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大学等との連携

つくば市 保健福祉部×筑波大学

大学等との連携


つくば市 保健福祉部×筑波大学

つくば市では、保健福祉分野でのデータの利活用に取り組むため、任期付職員として地域医療に従事する医師を橋渡し役として雇用し、筑波大学との連携に取り組んでいます。大学等との連携について、他の自治体の参考になるポイントをご紹介します。

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つくば市の官学連携事例にみるEBPM推進のポイント

多くのつくば市職員がデータ利活用の必要性を認識していたが、実際にそのデータからどのようにニーズを読み取るのか、どのような施策に繋げていけばいいのかさまざまなハードルがあった。
筑波大学の田宮教授、つくば市に参事として雇用された黒田医師、そして市の職員、それぞれの立場からお話を伺った。

3つのポイント

  1. 大学の研究結果を市の施策に還元するためには、橋渡しができる人材が必要
  2. 専門的な活動を継続しながら市役所でも仕事ができる、柔軟な雇用条件が決め手
  3. 市の職員が分析したいというモチベーションをもって研究者へ依頼する形が理想

大学との連携のきっかけ

●お話を伺った方
つくば市 保健福祉部 参事 黒田直明氏(以下 黒田)
筑波大学 医学医療系・ヘルスサービスリサーチ分野 教授 田宮菜奈子氏(以下 田宮)
つくば市 職員各位(以下 VOICEとして参加)

(黒田)
 つくば市保健福祉部の黒田と申します。地方自治体がデータに基づいた施策を推進するために、地域医療に従事する医師が任期付きの市職員となり大学の研究者との橋渡しを行うというつくば市の取組について、他の自治体の皆さんのご参考になると思われる事柄を、筑波大学の田宮教授と共にご紹介していきます。

(田宮)
 筑波大学の田宮と申します。私は大学の立場でデータ分析に基づいて地域に役立つ研究を目指してきましたが、地域の方と一緒にやらないと研究が意味をなさないとずっと悩んでおりました。今回、つくば市と一緒に進めていくことができて、大変いい経験をしています。本日は大学の立場からお話をさせていただきます。よろしくお願いします。

どのような問題意識で取組を始めたのですか?

VOICE:つくば市 保健福祉部 部長 小室伸一
 近年、自治体が保有しているデータを有効に活用して住民サービスを向上させたり、政策立案を行ったりすることが重要視されています。つくば市全体でも特に力を入れている分野なのですが、現場からはデータの扱いに習熟したスタッフがいないという声が聞かれていました。そこで当時の保健福祉部長が、保健福祉分野、特に医療介護データの活用を推進するような人材を外部から雇用してはどうかといった提案をし、人事課に相談したという経緯です。

VOICE:つくば市 総務部 人事課 課長 沼尻浩幸
 保健福祉部から相談があり、いくつかの採用条件のパターンを検討しました。職務内容から専門的な知識が必要とされる業務であり、また期間も複数年必要であることから、任期付職員として2年間、週3日の勤務条件を設定して募集することにしました。

(黒田)
 私はもともとつくば市で精神医学の臨床医をしながら、筑波大学で医療介護レセプトを使った研究に従事していました。保健医療サービスを良くするには何が必要かという研究成果は世界中でたくさん発表されていますが、その大半が政策に生かされておらず、非常にもったいないと感じていました。そういったときに、つくば市がこのような公募をすると聞きました。医師としての臨床活動を継続しながら、市役所の中でも仕事ができるという柔軟な雇用条件が魅力的で応募しました。

具体的な取組内容

これまでにどのようなことをされてきたのですか?

(黒田)
 まず筑波大学との協力関係の基盤をしっかり作るということを、田宮教授と一緒に取り組みました。

(田宮)
 大学側の我々のチームは、「医療を人に健康・幸福をもたらす一連のサービスとしてとらえて、いかにそれを必要な方に効果的に届けるか」ということを研究する、ヘルスサービスリサーチという学問を専門としています。中でも医療介護の分野を柱としてきました。国のデータヘルス改革に基づいていろいろなデータが活用できるようになったので、全国規模のデータも多数扱っています。一方で、地元つくば市に役立つ研究も大切に思ってきました。例えば、つくば市の高齢者福祉推進会議の委員長を長年務め、高齢者福祉計画のためのアンケート調査、そのデータを用いていろいろな市民の方の実態に関する研究を多数やりました。しかし、その結果を市の施策に還元するのは難しく、そこの橋渡しができる人材がいる中での連携強化の必要性を痛感してきました。

図1 覚書の締結式の様子
図1 覚書の締結式の様子

 そこで今回、黒田参事と協力し、2019年8月に「つくば市及び国立大学法人筑波大学の医療介護分野におけるデータ分析に関する覚書」を締結しました。

 これによって、両者の協力関係の土台がしっかりしただけでなく、つくば市の医療介護のレセプトデータ(どこで医療・介護を受けて自宅で療養されるか、などのようなデータ)が匿名化処理された上で筑波大学に正式に提供され、我々のセンターで研究ができるようになりました。このデータを用いて、訪問診療の分析や施設入居者の医療費などのユニークな研究を市と大学と共同で学会発表をしています。地域包括ケアシステム構築のための指標としても活用していきたいと考えています。

市役所の中では、どのようなことに取り組まれましたか?

