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大学等との連携

長崎県 統計課×長崎大学

大学等との連携


長崎県 統計課×長崎大学

長崎県では長崎大学並びに大学の先生方が設立した地域ベンチャー企業と連携し、統計を使った施策立案の取組を進めています。大学等との連携について、他の自治体の参考になるポイントをご紹介します。

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長崎県の官学連携事例にみるEBPM推進のポイント

地域課題解決のために正確な実態を把握して施策につなげたい県側と、経済学を地域の課題解決に役立たせ、その成果を研究成果として活用できる大学側の双方にメリットがある官学連携。長崎県統計課長笠山氏と、長崎大学の須齋教授に、それぞれの立場からお話を伺った。

3つのポイント

  1. 人口減少の解決は重要な地域課題。県と大学が課題を共有し、解決に向かうプロセスが重要
  2. 自治体の課題と、大学の教員の個別の専門分野との間で「マッチング」が重要
  3. 大学発のベンチャー企業に委託することで、人材登用や予算組みに柔軟性が生まれた

大学との連携のきっかけ

●お話を伺った方
長崎県 県民生活環境部 統計課長 笠山浩昭氏(以下 笠山)
長崎大学 経済学部 教授 須齋正幸氏 (以下 須齋)

(笠山)
 長崎県庁の笠山です。長崎県ではEBPMのモデルケースの構築や統計人材の育成に関する研修について、長崎大学経済学部の教授並びに先生方が設立した地域ベンチャー企業の「出島リサーチ&コンサルツ」に委託し、連携した取組を進めております。
 他の自治体の参考になると思われる事柄を、長崎大学の須齋教授と共にご紹介していきます。

(須齋)
 長崎大学の須齋です。今回我々教員三人で作ったベンチャーと県の皆さんとで統計を使った政策立案について事業を開始しました。この事例を皆さんにご紹介できればと思っております。本日はよろしくお願いいたします。

連携している取組の概要を教えてください

(笠山)
 今年度(令和2年度)は、先生方と連携して、令和元年度に実施した大学生への就職意識に関するアンケートの進化・改良を図り、県内就職施策の立案、県内にお住まいの若者に県内に残って活躍していただくという促進施策への立案に向けたデータ収集及び分析、そして提案などを行っていく予定です。

大学と連携するきっかけは何だったのですか?

(笠山)
 長崎県の人口は、昭和35年(1960年)の176万人をピーク(国ピークは平成20年(2008年))に、前回の平成27年国勢調査(2015年)では138万人で、このままでは2060年に78万人に減少する見込となっています。また、本県は離島を多く抱え、他県とは異なる地理的多様性が存在しているなど、他県に比べ人口減少の要因はより複雑です。

 現在まで、地方創生の観点から、良質な雇用の場を創出し若者の県内定着を進めるといった施策を進めていますが、ここ数年は全国でもワーストクラスの人口減少が続いており、なんとかこの人口減少に歯止めをかけようと、現在もその解決策を模索しているところです。

 こうした状況において、人口減少の背後にある要因の的確な把握と、実効性の高い施策の選択が必要です。統計課では、平成30年度(2018年度)に、長崎県における統計データの利活用を推進するための「長崎県EBPM・データ利活用推進プラン」を策定し、統計データ利活用に係る拠点機能を整備することにしています。

 平成30年度は、長崎大学経済学部が、「経済学」が単なる学問としてだけではなく、地域の課題解決に役立つツールであることを実践的な活用を通して実証するためのコンサルタント企業「出島リサーチ&コンサルツ」を設立した年度でもありました。県庁ではこれまでもさまざまな分析をしていますが、このデータ利活用に係る拠点機能を整備することによってさらに分析を進め、外部リソースの活用も視野に入れた検討を進めていました。このタイミングで、長崎大学の先生方の出島リサーチ&コンサルツと連携を進めることとなりました。

具体的な取組内容

県と大学で連携するためのアプローチ方法をおきかせください

(笠山)
 総務省の委託事業である「統計データ利活用推進事業」の一環として、大学生のアンケートの設計や専門的な統計分析などを「出島リサーチ&コンサルツ」に再委託できました。

