸問題があります。

まずダブルバーレル問題ですが、これは1つの質問文の中に2つ以上の論点を含むことをいい、明らかに避けるべき問題をはらみます。どうしてそれが問題になるのかというと、複数ある論点のうち、一方に賛成し、もう一方には反対と、異なる立場をとる人にとって回答しにくくなってしまうからです。やはり1つの質問文では論点は1つだけに絞るほうがよいでしょう。

ダブルバーレル質問文の例

  • ネイティブ・スピーカーによる外国語のみを使用した授業を行うことや、少人数の能力別クラス編成によって、大学における外国語教育が効果的になると思いますか?それとも思いませんか?
問題点
質問文の中に論点が2つ
(外国語による授業と能力別クラス編成)がある

ほかに、一般的質問と個人的質問の使い分け、ユージュアルステイタスとアクチュアルステイタスの使い分けも、質問形式の問題として検討すべき点です。

一般的質問とは世間一般の場面を想定したときの意見で、個人的質問とは自分自身の立場を想定したときの意見、のことです。

ユージュアルステイタスとはふだんの行いのことで、アクチュアルステイタスとは特定期間・時期の行いのことをさします。これらは、一見似ているのですが、どちらかによって回答が異なりうるものです。ですから、調査の目的や質問の意図により、使い分けることが重要です。

  • 次は、「1-2-3 選択肢の作成」です。
    選択肢の種類はさまざまです。
    その種類と、選択肢作成の原則を学びます。

執筆・監修:東京大学社会科学研究所 教授 三輪 哲

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