(黒田)
 行政の仕事は初めてで、最初は市役所の仕事がどういったものかも全くわかりませんでした。そこで、まず半年間かけて保健福祉部の各課の皆さんに定期的に集まっていただいて、各分野にどういった課題があるか、どんなデータが利用できそうかということを検討しました。

 次に、職員の皆さんがデータを活用していく上でどんな困難さを感じているのかをアンケート調査しました。その結果、データ利用の必要性は認識しているが、データからニーズを読み取るとか、データを使ってどういった施策に繋げていけばいいのか、といった点でさまざまなハードルがあることがわかりました。

図2 市職員アンケート結果より
図2 市職員アンケート結果より
図3 市職員アンケート結果より「データ利活用の困難さランキング」
図3 市職員アンケート結果より「データ利活用の困難さランキング」

 (黒田)
 慢性疾患の重症化予防とか、健康寿命の延伸といった市の保健福祉施策の重要テーマにおいては、若い頃からの生活習慣や健康状態を非常に長期的なスパンで観察していくことが必要です。しかし、市の中では年代や分野によってデータが分かれており、縦断的・横断的な視点に立ったデータの把握が非常にしづらいことが課題であると感じました。

図4 データ活用の連続講座の様子
図4 データ活用の連続講座の様子

 次に、データからニーズを読み取る技術の基礎を市役所職員の皆さんに体験して学んでいただくことが役に立つのではないかと思い、データ活用の連続講座を開催しました。

 これは自分たちでテーマを選び、元々あった市民アンケート調査と、別の観点として国民健康保険の医療費データベースを使ってExcelで分析し、最終回でプレゼンテーションをするといった企画でした。ここで私が気をつけたのは、一つの問題を複数のデータソースから多面的にみることや、別の課の人と一緒になって得られた結果についてディスカッションする重要さを伝えることです。慣れない仕事でしんどかった方もいらっしゃったと思いますが、それなりに楽しんでいただけたと感じています。

VOICE:つくば市 保健福祉部 国民健康保険課 主任 長南具宏
 地域の医療費の推移を分析したり、他の自治体と比較したりする上では、年齢構成による影響や偶然による変動を考慮に入れる必要があるなど、重要なことを学べました。ひとつ分析すると、好奇心からさらに次を分析したくなるような体験でした。

VOICE:つくば市 保健福祉部 健康増進課 保健師 真木みゆき
 同じデータでも複数の部署の視点が入ると、いろいろなことが見えてくることが実感として分かりました。 データをまとめる際に、そのデータによって何を見せて何を伝えようとするのかを意識的に考えるようになりました。

VOICE:つくば市 保健福祉部 地域包括支援課 主査(社会福祉士) 藤田由夏
 数値を意識して目標設定する考え方は、本ミーティングに参加しなければトレーニングできなかったと思います。 業務の一環としてこのようなトレーニングが受けられたことに意義を感じました。多くの職員が受講できたらよいと思います。

大学との連携で心がけていること

大学との連携の上でどういうことに気をつけていますか?

(黒田)
 データ分析というのは、よく誤解されますが、データさえあれば何か答えが出るのではと期待されます。しかし、データ分析の前には、何を解決したいのか、どういう課題があるのか、といった疑問や仮説が必ず必要であり、そこからスタートしないといけないと思います。ですので、大学と市あるいは地方自治体が連携してデータ分析を行うときにその結果を実りあるものにするには、依頼する側の市の職員あるいは行政の職員が、普段の業務の中から「これはデータ分析をして解決したい」という疑問をきちんと発見できるかどうかが重要です。そして、それを分析したいというモチベーションを持って研究者に依頼する形が理想です。「ここがちょっとわからないのですけれど」などと興味を持って依頼してもらえれば、研究者もやりがいを持って頑張って分析できます。そういったことを市の人に理解して身につけていって欲しいと心がけています。

 研究者と行政の職員は、これまで培ってきた経験や、仕事で何を重視するかとか、いろいろと視点が違います。したがって、お互いの背景や考え方を直接会って知る機会が必要です。そういったこともあり、昨年度は筑波大学の授業で(これは以前から毎年行われている授業なのですが)高齢者福祉計画のアンケートを使って看護の学生がデータを分析し施策を提案する発表会があり、私も参加しました。私以外にも市の職員の皆さんにたくさん参加していただき、発表にコメントをいただくということをやってみました。

VOICE:つくば市 保健福祉部 高齢福祉課 課長 中根英明
 市が持つデータから課題を分析し、政策を提案するというもので、10グループによる発表がありました。どのグループの発表も市が抱えている課題を的確に捉え、政策・提案されていました。特に良い提案については、今後市長に直接発表する機会を設けようと思います。よりよい福祉行政と共に学生の職業観の基礎となるように今後も大学と市でこのような交流を継続的に行いたいと思います。

