研究概要
課題
山鹿市が独自で開発した教育プログラムの効果を測定する
山鹿市はNintendo SwitchTMを活用した独自のプログラミング教育の教育プログラムを開発。市内の小学校において当該教育プログラムの試行導入も行っている。
他方、当該教育プログラムを実施することでの学習・教育効果に関する定量的・科学的なデータを整理できておらず、効果の裏付けができていない。そういった課題認識から、本取組において当該教育プログラムの効果を定量的に評価し、取り組みの更なる強化への後押しとすることを目的とした。
要約
- 効果検証に当たり、当該教育プログラムにおいて向上させたい・確認したい能力を整理した。
- 効果検証対象の能力について教育プログラム受講の生徒への事前事後アンケート及び教育プログラム受講なしの山鹿市内の他校との比較を行うこととした。
- 効果検証対象の能力ごと、アンケートの設問を設定し、実際にアンケートを実施した。
- アンケート調査の結果、「プログラミングの認知・興味」等に関して有意な改善傾向がみられた。
- 他方で別途実施したプログラム実施学校の担当教師へのヒアリングからはその他にも数多くの効果がみられたとの回答が得られており、今回の調査ではそれらの項目について科学的に明らかにできなかったことが今後の課題として挙げられる。
- また、今後は今回明らかにできなかった効果を明らかにする取り組みと共に得られた結果を基に市内全域への取り組みの展開に向けた検討を進める。
課題解決のプロセス
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02目指すべき姿
- 教育プログラムの提供によって求める効果の整理
- 市が考える今後求められる人材像の整理
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03データ収集
- 全国学力調査の結果
- プログラム受講者/その他学生向けアンケート調査
- プログラム関係者向けヒアリング調査
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04データ分析
- 1学期アンケートの分析にはカイ二乗検定を実施
- 2学期事後アンケートの分析にはマクネマー検定を実施
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06今後の取組
- 今般の検討を踏まえた施策の実施
- データを用いた施策の確認・改善
利用データ
- 全国学力・学習状況調査の結果
- プログラム受講者/その他学生向けアンケート調査
- プログラム関係者向けヒアリング調査
解決プロセスの詳細
01.課題設定
山鹿市では、eスポーツで様々な世代や分野を繋げ、交流を図り、新たな文化を楽しむ地域へと発展することを目標とした取り組みを進めてきた。各分野でeスポーツ等に関する取組を展開、山鹿市内の「eスポーツ」認知度向上、関係人口の増加を進めてきた。
その取組の一環としてNintendo SwitchTMを活用した独自のプログラミング教育の教育プログラムを開発し、市内の小学校において当該教育プログラムの試行導入も行ってきた。
他方、当該教育プログラミングを実施することでの学習・教育効果に関する定量的・科学的なデータを整理できておらず、効果の裏付けができていなかった。
そこで本取組では、アンケート調査により教育プログラム実施前後の比較や、受講した学校と受講しなかった学校の比較を行い教育プログラムの効果を測定した。
その分析の流れは以下のとおり。
山鹿市のプログラミング教育(イメージ図)
本取組における分析の流れ
02.目指すべき姿
- 山鹿市独自開発のプログラミング教育の教育プログラムの効果を定量的に明らかにすることを目的とする。あわせて、効果検証から当該教育プログラムがどういった能力向上に資するか、逆に効果として弱いか等も整理しつつ、当該教育プログラムの改善に向けた示唆を得ることを狙う。
- 明らかになった当該教育プログラムの定量的な効果のデータを基に将来的には他自治体での導入や市のブランディングにつなげることを想定する。
当該取組の目標(イメージ図)
当該教育プログラムを通して、こども達の伸ばしてあげたい能力を整理した。
当該教育プログラムを通じ伸ばしたい能力
03.データ収集
- 当該取組においては教育プログラム受講者等へのアンケート調査結果(2学期受講校に関する調査結果)を中心とした検討を実施した。
- 類似校の抽出を目的とした学校別の特徴比較において、全国学力・学習状況調査の結果を利用した。
- その他本調査研究では1学期に当該教育プログラムを受講した学校へのアンケート及びヒアリング結果を基に分析・考察を行った。
利用したデータの一覧
04.データ分析
アンケート調査の設問項目
- 2学期事前アンケートの構成は以下の図表のとおり。
- 基本的には、事前と事後で同一の設問を設定し、プログラム受講前後の比較を実施。一部設問に関しては平行して検討を進める中で事後アンケートにおいて変更・追加した。
- 目指すべき姿で整理した能力とは別にシビックプライドの変化を測る設問も設定。(シビックプライドとは「「自分が住んでいる地域に対する誇り」を示す。)
アンケートの構成
2学期事前アンケート結果の分析
- 項目別に、全校平均との差異が大きい部分を整理すると以下の図表のとおり。
- 学校4は一貫してポジティブ割合が低い傾向にあり、過半数の4項目で全校平均との差異が大きかった。
学校1は一貫してポジティブ割合が高い傾向にあり、半数の3項目で全校平均との差異が大きかった。
- 学校2は過半数の4項目で全校平均との差異が大きかった。
- 事前事後比較においては、実施校と特に類似性の高い学校3と学校5に着目して比較した。
2学期事前アンケート結果のまとめ
2学期事前・事後アンケート結果のまとめ
- 各能力に関連するアンケート結果の概要は以下のとおり。
- 忍耐力やプログラミングへの興味等は一定向上がみられるもののアンケートのみでは効果が見えづらい項目があった。
