生物の個体数を把握

 生態学(個体群生態学など)と呼ばれる分野では、生物の個体数の変動のメカニズムなどを研究する際に、ある地域にまとまって存在する生物の個体数を把握することがあります。しかし、全ての個体数を数えることは現実的には困難です。このため、一部の個体数(標本)を調査し、全体の個体数(母集団)を推定することが必要になってきます。この推定の際には、統計的な理論に基づいた様々な個体数の推定法が用いられています。

 個体数を把握する最も簡単な方法は、捕獲再捕獲法(標識再捕獲法とも言われます)と呼ばれる手法です。これは、一般に湖にいる魚などの生物に対して利用される方法です。
 ここでは、湖にいる魚の個体数を推定する場合を例として、捕獲再捕獲法の概要を紹介したいと思います。まず、湖からn1匹の魚を捕獲します。魚にはタグなどの目印を付けて、湖(母集団)に戻します。その後、目印を付けた魚が湖にいる他の魚と混ざり合うようにしばらく経ってから、再び湖からn2匹の魚(標本)を捕獲します。そのうち、m匹の魚に目印が付いていたとします。そうすると、再捕獲された標本に占める目印が付いている魚の割合は、

再捕獲された標本に占める目印が付いている魚の割合

となります。また、湖全体にいる魚に占める目印の付いた魚の割合は、

湖全体にいる魚に占める目印の付いた魚の割合

となります。目印を付けた魚が湖に均一に混ざっていれば、標本内での割合(1)と湖全体での割合(2)は等しくなり、湖全体にいる魚の総数Nの推定値は、

湖全体にいる魚の総数Nの推定値

となり、湖全体にいる魚の総数Nを推定することができます。

 なお、この方法は、捕獲、再捕獲の時点の個体の総数Nが変化する場合やほとんど移動しない個体や目印を付けることが困難な個体などを調査対象とする場合などは、捕獲再捕獲法による個体数の推定は適当ではないため、注意が必要です。

捕獲再捕獲法のイメージ

参考文献

統計学事典、Graham Upton、Ian Cook (著)、白旗慎吾ら(訳)、共立出版