(須齋)
 大学教員の我々は県庁のさまざまな委員をする中で、長崎県の持っている重要な政策課題を知っていましたので、そういう課題を県庁と協力して解決したいとこの事業に取り組みました。データを基に政策を立案するのは、大学教員としても非常に重要だと共鳴しましたので、県の統計課の皆さんと事業を開始したのです。

 連携をどうやって実質化するかというところでは、まず事業の早い段階で議論をすることが重要だと考えています。大学の教員にも、さまざまな個別の分野があります。自治体がお持ちの課題が、その教員の専門にマッチしていることは非常に重要です。その辺もしっかりと情報を共有しながら事業を構築することが肝要と考えています。事業を進めるにあたって自治体の皆さんが主体的に考えるのか、あるいは大学側にその権限を委託するのかということは非常に重要です。特に自治体側に課題を解決したいという強い思いがあるのであれば、自治体側がしっかりとした考え方と目標を持って臨むことが重要だと感じています。

図1 「大学生の県内就職希望に関するアンケート」の概要
図1 「県と大学の課題共有」の概要

地方公共団体と連携するための理想的な体制とはどのようなものですか?

(須齋)
 今回長崎県との共同事業に当たっては、我々が大学発ベンチャーとして設立した「出島リサーチ&コンサルツ(DRC)」が事業を受託して、必要な大学教員(東京の教員も含む)の皆さんに委託をしながら事業を進めています。なぜDRCが受託したかというと、長崎大学が受託すると長崎大学だけの教員が参加することになるのですが、DRCが受託すると、それ以外の大学の専門性に合わせた教員を柔軟に雇用することができる。そのため、我々は今回の体制が有利であると理解しています。

 また、予算の面です。大学が受託すると国立大学法人なので、支出するときに予算上のさまざまな制約があるのですが、DRCが受託すれば非常に柔軟に配分ができる。例えば学生がこの事業に参加するときに、学生に対して支出できる項目が柔軟に配置できる。それが今回のメリットです。

大学との連携のメリット

県と大学で連携することのメリットはどのようなものがありますか?

(笠山)
 県の最重要課題である人口減少について、特に大学生の県内就職希望が低いことから、若者が県外に流出しているのではないかという認識は持っていました。大学生の県内就職に係る意識を十分に把握し、より効果的な施策に繋げていきたいという強い思いがありました。

 大学生の県内就職に係る意識を把握するために、大学生向けのアンケートを企画しました。その際、心理学の専門家を紹介いただき、アンケートの設計に加えて、対象に適した手法で専門的な統計分析を行うなど、県庁だけでは実施が難しい取組を行うことができました。
 人口減少の課題解決に向けては、新しいアプローチで要因分析も行っていただいており、この点からも大学の先生方と連携する利点は非常に大きいと思っています。

図2 「大学生の県内就職希望に関するアンケート」の概要
図2 「大学生の県内就職希望に関するアンケート」の概要

(須齋)
 今回の取組は、その成果を学会で報告することも可能なので、大学人として理想的な事業です。研究者個々の課題に近い課題を選んでいただいたので、その成果が研究成果として活用できるのは大きなメリットですし、研究者にとって参加するモチベーションが高くなります。

 大学では、「教育の一環」としてもこれが活用できれば、さらに素晴らしい事業になると考えています。具体的には、アンケートの作成や結果の収集に学生たちが参加することで、実際の県の政策に参加できる。これは学生にとって生きた教材となります。

 今回の事例のように県の皆さんと連携することで、住民の皆さんとのコミュニケーションを進める上でも大学としては非常に大きな成果があり、大学の使命の一つである地域貢献に寄与できたと考えています。県の皆さんの課題は我々の生活を取り巻く課題なので、大学で持っている知見をその解決に生かしてもらえれば非常にありがたいです。

