季節的な動きを除去

 社会経済や経済の動向等を把握する際は、官公庁や民間などから発表される経済統計データが用いられています。

 このような経済指標や時系列データ(※1)のうち、月や四半期のデータの動きをみると、一年を通して決まった動き(一年を周期とした変動)がみられます。このような動きは、季節変動と呼ばれています。季節変動が含まれるデータを分析する際には、季節変動を取り除くことが必要になる場合があります。このとき、何も手を加えない元のデータ(原数値)から季節変動を取り除く季節調整という統計的な手法が使われています。

 それでは、季節変動はなぜみられるのかというと、世の中のモノの動きには天候や社会習慣等に起因する以下のような季節的な要因(季節要因)が含まれているためです。

《季節要因》

 1.自然条件
天候や気温などの自然条件は、経済活動に直接影響を与えます。例えば、清涼飲料水などは、夏に消費が増加するため、これに対応して生産量や売上高なども変動します。

 2.暦の要因
月による日数や休日の違いによる影響です。例えば、年末年始、ゴールデンウィーク、お盆などの休日が続く月や2月などは他の月に比べて工場の稼動日数が少なく生産が減少したりします。

 3.制度・習慣からの影響
7月、12月には、中元、歳暮の習慣があるほか、これらの月にはボーナスの支給も重なるため、消費が急増する傾向にあります。そして、これに対応して商品やサービスの生産・売上も増加します。

図1 消費水準指数(世帯人員分布調整済)‐二人以上の世帯

 図1は、年次別に1世帯当たりの家計の消費支出(※2)から1か月の日数や物価水準の変動の影響を取り除いて計算した指数(消費水準指数)の月別の動きを示したものです。この指数が高い場合、家計での支出が多いことを表しています。
 これをみると、消費水準指数はボーナスが支給される時期に重なる12月が最も高く、他にも3月や4月が高くなっています。一方で、5月や6月は低くなっているなど、1年を通じて一定の変動パターン(季節変動)があることが分かります。
 例えば、一年の中で消費支出が低くなる5月や6月と最も高くなる12月の支出金額を単純に比較しても、5月や6月よりも12月の方が家計の消費が活発であったと判断することはできません。これは、支出金額は5月や6月が少なく、12月が多いことは季節的に当然であるためです。

 このような季節要因により、経済指標や時系列データを分析する際は、単純にデータの推移をみて動向を判断しても、分析の目的によっては有効な結論を得ることができない場合があります(※3)
 そこで必要となるのが、原数値から季節要因による変動を除く「季節調整」と呼ばれる手法です(原数値から季節変動を除いた値を季節調整値といいます。)。
 季節調整にはいくつかの方法がありますが、日本では移動平均(※4)の考え方を使った統計的な手法(センサス局法(※5))が広く使われています。季節調整値は、季節要因による変動が除かれているため、当月と前月や前々月などとの比較が可能となり、直近の動向を確認することができることなど、精度の高い比較・分析が可能となります(図2)。

図2 消費水準指数(世帯人員分布調整済)ー二人以上の世帯

 ここまでを読むと、原数値よりも季節調整値の方が有用で、原数値はあまり使われないかと思ってしまう人もいるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。例えば、企業では、消費の需要に季節性がある場合、季節性を含んだデータを基に商品の生産量を決めたりします。また、行政機関では、失業者(職を探している人)に対する失業対策を考えるときは、実際にどの程度の失業者が存在しているのかを把握したり、失業者が増加する時期を踏まえて対策を講じるためです。

(※1) 時系列データとは、時間経過の順に計測・集計したデータをいいます。一般的に時系列データは、月、四半期、年度など、一定の時間間隔で集計されています。

(※2) 日常生活に必要な商品やサービスを購入して実際に支払った金額をいいます。

(※3) 季節要因による変動を考慮しなくて済む最も簡単な方法は、(月次データであれば)当月と前年同月で季節性が変わらないと仮定して、当月と前年同月を比較することです。しかし、前年との比較であるため、前年に急激な変動がある場合は前年の動きに影響されることや経済の実勢を把握するのが遅れてしまうといったことがあります。

(※4) 一定期間の間隔を定めて、その間隔内の平均値を連続して計算することによって、データのトレンド(傾向・趨勢)を把握するための統計的な手法です。( 移動平均について

(※5) センサス局法は、アメリカ商務省センサス局が開発した季節調整法です。

 

参考文献

入門季節調整法 有馬帝馬著、東洋経済新報社