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宮城県仙台市

安定経営と公共交通サービス維持の両立に向けたビッグデータの利活用

EBPMブートキャンプ 宮城県仙台市

「宮城県仙台市:安定経営と公共交通サービス維持の両立に向けたビッグデータの利活用」の参加メンバーの写真

研究会の体制

※肩書は実施当時のもの

研究会統括管理者
日本総合研究所 研究員
専門家
吉田樹(福島大学 経済経営学類 経済学コース 教授)
データサイエンティスト
日本総合研究所 研究員
進行管理
日本総合研究所 研究員
研究会スケジュール
第1回:10月3日 第2回:11月5日 第3回:11月17日
第4回:12月1日 第5回:12月18日 第6回:1月19日

検討概要

背景

仙台市営バスは、市民の身近な移動手段としてほぼ市内全域を運行しているが、長期にわたるバス利用者の減少傾向に加え、いわゆる「2024年問題」により運転士不足が深刻化している。

こうした中で、公営交通として、安定的な経営の実現と公共交通サービス維持の両立を図るため、利便性と運行効率の双方を向上させる路線再編を行えないものか、検討している。

そのためには、データに基づく精緻な施策立案が必要と考えたが、これまで活用しきれてこなかった年間約3千万件の乗降データなどのビッグデータをどのように活用・分析すればよいか、ノウハウの構築が喫緊の課題であった。

EBPMブートキャンプで検討すること、取り組むこと

  • IC乗車券システム等から取得できる乗降データ等に基づき、仮説を探索しながら、路線バスの使われ方の現状を把握
  • 現状把握に際して、保有データから確かめづらい仮説については、携帯電話のGPS情報に基づくデータなどの外部のデータも活用して分析
  • 現状把握を基に、利便性と運行効率の両立を図る打ち手の方向性を検討

利用データ

既存データ

  • IC乗車券システム等から取得した仙台市営バスの乗降データ*1
  • バス停の位置情報データ

EBPMブートキャンプで新たに取得したデータ

  • 携帯電話のGPSベースの位置情報データ*2

*1 このページにおいて、ODデータは、IC乗車券システム等から取得した仙台市営バスの乗降データのことを指します。

*2 このページでは、人流データは、携帯電話のGPSベースの位置情報データのことを指します。

データの利用方法・分析方法

  • ODデータを用いて、バスの利用のされ方をお客様の属性ごと、支払い区分ごと、時間帯ごと等に把握
  • jSTAT MAP上に、バス停の位置と人口メッシュを重ね合わせて表現し、バスの潜在的な需要を見える化
  • 人流データを用いて、バスを利用していない人も含めた移動の状態も把握

取組成果、まとめ

対象エリアにおける利用動向の把握

  • ODデータを用いて、どんな人が、いつ、どの路線で、何人利用しているかを把握した。なお、市内全域の全路線をまとめて分析するのではなく、特定の地域に絞って、様々な切り口から分析することで、限られた時間であっても、深く分析することができた。
  • その結果、人口とバス利用との間に一定の相関関係がある路線、利用者の属性に着目した路線設定をすれば、さらに利用される可能性を秘めた路線等、利用動向とその背景が、路線ごとに明らかになった。

対象エリアにおける潜在的ニーズの把握

  • 分析した路線の一部については、人流データを用いて、バスを利用していない人の分析も実施した。
  • その結果、これまでバス路線が通っていなかった方向への人流が予想外に多いことが判明した。

検討過程

第1回研究会. EBPMブートキャンプでのスコープの設定

背景・現状の整理

路線バス事業は、全国的に利用者の減少傾向と運転士不足という構造的な課題に直面しており、その中で仙台市営バスが将来にわたり安定的な事業運営を続けていくためには、利用しやすさと運行効率の向上を図る路線再編の取組みが不可欠であると考えていた。

