第1回研究会.背景・現状の整理、スコープ・方針決定
背景・現状の整理
- プレヒアリングを踏まえ、当初想定していた「子育て世代の転出が多い」という仮説を見直した。各種データを確認したところ、単身世帯の転出が多く、高齢世代の転出も多いことが判明した。
- 産業面では、宿泊業等の観光産業は特に多いが、製造業は他市町と大きな差がないことも確認した。
検討内容
- EBPMの基礎知識の共有と、本検討のスコープ・方針を決定した。また、行政課題の整理を行い、若年層・特に女性の転出と、転出後のUターン不在を課題として設定した。
- その他、雇用側と求職側のアンマッチ解消を検討の柱とすることを決定するとともに、フィールドワーク候補先のリサーチを開始し、会津若松市を有力候補として選定した。
得られた示唆、今後の検討事項
- 雇用環境の整備だけでは他市町居住で就労する可能性もあり、居住先の選択要因も含めた分析が必要である。
- また、日光市は宇都宮市が通勤圏内であるため、広域的な視点での検討が重要である。観光産業という地域の強みを活かした施策検討が求められる。
参加者の感想「難しかった点・大変だった点」
当初は子育て世代の転出が多いと考えていたが、プレヒアリング後に改めてデータを確認したところ想定と異なる結果が出た。
漠然としたイメージで「魅力ある働き場所が少なく、市内で就労している人が少ない」ことが主要因と考えていたが、データに基づく検証が必要であることを実感した。また、人口減少対策は対象範囲が広く、検討のスコープを絞り込むことの難しさがあった。
第2回研究会.転出入の現況分析、調査で解く問い・仮説の設定
第2回研究会までに取り組んだことや気づき
日光市にて、令和2から6年の転出入者向けアンケートを使って、年代別・性別分析を実施した。令和6年のアンケートでは転出69%、転入60%であったが、転出・転入ともに20から30代前半が中心であった。特に25から29歳の転出が最多であった。
Uターン意向については約6割が「分からない」と回答し、明確に戻る意思がある方は1割程度にとどまった。
検討内容
- 転出入の現況データを基に、メインの問いを「若年層が転出する理由は何か」「転出した後に戻ってこない理由は何か(どうすれば戻ってくるのか)」に設定した。
- 仮説として「通勤可能圏に魅力的な就職先がない」ことが転出の主要因、「戻ってくる際にも魅力的な雇用の場が必要」であることがUターン阻害要因として設定された。比較対象として栃木県宇都宮市・鹿沼市・那須烏山市・小山市、福島県会津若松市を選定した。
得られた示唆、今後の検討事項
- 国勢調査データ等を用いた定量分析とアンケート調査の要因分析を両輪で進める方針を確認した。
- 新規調査として転出者へのハガキ及びQRコードでのアンケートやウェブアンケートを検討したが、個人情報の手続きや出現率の課題が判明し、事業者インタビューの実施を現実的な方針として検討を開始した。
第3回研究会.転出入の深掘り分析、他都市比較
第3回研究会までに取り組んだことや気づき
日光市にて性・年齢別の5年間の純転出数を整理した結果、25から29歳女性の転出超過が20から34歳の中で最大であり、核心層であることが判明した。
合わせて6市町のマクロ指標比較を実施し、日光市が他市町と比較しても転入超過率が低く、「働きに外に出る町」としての傾向が高いことが確認された。
検討内容
転出と転入を分けた分析の重要性を議論し、ネット(純転出入)だけでなく転出・転入それぞれの実態把握を進めた。
他都市比較では、会津若松市との産業構造等の類似点と昼夜間人口比率の大きな差などの相違点を確認した。
データ分析の深掘りと並行して、打ち手案の検討を開始し、その内容を踏まえて深掘り領域を決定する方針とした。
得られた示唆、今後の検討事項
- 新規調査は事業者インタビューを主軸とし、既存の転出者向けアンケートへの追加項目検討もマストの取組とした。