図3 「大学生の県内就職希望に関するアンケート」の概要
図3 「県と大学で連携することのメリット」の概要

大学等と連携しようとしている地方公共団体へのアドバイスをお願いいたします

(須齋)
 地域の課題を解決したいと希望する大学教員はかなりいるので、県の皆さんから課題を提示していただいた今回のような取組は非常に重要だと考えています。一方で、我々は分析には先進的な手法を使いますが、その成果を県の職員の皆さんにきちんと理解していただくことが重要です。今回、広く県庁職員以外の方もお招きして講座を開く試みをされたのは非常に重要だと思います。

 今回の事業がうまく進んだ背景には、県の皆さんと我々でさまざまな議論をして、課題を共有して解決に向かったというプロセスが非常に重要だったと思います。

(笠山)
 地方公共団体の職員による分析には一定の限界があります。地元の大学などの研究者の力をお借りするといった外部リソースの活用は、今後の地方公共団体における分析、施策の立案いわゆるEBPMには絶対に必要です。

 この長崎県は、統計の分野では知られた杉亨二先生の故郷です。杉先生は長崎に生まれて国勢調査の実現に長く情熱を注がれた方です。今回、統計の利活用という分野で杉先生の思いを受け継いで、先生の言葉「枯れたれば また 植置けよ 我が庵」を、胸に置きながらこの取組を続けていきたいと思っております。

図4 日本近代統計の祖 杉亨二
図4 日本近代統計の祖 杉亨二

(笠山)
 今回、長崎大学の須齋先生をはじめ多くの先生方のお力をお借りし、新しい発想で新しい取組ができました。こういった取組を統計課の職員と一緒になって今後とも続けていきたいと考えております。

(須齋)
 今回取り組んだ地域の人口減少、特に若者が流出するという課題に対して、地域の知を結集し、しかも一般には煙たがられる統計という手法を使って挑んだことは非常に重要です。地域の持つ課題を地域の知を結集して解決する試み、各地域でも同じようなことが起きていると思いますので、ぜひ我々の例を活用し参考にしていただければと思っています。本日はどうもありがとうございました。

(笠山)
 ありがとうございました。

プロフィール

長崎県
県民生活環境部 統計課長
笠山浩昭 かさやまひろあき

長崎市出身、九州大学理学部地質学科卒業後、昭和59年長崎県入庁。
税等の現場で勤務した後、地方行財政や市町村合併に携わり、県民センター参事、長崎振興局管理部長、総務部財政課企画監、交通局管理部長などを経て、平成29年から統計課に勤務。現在、統計課長(参事監)。

プロフィール

長崎大学
経済学部 教授
須齋正幸 すさいまさゆき

早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程単位取得退学。
早稲田大学商学部助手、長崎大学経済学部講師、助教授を経て教授(現在)、この間長崎大学理事・副学長、シドニー大学ビジネススクール客員教授(2015)、出島リサーチ&コンサルツ代表取締役社長(大学発ベンチャー)。

【書籍】
  • Susai, M., and S. Uchida(eds.) Studies on Financial Markets in East Asia, World Scientific, Singapore, 2011
  • Susai, M., and H. Okada (eds.) Empirical Study on Asian Financial Markets, Kyusyu University Press, Japan, 2008
【論文】
  • Stenfors, A., M. Susai, Spoofing and Pinging in Foreign Exchange Markets. Journal of International Financial Markets, Institutions and Money , forthcoming, 2021.
  • Susai, M and H.Y.K. Wong, “Bank of Japan and ETF Market,” forthcoming, in: Stenfors,A and J. Toporowski eds., Unconventional Monetary Policy and Financial Stability: The Case of Japan, Routledge, UK, 2020.
  • Stenfors, A., M. Susai, Liquidity Withdrawal in the FX Spot Market: A Cross-Country Study Using High-Frequency Data. Journal of International Financial Markets, Institutions and Money , Vol.59, pp.36-57, 2019.
  • Stenfors, A. and M. Susai, High-frequency Trading, Liquidity Withdrawal, and the Breakdown of Conventions in Foreign Exchange Markets. Journal of Economic Issues, 52 (2), 385−395, 2018.
  • T. Chen, K.H.Y. Wong and M., Susai, “Active Management and Price Efficiency of Exchange-traded Funds,” Prague Economics Papers, Vol.25, No.1, 1-13, 2016.
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