薬の効果を調べる

 新薬の開発段階では、薬の効果を確かめるために、患者などを対象とした試験が行われています。そして、特に試験により得られたデータから薬の効果を判断する際には、統計的な手法が必要とされています。

 新薬が販売されるまでには、新薬になる可能性を持つ物質を探し出す「基礎研究」、動物など用いて新薬の有効性や安全性を調べる「非臨床試験」、実際に健康な人や患者を対象として新薬の有効性と安全性に問題がないことを確認する「臨床試験」が行われます。そして、その後は厚生労働省への新薬の承認申請、申請が承認された後は、実際に発売されることになります。
 新薬の開発から販売までには10年以上の長い期間をかかりますが、薬が販売された後も、臨床試験では得ることができない日常治療下での薬の有効性や安全性を確認するため、引き続き様々な調査や試験が行われます。

 このように、新薬が実際に販売されるまでには、多くの期間やプロセスを経ているのですが、特に臨床試験では実際に患者などを対象にして薬の有効性や副作用などの安全性を確認するので、重要なプロセスとなります。
 臨床試験では、重症度などの患者の背景が一方のグループに偏って分けられることのないよう、クジ引き等の方法により同質な2つのグループを作り、新薬の効果を確認するということが行われます。そして、得られたデータから、新薬に本当に効果あるのかを判断するには、「仮説検定」と呼ばれる統計的な手法が使われています。

 ここで、血圧を下げる効果のある新薬(降圧剤)の効果を確かめる試験を行う場合を例として考えてみます。

 同質な2つのグループについて、片方のグループには新薬を、もう一方には降圧効果のある既存薬(※1)を飲んでもらい、新薬が既存薬に比べて効果が向上しているかを確認するとします。
 試験結果から新薬が既存薬よりも血圧の下がり方が大きかったというデータが得られたとしても、新薬と既存薬による血圧の下がり方の差は偶然に発生した差なのか、それとも新薬の効果が既存薬よりも高いことに起因する差なのかを判断する必要があります。
 これを客観的に判断するために使われているのが「仮説検定(※2)」です。
 上記の例の場合であれば、まず初めに「新薬と既存薬の効果に差はない」という仮説(帰無仮説)を立てて、その仮説の基で試験から得られたデータ(上記例の場合、新薬と既存薬の血圧の下がり方の差)が発生する確率を考えます。そして、この確率がある一定以下の小さな確率である場合は、その仮説の基では「めったに起こらないことが起きた」と考え、初めに立てた仮説が適当でないとします。つまり、「新薬と既存薬の効果に差はある」(対立仮説)と判断されます。

 このように新薬開発においては、薬の効果を客観的に確認する手段として、仮説検定といった統計的な手法が必要不可欠になっています。

(※1) 新薬が今までにないタイプの薬であるとき、比較するのに適当な既存の薬がないこともあります。この場合、外観や味を新薬と全く同じにした偽薬(プラセボ)を作り、試験を行います。

(※2) 仮設検定には、扱うデータのタイプ(間隔尺度、順序尺度、分類尺度など)や想定する母集団の分布型によりいくつかのバリエーションがあります。