検討内容

仙台市は、上記の課題を、仙台市営バスのビッグデータや国の統計情報をもとに、路線ごと・地域ごとの利用状況等の分析を通じて、データに基づく再編の方針を立てられないかと考え、今回のEBPMブートキャンプにエントリーした。一方で、研究会の実施期間はおおよそ半年間であり、仙台市全域を対象に分析するには時間が少ないことが想定された。

従って、第1回研究会では、仙台市の課題から、EBPMブートキャンプで分析すべき問いと答えを検討した。

得られた示唆

まず、EBPMブートキャンプでの地理的なスコープを、仙台市全域ではなく、さらに狭いエリアに限定することとした。

具体的には、2015年12月に開業した地下鉄東西線沿線のバス路線を対象とした。当該エリアは、地下鉄開業時にバス路線網を再編してから10年が経過しており、地下鉄開業後の宅地開発や人口増加など、市内でも特に状況が変化しているエリアである。

また、バス路線の見直しに向け、2026度には「(仮称)仙台市営バス路線のあり方に係る基本方針」 を策定することとしており、当EBPMブートキャンプにおける検討のスコープを、基本方針策定に向けた準備段階としての現状把握にフォーカスした。

今後の検討事項

以上の2点を踏まえて、第2回研究会以降では下記2つの問いを探索することにした。

  1. 地下鉄東西線沿線のバス路線は、お客様にどのように利用されているか(現状分析にかかわる問い)
  2. お客様の利用のされ方を踏まえた時、利用しやすさと運行効率の向上を図るためにどのような打ち手が考えられるか(打ち手にかかわる問い)

アドバイス「他自治体で取り組む場合の示唆」

EBPMと聞くと、ともすれば大量の定量データを複雑なモデルで分析することを想起しがちである。確かに、定量データを用いることは確からしく説得的な分析をする上で重要であるものの、EBPMの実践にあたって必ずしも大量のデータを扱ったり複雑なモデルを用いたりすることは必須ではない。
むしろ、第1回研究会で設定したように、課題、目的、期間を踏まえて、適切な問いを設定することの方が重要である。問いが無いまま作業に進んでしまうと、情報収集に時間を要したり、多くのデータを集めること自体が目的化したりすることがある。プロジェクトの序盤で、目的に資する問いを設定することが重要である。

第2回研究会.現状分析(1)

第2回研究会までに取り組んだことや気づき

ODデータを用いて、対象エリアの利用のされ方を、時間帯別と、券種別で確かめた。

検討内容

第2回研究会では、EBPMブートキャンプで設定した問いのうち、現状分析にかかわる問い「地下鉄東西線沿線のバス路線は、お客様にどのように利用されているか」を、2024年6月のODデータを用いて確かめた。

データ収集前の段階から、仙台市の担当者レベルでは、これまでの実務経験を基に2つの予想を持っていたため、分析もそれらの予想に基づいて2つの切り口から実施した。

経験に基づく予測 データ分析の切り口
対象エリアの路線は、
市内全域の路線と比べて利用が少なさそうである
調査対象系統と市内全域を、時間帯別・券種別で比較
対象エリア内では、
仙台市中心部へ直通する系統(直線系統)の方が、
地下鉄東西線の途中駅までの系統(フィーダー系統)よりも
利用が多そうであること
調査対象系統内で、直通とフィーダーを、時間帯別・券種別で比較

得られた示唆、今後の検討事項

第2回研究会では、「地下鉄東西線沿線のバス路線は、お客様にどのように利用されているか」という問いに対して、2つの答えが判明した。

第1に、1便あたりの利用者数でみると、対象エリア内の路線を市内全域の路線と比べても、学生による利用が少ないほかは、それほど大きな特徴が無いことが判明した。

一方で、第2に、対象エリア内の直通系統とフィーダー系統*3の比較では、フィーダー系統は直通系統に比べ、ほぼ全券種で1便あたりの利用が少ないことが判明した。

ただし、やがて、もう1つの問いである「お客様の利用のされ方を踏まえた時、路線の効率化のためにどのような打ち手が有効そうであるか」に答えることを考えると、「『投入した資源(走行距離)に対してどの程度利用されたか』を分析することが有用である」ため、追加の現状分析として、1キロメートルあたり利用者数の分析を実施することとなった。