- ウェブモニター調査の出現率は0.09%とウェブモニター調査の実施は非現実的と判明した。
- 女性の労働力比率が相対的に低い点やM字カーブの残存等、性別に着目した深掘り分析の必要性についても確認した。
アドバイス「他自治体で取り組む場合の示唆」
他都市比較にあたっては、標準化や比率での比較が必要不可欠であり、人口規模以外の指標については基本的に比率での比較が必要である。
ネット(純転出入)の転出入で見てしまうと複数の要因が混ざるため、転出と転入を分けて整理することが重要。
女性のM字カーブについては全国的にはほぼ解消傾向だが、産業構成によって地域差が残存しているケースがあるため確認すべきである。
具体的な打ち手案を先に検討し、その内容に応じて深掘りすべき分析領域を絞り込む進め方が効率的である。
第4回研究会.打ち手案の検討、他都市比較の深掘り
第4回研究会までに取り組んだことや気づき
- 日光市にて、これまでの分析を第1から4章に整理し、第5章で打ち手案を取りまとめた「資料まとめ」を作成した。
- 転出先の傾向分析では、県内各市町の所得額と若年移動数に正の相関があることを確認した。
また、年齢別の転出率・転入率の他都市比較を実施し、日光市の20代女性の転出率が極めて高いことをデータで確認した。
検討内容
- 打ち手案について、施策ターゲットを25から29歳女性に絞ることの重要性が議論された。
- 「所得面の改善」「生活価値の強化」「ターゲット別アプローチ」の三層整理が提示された。
- 他都市比較では、20代女性にフォーカスした場合、課題は転入ではなく転出であることが明確になった。
- 会津若松市フィールドワークの聴取内容を精緻化した。
得られた示唆、今後の検討事項
25-29歳が転出ピークとなる点は、全国的にも特異的であり、深掘り分析が必要である。
企業の生産性向上や財務体質改善に向けた伴走支援がなければ、賃上げ補助等の施策だけでは本質的解決にならない。
参加者の感想「難しかった点・大変だった点」
分析にあたり、拾えるデータもあれば拾えないデータも多く存在し、不足するデータをどう補うかが難しかった。
また、賃上げ表明を要件とした補助を現状一部行っているが、あまり使われていない印象があり、行政として出来ることの限界を感じた。打ち手案を整理する中で、施策ターゲットをどこまで絞り込むべきか、施策が「ぼけて」しまわないようにする匙加減に悩んだ。
第5回研究会.市内就業・通学率分析、転出入率の時系列分析、打ち手のブラッシュアップ
第5回研究会までに取り組んだことや気づき
日光市にて、平成22年、平成27年、令和2年の3時点の国勢調査データから通勤・通学先別の実態を整理した。
市外通勤者(特に宇都宮市への通勤者)は減少傾向にあり、日光市から宇都宮市に通勤していた方が宇都宮市に住まいを移している可能性が示唆された。
また、転出入率の直近5年間の時系列推移を整理し、25から29歳女性の転出率が近年上昇傾向にあることを確認した。
検討内容
- 打ち手案のブラッシュアップとして、転出抑制施策の重要性が議論された。
- 既存施策の棚卸を進め、短期・中期の施策は一部実施済だが長期施策(所得構造改善)が不足していることが確認された。
- モニタリングKPIの設定方針や、転出者アンケートのブラッシュアップについても検討を進めた。
得られた示唆、今後の検討事項
- 宇都宮市への通勤者減少が宇都宮市への転居に起因するとすれば、「ベッドタウン戦略」の実効性に懸念がある。
- 所得面の改善(産業振興)は長期施策に位置づけられているが、短期段階から腰を据えて取り組む必要がある。
- 転出者アンケートの経年分析が出来る環境整備が重要である。
アドバイス「他自治体で取り組む場合の示唆」
