意識調査での対象者の選び方には、2つのやり方があります。全数調査にするか、それとも標本調査にするか、です。
全数調査とは、関心のある社会や集団を構成するすべての個体を調査するものです。
標本調査とは、関心のある社会や集団を構成するすべての個体のうちから、一部だけを標本として取り出して調査するものをいいます。
すべての個体を調査できる条件が整うのであれば、全数調査を行うことが妥当でしょう。ところが現実には、全数調査ができないことはしばしばあります。
第1に、全数調査をすると調査の規模が大きくなり、莫大な予算を必要とします。
第2に、全数調査をすると、調査終了までの時間が長くかかります。
第3に、調査データに求める精度によっては、全数調査をする必要性はなく、標本調査でも十分であるかもしれません。
これらの事情により、全数調査はできない、あるいは選ばないことが実は多いのです。
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ゼミナール編(2) 〜調査実施と分析
2時限目 標本設計と調査方法
2-1 標本設計
母集団と標本
全数調査と標本調査
母集団とは?
先ほど、関心のある社会のすべての個体という表現をしましたが、それをひと言であらわす専門用語があります。それが母集団です。母集団とは、調査によって特徴を明らかにしたい社会あるいは集団のことをさします。
意識調査で何を母集団にするのかは、調査を行う主体の関心や、問題意識に合わせて設定すればよいです。日本国民全体を母集団とすることもあれば、ときには東京都文京区の中学生というように限定した母集団を設定することもあります。
無作為抽出とは?
標本調査では、母集団から、標本を取り出す手続きを行います。そこで重要となるのが、無作為抽出という技術です。無作為抽出とは、母集団のなかに含まれるすべての個体が等しい確率で標本に選ばれるようになっている抽出法のことをいいます。
無作為抽出の利点は、無作為抽出をすることによって、得られた標本が代表性を確保できることです。すなわち、大きな母集団を代表する、適切な縮図たる標本を得ることができるのです。簡単にいうと、無作為抽出によって選ばれた5,000人に調査するだけで、1億人超の日本国民の意見が(9,999万5,000人には調査していないにもかかわらず)把握することができます。
さらに、代表性があるゆえに、一般化ができます。一般化というのは、標本の分析結果から、潜在的な母集団の特徴を推測することをいいます。一般化をした議論が許されるのは、代表性が確保された調査データを使うときに限られます。そして、代表性の確保のためには、無作為抽出によって標本抽出がなされることが必要なのです。
前述したことを図示すると、下図のようになります。無作為抽出した標本に対して意識調査を行い、得られたデータセットを分析して、統計的推測をします。このような科学的な手続きに基づけば、相対的に小さい規模の標本調査でも、母集団の姿をかなり正確に知ることができるのです。しかも、お金、時間など、調査のコストを格段に下げている点が強調できます。

大きな母集団の性質をかなり正確に知ることができる。
執筆・監修:東京大学社会科学研究所 教授 三輪 哲