*3 フィーダー系統…バス路線のうち、支線のこと

アドバイス「他自治体で取り組む場合の示唆」

第2回研究会は、現状がどのようになっているのかをデータを基に明らかにする回であり、実務経験に基づいて分析の切り口を設定している。
このように、分析では、設定した「問い」に対して「どのような切り口でデータを探すと答えにたどり着けそうか」と考え、意味を持つ切り口を設定することが重要である。
ただし、こうした切り口は、最初から見つけられるとは限らない。第2回の例のように、これまでの実務経験に基づき、「○○(まるまる)の傾向があるかもしれない」と予想を立たうえで、その「答え」にたどりつくための分析の切り口をいくつか設定してみることは有用な方法の1つである。

参加者の感想「難しかった点・大変だった点」

分析の結果、今回の調査対象である路線は、市内全域の路線と比較して時間帯毎や券種毎の利用者数に大きな特徴が見られないという予想外な結果が得られ、その解釈が難しかった。
しかし、アドバイザーの先生から「市内全域における代表性がある」とご指摘いただき、その結果を他地域にも援用できるという学びを得ることができた。

第3回研究会.現状分析(2)

第3回研究会までに取り組んだことや気づき

ODデータを用いて、対象エリアの系統のうち、直通系統とフィーダー系統のそれぞれについて、1キロメートルあたり利用者数を分析した。また、分析結果を人口メッシュと重ね合わせて確認した。

さらに、乗換駅となっている地下鉄駅と、対象エリア系統について、利用されている券種割合を確認した。

検討内容

第3回研究会では、当EBPMブートキャンプで設定した問いのうち、現状分析にかかわる問い「地下鉄東西線沿線のバス路線は、お客様にどのように利用されているか」について、1キロメートルあたり利用者数を分析した。

得られた示唆

1キロメートルあたり利用者数で地下鉄東西線沿線のバス路線を調べると、接続する駅によって傾向が異なることが分かった。
1キロメートルあたり利用者数が少ない系統があるということは、これらの系統では投入資源あたりの利用者数が少なく、換言すれば、バス路線が効率的でない状態にあると言える。

検討エリア周辺の人口ヒートマップとバス停の位置を示した図

そこで、それぞれの系統が停車するバス停に着目し、バス停ごとの乗降客数と2020年国勢調査による居住人口のデータを、jSTAT MAPを用いて重ね合わせると、人口の少ないエリアでは乗降客数も少ない傾向があった。

ここまでの第1回から第3回研究会における検討によって、1キロメートルあたり利用者数に着目しての分析が有効そうであることが判明した。加えて、接続する地下鉄駅によって傾向が異なることも分かった。

従って、これらの系統を調べることが、当EBPMブートキャンプで設定した2つの問い
「地下鉄東西線沿線のバス路線は、お客様にどのように利用されているか」
「お客様の利用のされ方を踏まえた時、どのような打ち手が有効そうであるか」
に答えるために重要だと考えられた。

今後の検討事項

第4回研究会以降は、傾向の異なる2つの駅にかかわる系統を深く分析することとした。

アドバイス「他自治体で取り組む場合の示唆」

第3回研究会は、これまでの研究会で設定した「問い」に関する現状分析に取り組んでいるが、分析の切り口をいくつか設定し、それぞれで得られた数値から何が読み解けるかを議論のなかで考えていることが特徴である。
今回は、1便あたりの利用者数や、1キロメートルあたりの利用者数を切り口としたが、結果的に、「1キロメートルあたりの利用者数」が当EBPMブートキャンプのプロジェクトの結論に繋がる重要な切り口となった。
ここで重要なことは、プロジェクトで答えなければならない「問い」に対して、様々な角度で分析を試行錯誤していることである。実際の分析では、答えに辿りつくような質の高い分析をすぐに思いつくことは稀であり、分析の切り口を試行錯誤するプロセスが必要である。
そのため、他のプロジェクトでも、分析の切り口を試行錯誤する時間的猶予をあらかじめ考慮しておくことが望ましい。また、どの分野でも、良い分析の切り口を見つけることはそれまでの経験に依存する傾向にあるため、専門家に助言を仰ぐことも有用である。

