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ヒヤリハットデータを活用した地域参加型交通安全対策事業

栃木県  宇都宮市  総合政策部政策審議室  市政研究センター

栃木県宇都宮市 特別賞 住民生活・安全

栃木県宇都宮市のサムネイル画像。地域、企業、行政、警察などのステークホルダーが、それぞれの強みや役割を生かし連携協力することで、課題の共通認識を図り、地域課題を解決していくという事業スキームを表現した図

概要

地域住民参加によるカープローブデータ*1を収集し、得られたヒヤリハットデータ*2と交通事故発生データの統計分析から潜在的な危険箇所の抽出、マップへの可視化を行い、地域が主体となった「まち歩き(危険箇所の現地確認)」や「対策検討会」を実施するもの。

導入費・運用費

消耗品

  • 0千円(令和3年度実績)
  • 188千円(令和4年度実績)
  • 81千円(令和5年度実績)
  • 221千円(令和6年度実績)
  • ※あいおいニッセイ同和損害(株)から無償貸与を受けたテレマティクス*3タグを活用し走行データ収集を行っているため調査に係る経費はかかっていない。

受賞

  • 「Data StaRt Award〜第9回地方公共団体における統計データ利活用表彰〜  特別賞」(2024)
  • 一般社団法人データ社会推進協議会主催 2023年度DATA-EX賞(データ社会活用アイデア大賞)

取組の流れ

  • PPDAC-problemアイコン画像

    地域における危険箇所の把握がエピソードベースの「何となく」であり、本市が実施する交通安全対策に対するエビデンス、分かりやすさ、地域との一体感が不足していたことから、地域の交通安全意識の高揚とエビデンスに基づいた対策を行う必要があった。

  • PPDAC-planアイコン画像

    地域住民自身が関わったデータをベースに分析を行うことと、得られた結果を誰もが理解できるように可視化を行うことで、地域住民に、交通安全対策を自分事として捉えていただけるようになると仮説を立てた。

  • PPDAC-dataアイコン画像

    あいおいニッセイ同和損害(株)から無償貸与を受けた通信機能付きICタグを活用し、地域住民参加によるカープロープデータ(急ブレーキ、急加速、急ハンドル、速度超過)の収集を行った。併せて、同社より危険挙動のCSV*4データ(緯度・経度など)も提供いただいた。また、警察から交通事故の情報を提供いただいた。

  • PPDAC-analysisアイコン画像

    GIS*5を用いて交通事故やヒヤリハットの発生箇所の分布をメッシュ集計し、ヒートマップ*6やスタックチャート*7を重ね合わせた地図を作成してデータを可視化し、統計分析による散布図を作成して潜在的な危険箇所の抽出を行った。

  • PPDAC-conclusionアイコン画像

    データ分析によって明らかになった危険箇所について地域住民の理解を進め、地域が主体となった「まち歩き」や、「対策検討会」を踏まえ、注意喚起看板設置等のソフト対策を実施した。
    今後、検討結果を踏まえ、地域、行政、警察などの連携のもと、ソフト・ハード両面から地域の実情に応じた交通安全対策を実践していく予定である。

ヒアリング・ここが知りたい!

地域協働で本取組を進めるべきと考えた理由を教えてください。また、地域協働で本取組を進めることにより、どのようなメリットがありましたか?

地域との一体感不足などの課題に対応するため、地域協働で本事業を実施。データ収集の段階から地域住民が参加することで、交通安全意識だけでなく、データ活用への興味・関心も高まった

本市が実施する交通安全対策に対するエビデンス、分かりやすさ、地域との一体感の不足が課題となっていたことから、地域協働で本事業を進めることで、
 1.地域の課題を自分ごと化することで地域の自治力が上がる
 2.地域と会話を交わすことで地域の実情が把握できる
 3.課題を共有し合意形成を図ることで、地域が必要とする場所に必要な対策ができる
 と考えました。実際にデータ収集の段階から地域住民が参加することで、交通安全意識だけでなく、データ活用への興味・関心を高めることができました。

事業の流れについてまとめた図。事業は、データ収集、データ分析、まちあるき、検討会、対策実施、合意形成、ハード対策、交通規制という流れで進めています。データ収集の段階から地域住民が参加し、その収集したデータの分析結果(潜在的危険個所)を地図に可視化し、地域住民の理解を進め、「まち歩き」や「対策検討会」を実施しています。また、ソフト対策についてはすぐに取り組み、ハード対策や交通規制については、合意形成を支援しながら進めていく事業フローとなっていることを説明しています。
本事業の流れ

地域住民参加によるカープローブデータの収集にあたって、実施方法をどのように検討し、地域住民への協力依頼を行いましたか。また、データの収集段階から住民に参加いただくことで、どのようなメリットがありましたか?

地域課題の自分ごと化につなげるため、地域住民からデータ収集の参加者を募る方法で実施した。その結果、データや事業に対する関心が向上し、その後の交通安全対策の合意形成につながった

通信機能付きICタグを活用し、地域住民からデータ収集の参加者を募ることで、地域の課題の自分ごと化(「ここのヒヤリハットきっと私のデータだ」、「この道路の速度超過は私も思い当たるな」等)につながると考えました。

実施にあたり、「このデータ分析からどのような結果が得られるのか」「将来のまちづくりにどのように役立つのか」について具体的に説明を行い、データに対する関心の向上に努めました。また、個人情報データの取り扱いについても丁寧に説明を行い、貴重なデータを地域の交通安全対策に活用したい旨を伝えました。

結果として、データに対する地域の関心が高まるとともに事業に対する関心が向上し、その後の交通安全対策の合意形成につながりました。

収集したデータの分析、見える化にあたって、分析者にはどの程度のスキルが必要ですか。また、どのようなソフトウェアを活用しましたか?

