地震による被害想定

被害予測の作成

 災害には、地震、火災、洪水、津波などいろいろありますが、狭い国土に多くの人口を抱えている日本において、防災対策は避けてとおれない問題です。
 防災対策でまず必要なことは、対象となる地域の状況を正確に把握することです。災害による被害の大きさは、対象地域の人口、人口密度、建築物の種類、また災害の起こる時刻などによっても、大きく異なってきます。特に、通勤や通学などの影響により昼と夜の人口が著しく異なる都市部においては、災害の発生が昼間、夜間のいずれであっても十分に対応できるよう、防災のための設備と機能を備えなければなりません。
 このための基礎資料として、国勢調査(総務省統計局)で得られる人口、人口密度、人口分布のほか、通勤・通学に伴う人口の流れと量が把握できる昼間人口(従業地・通学地による人口)・夜間人口(常住地による人口)(※1)に関する結果などが使われています。

 例えば、地震に関しては、国や地方自治体において地震発生により想定される、建物被害、人的被害、交通被害、電力・通信・ガスなどのライフライン被害などの被害想定が作成されており、災害対策などを立てる際に使われています。
 この被害想定の作成に当たり、建造物の倒壊などの建物被害による人的被害(死者数)を算出する際には、国勢調査の昼間人口や夜間人口、住宅・土地統計調査(※2)(総務省統計局)から得られる木造建物数や非木造建物数などの統計調査結果が活用されています。

 ここでは、東京都防災会議地震部会において作成された「首都直下地震による東京の被害想定報告書」を基に、建物被害による人的被害(死者数)の作成までの流れを簡単に紹介したいと思います。
 なお、以下に示す作成方法は、想定される建物被害による死者数の作成までの大まかな流れ、統計調査結果がどのように使われて算出されているかを示すことに重点を置いているため、算出方法について一部簡略化しています。このため、詳細な算出方法については下記の参考情報を御参照ください。

【A市の建物被害による人的被害(死者数)の想定】

木造住宅内滞留人口と非木造建物内滞留人口の算出(図1参照)

建物被害による人的被害(死者数)の作成その1

 

  1.  国勢調査とパーソントリップ調査(国土交通省)(※3)の結果から、想定する地震発生時の時間帯のA市における「住宅滞留者数(在宅している人数)」と「その他施設滞留者数(勤め先などにいる人数)」を算出します。
  2.  「住宅滞留者数(在宅している人数)」について、住宅・土地統計調査から得られる木造・非木造住宅比率(※4)を用いて、「木造住宅内滞留人口(木造建物内滞留人口」と「非木造住宅内滞留者人口」をそれぞれ算出します。
     これは、建物は建設された構造などによって地震に対する強度が異なります。このため、建物を木造建物と非木造建物に分けて考えることが必要なためです。
  3.  2で得られた「非木造住宅内滞留人口」と(1)で得られた「その他施設滞留者数(※5)」を合計し、「非木造建物内滞留人口」を算出します。

 

木造建物内死者数の算出(非木造建物内死者数も同様に算出)(図2参照)

図2建物被害による人的被害(死者数)の作成その2
  1.  固定資産税台帳からA市に存在する「木造建物数」のデータを用意します。そして、過去に発生した地震のデータから得られている想定震度に対する建物の全壊率の関係から、得られた「木造建物数」に対する「木造建物全壊棟数」を算出します。
  2.  過去の発生した地震のデータから得られた、木造建物被害棟数と死者数の関係から得られる以下の関係式と(4)で得られた「木造建物全壊棟数」から、「(標準式による)死者数」を算出します。
    標準式による死者数=0.0676×木造建物全壊棟数
     なお、非木造建物の場合は以下の関係式を用います。係数の0.0240は、非木造の建物が木造よりも倒壊しにくいことを反映したものです。
    標準式による死者数=0.0240×非木造建物全壊棟数
  3.  時間帯ごとの木造建物内滞留人口の違いを考慮するため、「木造建物内滞留人口」を国勢調査から得られるA市の「昼間人口又は夜間人口(※6)」で割った「木造建物内滞留者率」を算出します。
  4.  木造建物内滞留者率」を「(標準式による)死者数」と掛けることにより、「木造建物内死者数」を算出します。

 

建物被害による死者数

  1.  得られた「木造建物内死者数」と「非木造建物内死者数」を合計したものが建物被害で想定される死者数となります。

 

(※1) 夜間人口とは、調査時に調査の地域に常住している人口(常住人口)をいいます。一方、昼間人口とは、常住人口に他地域からの流入人口(通勤、通学者数)を加えて、当該地域から他地域への流出人口(通勤、通学者数)を除いた人口です。[例:A市の昼間人口の算出方法] A市の昼間人口=(A市の夜間人口)-(A市からの流出人口)+(A市への流入人口)

(※2) 住宅・土地統計調査は、我が国の住宅とそこに居住する世帯の居住状況、世帯の保有する土地等の実態を把握することを目的に5年に一度実施されています。

(※3) パーソントリップ調査は、どのような人がどのような目的・交通手段で、どこからどこへ、どの時間帯に動いたかについて、調査日1日の全ての動きを調べる調査です。そこからは、鉄道や自動車、徒歩といった各交通手段の利用割合や交通量などを求めることができます。

(※4) 木造住宅比率 = 木造住宅数/(木造住宅数+非木造住宅数)
     非木造住宅比率 = 非木造住宅数/(木造住宅数+非木造住宅数)

(※5) その他施設滞留者は、全て非木造の建物内にいるものと仮定します。

(※6) 想定する地震発生時の時間帯によって、昼間人口又は夜間人口のいずれかを使います。

 

参考情報

首都直下地震による東京の被害想定報告書(東京都防災会議地震部会)