第4回研究会.詳細な分析(1)

第4回研究会までに取り組んだことや気づき

地下鉄東西線沿線の駅に接続するフィーダー系統をより細かく分類し、対象の系統ごとに1キロメートルあたり利用者数を分析した。また、券種別の利用割合も分析した。

第4回研究会では、当EBPMブートキャンプで設定した2つの問いに深くかかわることが見込まれたため、薬師堂駅、また荒井駅にかかわる系統について、深く分析した。

具体的には、路線の長さや設定目的が異なる多様な系統が存在することに鑑みて、都心部への直通系統、地下鉄駅までのフィーダー系統(行先や通っている場所の特徴からW、X、Y、Z)に分けて、利用のされ方を分析した。

検討内容

第4回研究会では、当EBPMブートキャンプで設定した2つの問いに深くかかわることが見込まれたため、比較的利用の多いフィーダー系統について、深く分析した。具体的には、フィーダー系統のうち、沿線住民が日常的に利用している系統を選んで、行先や通っている場所の特徴からW、X、Y、Zの4つに分類して、利用のされ方を分析した。

系統 系統の特徴
Wフィーダー系統 市場や物流拠点等があり、東西線開業後は住宅も増えている地域を通る系統
Xフィーダー系統 昔からの住宅地を通る系統
Yフィーダー系統 昔からの住宅地を通る系統
Zフィーダー系統 東西線開業後に人口が急増したZ地域を通る系統
検討対象のバス系統と地下鉄東西線の位置関係を表した図

得られた示唆

一部は仮説段階のものを含みながらも、ODデータから券種別の利用や時間帯別の利用を集計し、それぞれの系統がどのような利用のされ方をしているかについて、概ねの傾向が判明した。

系統ごとの利用割合を示したグラフ

その結果、朝時間帯の利用が比較的多いこと、特に通勤定期の割合が市内全域よりも高いことなど、共通する特徴が複数見つかった。

一方で、WフィーダーやZフィーダーは、地下鉄開業後に人口が増えていそうにもかかわらず、バス利用はあまり多くないという課題も判明した。

今後の検討事項

第5回研究会では、東西線開業後に宅地開発が進んだZフィーダーを対象に、人流データを使って、バス路線と人の流れや動きが合致しているかどうかを調べることとした。また、並行して、天候による利用状況の変化も調べることとした。

アドバイス「他自治体で取り組む場合の示唆」

第4回研究会では、EBPMブートキャンプの期間が後半に入ったことも踏まえ、すべての系統を同じように深く分析するのではなく、目的を起点に分析すべき事柄に優先順位をつけて、優先度の高いところから着手している。
プロジェクトでは期間やリソースが限られていることがほとんどのため、分析対象を絞りこむことも必要である。そのため、プロジェクト当初に目的をしっかりと設定しておかないと、分析対象の優先順位をつけづらくなり、何から着手して良いか暗中模索になってしまう。プロジェクト当初にしっかりと目的を設定することが重要と言える。

参加者の感想「難しかった点・大変だった点」

路線毎に利用者の属性が異なり、どのような路線がより利用される可能性が高いのかを考えるのが非常に難しかった。例えば、通勤定期の利用者にとっては、出勤時刻に間に合うことが重要であり、料金よりも定時性を重視していると推測できるが、その影響の大きさについては、今後も分析を深めていく必要があると感じた。

第5回研究会.詳細な分析(2)