- 担当した先生方へのヒアリングも実施することでアンケートでは測りづらい能力の評価等を実施。
プログラム実施校へのヒアリング結果のまとめ
- プログラム実施校の担当教員へのヒアリングを実施した結果は以下のとおり。
- 担当教員の主観的な効果以外にも、生徒の自発的な行動変容も見られており数多くの効果があったことが明らかとなった。
05.結果
本調査研究の結果
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「プログラミングの認知・興味」等では一定の効果がみられた。
- ただ、期待していた他項目での有意な学習効果がみられなかった。
- 他方で1学期実施の学校へのヒアリングからは、そのほかにも多方面に効果があったとの感触があり、さらには1学期では実際に幅広く効果がみられた。
今後の取り組みに向けた検討
- 当該教育プログラムの実施の仕方(各先生による進行の仕方等)により効果が異なってしまう可能性が高い為、単純に当該教育プログラムを実施した先を一律に評価すべきかどうかは更なる検討が必要と考える。
- 実施の内容等にまで踏み込んだ検討が当該教育プログラムの受講効果を確認した上で、必要に応じてプログラム実施マニュアル等を整備する必要性等を検討する必要がある。
- アンケート実施時期による影響やアンケート母数が十分でない可能性もあるため、これらへの対応が必要となる。
06.今後の取組
今後の展望
- 今後全校導入を行い、当該教育プログラムの確立を図る。
- 当該教育プログラムの効果を整理し、効果を踏まえた学習内容の改善等を検討
- 教職員用プログラム実施マニュアルの精査
- 授業計画及び授業を実施するタイミングの整理(年間行事等と照らし合わせる)
- 教育関係者との情報共有
今後の取組実施に向けた課題
- 当該教育プログラムの効果検証を今回のみの単発の取り組みとせず、検証の継続性を担保する必要がある。その上で以下の2点に関しての体制整備が必要となる。
- 適正な情報整理(専門家の助言なしにデータを集め、検定を実施できるのか)
- 業務内容(職員の協力体制、データ処理の知識があるか)
参加者の声
研究会への参加・検討を通じて、特に学びが得られた点を教えてください
仮説を立て、アンケート調査、担任の先生のヒアリング、全国学力・学習状況調査の結果を活用し、分析結果を示すことができた点がまず一番の学びだと感じています。
また、統計調査の考え方や統計方法等知らないことばかりで戸惑いましたが、教えてもらいながら1つずつやり方を覚えて進めることができました。
研究会への参加・検討を通じて、難しいと感じた点、苦労した点を教えてください
小学6年生に対してアンケートを実施したのですが、設問設定がとても難しいと感じました。作成者にとっての想定場面と回答者にとっての想定場面が違うことがあり、思ったような回答を得ることができませんでした。
また、不慣れな作業ばかりで困惑の連続であり、株式会社日本総合研究所様からのサポートがありどうにか成果発表会に辿り着くことができました。
EBPMを活かした今後の業務への改善点や、意気込みを教えてください
今回の研究会では、学習を実施した担任の先生方にヒアリングを実施しました。現場の生の声を聞くことができたとともに、先生方の負担軽減やプログラミング学習の方向性ややり方を明確に示す必要性を感じました。
今後の業務において、研究会で京都教育大学の大久保先生から受けたアドバイスを思い返しながら、今後の事業展開につなげていけたらと考えています。山鹿モデルの全校導入及び学習モデル確立を目指し、日々邁進してまいります。
これからデータ利活用に取り組む自治体へ向けてメッセージをお願いします
データ活用や分析技術は、今後の仕事において必須になってくるのではないかと思います。
重い1歩をEBPMブートキャンプの取り組みで踏み出してみるのはいかがでしょうか?
専門家アドバイス
大久保紀一朗
京都教育大学 講師
今回のEBPM研究会として、山鹿市で取り組んだ「教育プログラムの効果検証」へ、今後各地方自治体が取り組んで行く際のアドバイスをぜひお聞かせください。
学校の教育活動は、変数が非常に多く、また統制することも難しく、厳密な効果検証が難しい側面もある。しかし、教育活動を改善していく上で、エビデンスに基づいて教育活動を省察し、改善していくことは非常に重要な取り組みである。そのためには可能な範囲でどのように条件制御をするか、教育効果として子どもたちの変容を見取るために何を、どのような方法で、どのタイミングで測定するかなど、実践計画が非常に重要となる。特に学校教育では繰り返し実践してもらうことはできないので、実践計画が十分に吟味された上で、適切に計画されているかということが重要となる。そういった実践計画の立て方や、調査の実施方法などは、これまでに取り組まれてきている学術研究や実証事業等から学ぶことができる。また、継続して取り組むことでノウハウが蓄積され、より良い教育実践、調査の実施につながっていくものと考えられる。
専門家アドバイス
大久保紀一朗
京都教育大学 講師
今回のEBPM研究会として、山鹿市で取り組んだ「教育プログラムの効果検証」へ、今後各地方自治体が取り組んで行く際のアドバイスをぜひお聞かせください。
学校の教育活動は、変数が非常に多く、また統制することも難しく、厳密な効果検証が難しい側面もある。しかし、教育活動を改善していく上で、エビデンスに基づいて教育活動を省察し、改善していくことは非常に重要な取り組みである。そのためには可能な範囲でどのように条件制御をするか、教育効果として子どもたちの変容を見取るために何を、どのような方法で、どのタイミングで測定するかなど、実践計画が非常に重要となる。特に学校教育では繰り返し実践してもらうことはできないので、実践計画が十分に吟味された上で、適切に計画されているかということが重要となる。そういった実践計画の立て方や、調査の実施方法などは、これまでに取り組まれてきている学術研究や実証事業等から学ぶことができる。また、継続して取り組むことでノウハウが蓄積され、より良い教育実践、調査の実施につながっていくものと考えられる。