産業振興としては、(1)トップセールスとしての企業誘致、(2)先進事例(事業者)の創出・観測・横展開、(3)域内企業全般への働きかけ、という3階層で打ち手案を考えるとよい。
生活環境に関する補助金等は「あったら嬉しい」が居住先の決め手にはならないことが各所で見られている。
施策案のモニタリングKPIについては、あまり絞り過ぎず20から34歳全体程度で設定しつつ、転出率は長期アウトカムとして捉え、重要施策については初期アウトカムも含めた設計が望ましい。
第6回研究会.打ち手の最終化、アンケート見直し、報告会資料の構成検討
第6回研究会までに取り組んだことや気づき
- 日光市にて約50ページの報告会資料のドラフトを作成した。
- 既存施策の棚卸の結果、長期施策(所得構造改善・産業振興)の取組が不足していることが改めて確認された。
- 転出者アンケートの見直し案を整理し、日光市側の見直し案と概ね合致していることを確認した。
検討内容
- 庁内での議論において、転入増の取組を進めるべきであるとの意向が示されたが、本検討の分析結果を踏まえると転出抑制が主眼であり、エビデンスに基づいた方向性として整理する方針とした。
- 転出者アンケートの見直しでは、施策の影響を抽象的な要素・要因で聴取する方式が望ましいとされた。
- 報告会資料はPPDACサイクルに沿ったエグゼクティブサマリを作成する方針とした。
得られた示唆
- 25から29歳女性の転出ピークについては、首都圏等との所得差の拡大と生活環境に起因する移動の増加が重なった結果と整理した。
- 転出先エリアの年齢別比較を行い、20から24歳が東京圏へ、25から29歳が県内他市町へ転出するという結果は、就職後数年で宇都宮市等に転居するという仮説と整合的であった。
- 今後、他部署との連携を深め、アンケート見直しやデータ利活用の継続的な取組につなげていくことが重要である。
参加者の感想「難しかった点・大変だった点」
データを探して分析し、示唆を導出する経験はとても勉強になったが、オープンデータから得られる示唆には限界もあると感じた。
また、庁内での議論において、転入増の取組を進めるべきであるとの意向があり、本検討のこれまでの議論とやや食い違いが見られたため取り扱いに悩んだ。
加えて、分析内容が多岐にわたるため、20分の報告会発表にどのように収めるかの取捨選択に苦労した。
今後に向けて
1. データ収集・分析基盤の強化とモニタリング体制の構築
施策検討の基礎となる転出理由や戻る条件等をより詳細に把握するため、転出者向けアンケートの見直しを行う。見直し後のアンケートを経年的に実施することで、これらの変化を継続的に捉え、施策の効果検証やモニタリングにも活用していく。
併せて、事業者の経営課題、人材ニーズ、雇用条件の詳細等の不足している雇用側のデータを収集するため、市内事業者へのインタビュー調査や商工会議所・ハローワーク等との関係機関との連携も含め実施し、雇用側の実態を把握していく。
また、モニタリングKPIについては、20から34歳全体の転出率を長期アウトカムとして設定する。
ただし、転出率の変化は施策の効果が表れるまでに時間を要するため、重点施策については施策の進捗や効果の兆しを早期に把握できるよう、初期アウトカムも併せて設計していく。
2. EBPMの庁内浸透・定着に向けた取組
本検討では、「子育て世代の転出が多い」という当初の漠然とした仮説がデータによって覆され、25から29歳女性の転出超過という具体的な知見を得た。
このように、思い込みではなくデータに基づいてフラットに課題を特定するEBPMの有効性を実感できた。
今後、本検討の成果を庁内関係部署への共有を通じて展開し、エビデンスに基づく政策議論の文化を広げていく。
また、移住定住担当部署等からはアンケート見直し等について既にポジティブな反応を得ており、こうした他部署との連携を足がかりに、データ利活用の知見を庁内全体に波及させていきたい。