第5回研究会までに取り組んだことや気づき

天候とバス利用者数の関係を確認することで、雨天の日にだけバスが使われている可能性がないかを確認した。

携帯電話のGPS情報に基づく人流データを用いて、Z地域の方たちがどこへ移動しているのかを把握した。

検討内容

第5回研究会では、第4回研究会で課題が判明したZフィーダーについて、以下の2点を調査した。

区分 調査内容
天候 「雨の日は地下鉄駅へ向かうバスの利用者が増える」ということは、晴れの日には徒歩や自転車で地下鉄駅に向かっている人が多いことを示唆する。一方で、「晴れの日も雨の日も同じように少ない」場合は、そもそも、地下鉄を利用していない=(イコール)駅勢圏外であることを示唆する。そこで、天候による利用の違いを調査した。
人流 Z地域における朝の通勤通学時間帯の人流を調べれば、バスを利用していない人々も含めて、どの方面への移動ニーズが高いかを把握できることから、人流データを調査した。

得られた示唆

  • Zフィーダーについて、雨の日の利用状況を確認したところ、「雨の日は利用者が増える」という路線バスに一般的にみられる傾向が、他の系統に比べて少ないことが判明した。従って、人の移動とバスの路線が合致していない可能性があると考えられる。
  • Z地域を対象に、平日6時から8時台の人流データを確認したところ、観測された人流の約36%が北東方面へ、約31%が都心部方面へ出かけていることが判明した。通勤時は、一般的に都心部への需要が高いと考えがちだが、局所的には必ずしもそうではないことが判明した。
  • 朝の通勤通学時間帯のバス路線を検討するうえでは、沿線の人流を観測する重要性が認識できた。
検討エリアの居住者の移動方向を示した模式図

今後の検討事項

第6回研究会では、ここまでの検討を踏まえて、当EBPMブートキャンプで明らかにする予定だった2つの問いについて答えながら、検討をとりまとめることになった。

  • 地下鉄東西線沿線のバス路線は、お客様にどのように利用されているか(現状分析にかかわる問い)
  • お客様の利用のされ方を踏まえた時、路線の効率化のためにどのような打ち手が有効そうであるか(打ち手にかかわる問い)

アドバイス「他自治体で取り組む場合の示唆」

第1回研究会から第3回研究会の頃までは実務経験を頼りにデータから現状の傾向をつかむアプローチが主体であったが、第5回研究会の頃になると、データから見えてきた傾向の理由を、仮説を持ちながら検証するという動きに変化してくる。
実際、第5回研究会では、第4回研究会の最後に出てきた2つの仮説に対して、第5回研究会までにデータを基に確かめ、第5回研究会で議論するという流れを経た。
このように、打合せの場を仮説の構築や発見に使って、次の打合せまでに必要な分析を実施するという流れができると、作業担当者の手戻りも少なくなって理想的である。
特に、打合せでは、プロジェクトでの目的に紐づく形で仮説を設定できると、プロジェクトをしっかりと進ませることが出来るうえ、打合せと打合せの間に実施する分析が思うようにいかなかった場合に作業担当者が自ら工夫して分析することが可能になるため、より一層理想的である。

参加者の感想「難しかった点・大変だった点」

人流データを用いた分析においては、取得可能な情報があくまで「移動した人流」に限られるため、移動後に駅を利用したのか、また、どのような交通手段を用いて移動したのかといった詳細な行動を把握することはできない。
このため、移動の背景を推察したり、補完的なデータの取得方法を検討・工夫したりする点が非常に難しかった。

第6回研究会.詳細な分析(3)

第6回研究会までに取り組んだことや気づき

第6回研究会ではここまでの検討を取りまとめた。

検討内容

当初設定した2つの問いのうち、現状分析にかかわる問い「地下鉄東西線沿線のバス路線は、お客様にどのように利用されているか」を踏まえて、今後の打ち手の方向性にかかわる問い「お客様の利用のされ方を踏まえた時、路線の効率化のためにどのような打ち手が有効そうであるか」に答えた。