このような取組を行っていきたい他の自治体へのアドバイスをお願いします

(黒田)
 多くの医療従事者や医学系の研究者は、現在の医療システムの中で努力して頑張っていますが、その中だけでは限界があります。その限界を超えていくためには、やはり地方の行政機関との連携が必要だという考えに、皆さん同意されると思います。昨今、公衆衛生学修士(Master of Public Health)といって、集団の健康を守る実務家を養成する大学院のコースが日本でも増えてきており、筑波大学でも取得することができます。こういった方々が増えているので、私のように研究あるいは臨床家としての活動と行政の橋渡しをしたいという人は多いのではないかと思います。

 そういった方たちは、すでに臨床現場や研究者としての重要な役割を担っている方が多いので、その仕事を全て辞めて行政の職員にということになると、二の足を踏む人がいると思います。今回つくば市で工夫していただいたような、臨床活動あるいは研究と行政での仕事を両立できる雇用形態は非常に意義があると思います。そういうことをご考慮いただくと、人を確保していく上では非常に効果的ではないかと思います。

(田宮)
 このように市の職員でありながら、大学で研究をし、臨床活動も行えるフレキシブルな体制を作ってくださったつくば市のご理解を大変ありがたいと思っております。他の自治体もこのような工夫をしていただけると、よりよい共同体制が発展できると思います。

 公衆衛生は実社会が変わってこそ、研究に意義があります。このような体制があれば人材が活躍できる道ができます。昨今新型コロナウイルス感染症の経験から、日本版のCDC(疾病予防管理センター)のような議論がされており、より実践に即した研究の必要性が叫ばれています。そうした中、行政と大学を結ぶ立場で働く専門家の役割は非常に重要になります。つくば市の取組はこのよい前例となるのではないかと考えています。

VOICE:つくば市 保健福祉部 地域包括支援課 主査(社会福祉士) 藤田由夏
 データを活用して業務を進めようとすると、今あるデータで何がわかるか、他にどんなデータが必要か、そのようなデータはどこを探せば入手できるか、大学に依頼すれば分析できるのかなど、疑問が次々と湧いてきます。市役所が大学や研究者と連携するにはさまざまな形態があると思いますが、市役所内に週に3日参事がいることのメリットは、データの使い方について、その都度相談して進められることだと思います。私が担当する地域包括ケアの分野は、医療・介護保険・高齢者福祉・健康増進と複数の課にまたがっており、市役所の中のデータですら把握するのが容易ではありません。参事とディスカッションを重ねながら、協議会で議論し取りまとめた医療と介護の連携に関する目標像を、さまざまなデータを用いた数値指標に落とし込むことができました。今後も筑波大学と連携し、医療と介護のありたい姿を踏まえた評価指標をブラッシュアップし、PDCAに沿った取組をしながら、つくば市の地域包括ケアシステムの構築に努めていきたいと思います。

(田宮)
 貴重なデータを活用するために自治体と研究者が協力していくことは、とても大切だと考えます。市町村こそが地域の最前線として、地域独自のニーズをデータから把握して施策に活用していける場所です。

(黒田)
 医療や介護の現場、研究者、行政、職域の垣根を超えて働く仲間が増えていってほしいと願っています。地域のニーズに根ざした地に足のついた研究をひとつでも多く世界に向けて発信し、よりよいつくば市になるように研究成果を共に生かしていきたいと思います。一緒に頑張りましょう。

(田宮)
 頑張りましょう。

プロフィール

つくば市
保健福祉部 参事
黒田直明 くろだなおあき

筑波大学医学専門学群卒。同大学社会精神保健学研究室と精神科病院にて精神医療を研鑽。米国公衆衛生大学院留学中に地域に根差した【協働的】な研究実践に触れる。帰国後、精神医療の現場に戻りつつ、ヘルスサービス研究にも従事。2019年4月からつくば市保健福祉部に勤務し、地方行政・研究者・臨床医の観点から本当に役立てられるデータ活用を考えている。精神科専門医・指導医、社会医学系専門医指導医、博士(医学)、公衆衛生学修士。

プロフィール

筑波大学医学医療系
ヘルスサービスリサーチ分野 教授
田宮菜奈子 たみやななこ

臨床の在宅診療経験を原点に、入院医療から地域への連続性、サービスへのアクセス、質のアウトカム評価の重要性を感じ、公衆衛生大学院生として米国で出会ったヘルスサービスリサーチ(HSR)の考え方を日本に導入。老人保健施設長などを経て我が国初のHSRの研究室を2005年に筑波大学で開設。以降一貫して、つくば市高齢者保健福祉推進会議委員長をはじめとして地方自治体および国との共同で、保健医療介護福祉を含むHSRを実施している。また、2017年から、国のデータヘルスアドバイザーも務め、現場に生かせるデータ活用を推進している。

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