得られた示唆、今後の検討事項

利用しやすさと運行効率の向上を図るためのバス路線再編という将来的な目的に向け、現時点で以下の示唆が得られたと考えられる。

  1. 運行の効率性を図るためには、「獲得資源(イコール)利用者数」を「投入資源(イコール)走行キロ」で割った「1キロメートルあたり利用者数」に着目することが有効
  2. 仙台市営バスのビッグデータと、jSTAT MAP等の国が公表するオープンデータを活用し、人口メッシュとバス停乗降客数を重ねて可視化することが有効
  3. ODデータの中では、特に時間帯別・券種別の利用者数に着目し、それぞれのニーズに合ったルートやダイヤの検討が有効
  4. 今はバスを利用していない潜在的なニーズ把握のためには、人流データの活用も有効
今回のEBPMブートキャンプで得られた示唆を表した画像

アドバイス「他自治体で取り組む場合の示唆」

第6回研究会は当EBPMの最後の回として取りまとめに時間を割いている。実際には、第4回研究会の頃から、上記のような系統ごとのまとめ表を作り始めており、どの系統について分析が途中段階であるか、打ち手の方向性としてなにが言えそうかを確かめながら進めていた。
このように、プロジェクトの後半部に差し掛かった段階で何度か、プロジェクトのゴールから逆算し、どこまで分析が進んで、この先どこを明らかにするのかを整理することが必要であり、その結果、何が言えるかを考えることが有用である。

今後に向けて

1.詳細な分析の必要性

限られた期間での取り組みであったため、詳細な分析に取り組み切れていない事柄が残っている。例えば、人流データを活用した分析では、どの方面への人流が多いかは判明したが、実際にバス路線を検討するうえでは、具体的にどのポイント周辺が目的地となっているかを分析することが必要である。

2.現実性の検証

利用しやすさと運行効率の向上に向けた示唆を得られたが、その現実性の検証はまだまだ道半ばである。例えば、朝のバス路線を見直す場合、バス事業は朝の通勤通学時間帯に投入車両数のピークを迎えるため、見直しによって投入車両がかえって増えてしまわないか、道路渋滞に巻き込まれて定時性が損なわれないかなど、慎重なシミュレーションを重ねて現実性を検証する必要がある。

3.基本方針の策定に向けて

バス路線の再編にあたっては、市民や利用者の理解が欠かせない。2026年度には仙台市営バス路線再編の基本的な考え方を示す「(仮称)仙台市営バス路線のあり方に係る基本方針」の策定に着手するが、EBPMブートキャンプで得られた知見を十分に活用しながら、データに基づく分析を通じて、市民や利用者の皆様に対し分かりやすく丁寧な説明を行っていくとともに、再編を通じてバス事業の持続可能性を高めていく不断の努力が必要である。

参加者の声

EBPMブートキャンプに参加した感想を教えてください

これまでの業務では、データに基づき方針を考える機会がなかったため、膨大なデータを分析し続ける今回の取り組みは難しさを感じた一方で、非常に有意義な研究会となりました。データ分析・統計に関する知識は、分野を問わず必要とされる能力であり、重要性は今後ますます高まると考えられます。今回得られた知見を今後の糧として活かしていきたいと思います。

特に学びが得られたと感じた点を教えてください

データを分析する上で、予め仮説を立てて分析に取り組むことの重要性を強く感じました。仮説を立てることで、「何を明らかにしたいか」がはっきりし、必要となるデータの範囲やデータの分類方法が大きく異なります。さらには目的が明確になることで無駄な作業を減らし、必要なポイントに集中できるため、分析全体がより意味のあるものになると感じました。

これからデータ利活用に取り組む自治体へ向けてメッセージをお願いします

データを活用して方針を策定することは、非常に労力を要する作業になります。しかし、データに基づく事実を根拠とするからこそ、説得力の高い方針ができると考えます。また、データを詳細に分析することで、これまで当たり前と思っていたことが、実は予想外の結果が得られたりする場合もあります。ぜひ、より良いまちづくりに向けてデータの利活用に取り組んでいきましょう。

専門家からアドバイス

専門家アドバイス
吉田樹

福島大学 経済経営学類 経済学コース 教授

今回のEBPMブートキャンプにて仙台市で取り組んだ「バス路線網の将来的な効率化に向けたバス路線のあり方の検討」について、今後各地方自治体が似たような課題に取り組んで行く際のアドバイスをぜひお聞かせください。

人口減少と高齢化が同時に進行するなか、バス路線網の再構築は、都市と地方を問わず、必要となります。最近では、ICカードの決済履歴から、利用者のOD(起終点)を把握することが可能となった事業者が増えていますが、蓄積されたデータをどのように活用して、路線網の再構築に結び付ければよいかが課題です。今回のEBPMブートキャンプでは、各路線(系統)の現状を把握するために、1キロメートルあたりの乗車人員を算出して、生産性を評価したほか、時間帯および支払券種別の乗車人員から、主な利用者像を推論しました。これらは、日常の実務経験を踏まえて、比較的簡易に行える手法のため、バス事業者はもとより、地方公共団体が策定する地域公共交通計画(地域交通法に基づく法定の計画)の策定や運用を行う場面にも役立つかと思います。
一方、後半の回では、系統を絞り込んだうえで、設定した仮説に基づく分析を行っています。主に中核市以上の都市では、都心に直通する系統と、鉄道へのフィーダー系統をどのように分担させるかが路線網の再設計を検討する際の論点となることがあります。今回は、人口メッシュと系統ごと、あるいは停留所ごとの利用実績を重ね合わせることで、どちらの系統が高い生産性となり得るかを検討しましたが、「誰でも使える」地理情報システムであるjSTAT MAPを活用して可視化したことも特徴的でした。分析の目的や仮説をしっかり組み立てること、そのうえで、自社が保有するデータのほか、総務省統計局等が公開するデータやツールを活用して分析することで、実務経験に基づく「肌感覚」から「解像度」を高めることができ、問題の「原因」に近づけると考えます。

吉田樹さんの写真

専門家アドバイス
吉田樹

福島大学 経済経営学類 経済学コース 教授

吉田樹さんの写真

今回のEBPMブートキャンプにて仙台市で取り組んだ「バス路線網の将来的な効率化に向けたバス路線のあり方の検討」について、今後各地方自治体が似たような課題に取り組んで行く際のアドバイスをぜひお聞かせください。

人口減少と高齢化が同時に進行するなか、バス路線網の再構築は、都市と地方を問わず、必要となります。最近では、ICカードの決済履歴から、利用者のOD(起終点)を把握することが可能となった事業者が増えていますが、蓄積されたデータをどのように活用して、路線網の再構築に結び付ければよいかが課題です。今回のEBPMブートキャンプでは、各路線(系統)の現状を把握するために、1キロメートルあたりの乗車人員を算出して、生産性を評価したほか、時間帯および支払券種別の乗車人員から、主な利用者像を推論しました。これらは、日常の実務経験を踏まえて、比較的簡易に行える手法のため、バス事業者はもとより、地方公共団体が策定する地域公共交通計画(地域交通法に基づく法定の計画)の策定や運用を行う場面にも役立つかと思います。
一方、後半の回では、系統を絞り込んだうえで、設定した仮説に基づく分析を行っています。主に中核市以上の都市では、都心に直通する系統と、鉄道へのフィーダー系統をどのように分担させるかが路線網の再設計を検討する際の論点となることがあります。今回は、人口メッシュと系統ごと、あるいは停留所ごとの利用実績を重ね合わせることで、どちらの系統が高い生産性となり得るかを検討しましたが、「誰でも使える」地理情報システムであるjSTAT MAPを活用して可視化したことも特徴的でした。分析の目的や仮説をしっかり組み立てること、そのうえで、自社が保有するデータのほか、総務省統計局等が公開するデータやツールを活用して分析することで、実務経験に基づく「肌感覚」から「解像度」を高めることができ、問題の「原因」に近づけると考えます。

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