統計及びGISの基礎的な知識を有し、Excel及びArcGISの簡単な操作ができれば分析可能

難しいスキルは必要ありません。統計及びGISの基礎的な知識を有し、Excel及びArcGISの簡単な操作ができればどなたでも分析が可能です。

収集したデータの分析結果(分析、見える化を含む)の利活用にあたり、どのように進めていきましたか?

誰もが危険個所を直感的に感じられるように、視覚的に表現した危険箇所マップを作成。作成したマップは広く情報提供を行った

地域の方へデータ分析結果をフィードバックするにあたり、子どもから高齢者まで誰もが危険箇所を直感的に感じられるように、ヒートマップやスタックチャート、ヒヤリハットのアイコンを組み合わせて視覚的に表現した危険箇所マップを作成しました。

作成したマップは、まちあるきの際のしおりや地域の回覧板に活用することで、広く情報提供を行いました。

図、GISを用いて交通事故データのヒートマップとヒヤリハットデータのスタックチャートを重ね合わせ、潜在的危険箇所を可視化した地図。
交通事故データは、250メートルメッシュを道路延長1キロメートルあたりの事故件数を段階的に緑色から赤色のヒートマップとして表示。ヒヤリハットデータは、250メートルメッシュを道路延長1キロメートルあたりのヒヤリハット件数をスタックチャートで積み上げて表示。それらを重ね合わせ、交通事故のヒートマップが緑色で安全に見えて、ヒヤリハットのスタックチャートが積み上がっているメッシュを潜在的な危険箇所として可視化していることを示した図を掲載。
ヒートマップ・スタックチャートによる可視化

データ分析の結果を基に、「まちあるき」を経たことで、どのような発見がありましたか?

現地確認を行ったことで、データ分析だけでは見えてこない現場の実情を把握

データにより導き出された危険箇所について、地域の方と一緒に現地確認を行ったことで、データ分析だけでは見えてこない「速度超過多発の原因は道路形状が下り坂になっていることではないか」といったことや「白線が薄くなっており危険箇所が存在している」といった現場の実情を把握することができました。

図、一条3丁目、2丁目付近の白地図に、ヒヤリハットの状況をプロットし、まちあるきで出た意見と当日撮影した写真を貼り付けた図。一条3丁目付近では、白線が薄い、一条中跡地付近では、一条中跡地入口のブロックが破損、一条中跡地歩道橋の歩道が狭い(120センチメートル)ため、すれ違い時危険、一条中跡地南側歩道を住民側へ移設希望、市役所方面へ下り坂のためスピード超過といった意見が出ていることを示した図を掲載。
まちあるきで出た意見(抜粋)

自治会、PTA、学校などの地域住民を主体とした対策検討会は、どのようなきっかけで立ち上げたのでしょうか?

地域住民に参加いただきながら取組を進めてきたことで、地域課題に対する共通認識が芽生え、地域住民主体の対策検討会が立ち上がった

地域住民に参加いただきながらデータ分析やまちあるきを進めてきたことで、地域課題に対する共通認識が芽生え、地域一体となって対策を実践するためには、自由な発想で意見交換し、様々な視点から検討するための場が必要との意見が集まりました。

その後、地域団体を中心にメンバー選定が行われ、自治会、小学校関係者、警察、宇都宮市の道路関係課を含めた地域住民主体の対策検討会が立ち上がりました。

図、自治会、小学校関係者、警察、宇都宮市の道路関係課を含めた地域住民主体で対策検討会を行っている様子(約10名で打合せ)を表した写真。
検討会当日の写真

対策検討会での合意形成に当たり、どのような点を工夫しましたか。また、どのような苦労がありましたか?

警察にも参加いただき、安全対策のアイディアについてレクチャーいただくことで、合意形成を図ることができた

警察にも検討会に参加いただき、様々なアイディアの安全対策についてレクチャーをいただくことで、対策を再検討し、合意形成を図ることができました。

結果として、すぐにできる安全対策(ソフト対策)として、注意喚起看板設置の設置等を行うことができました。

交通規制やハード整備などの意見集約に時間を要する対策については、今後、継続して検討し、地域の実情に応じた対策を実施していく予定です。

検討会当日の自治会と行政とのやり取りの一部についてイラストを使い、表現した図。
自治会からのスピード対策としてハンプを設置できないかという意見に対し、行政の担当者からハンプの設置には音の影響があり、近隣住民の合意が必要となることや
物理的ではなく視覚的に障害物があるようにみせるイメージハンプもあるというアドバイスがあった。自治会から地域にとってベストな対策を検討していくという意見に対し、行政の担当者からまずは注意喚起看板の設置などできる対策から取り組みましょうというアドバイスがあり、地域で課題を共有し、合意形成を行っていることを示している図を掲載。
検討会当日の自治会と行政のやり取り

脚注

*1  カープローブデータ:
通信機能付きICタグを活用して得られた、急ブレーキ、急加速、急ハンドル、速度超過のデータを指す。

*2  ヒヤリハットデータ:
カープロープデータ得られたデータをヒヤリハットデータという。

*3  テレマティクス:
自動車などの移動体に通信システムを組み合わせて、現在の交通状況を加味したナビゲーション、地域情報の提供などを行うもの。

*4  CSV:
Comma Separated Valueの略称。各データをカンマで区切ったテキスト形式のファイルのこと。

*5  GIS:
Geographic Information System の略称。日本語では「地理情報システム」と訳されている。 地理情報をコンピューターの地図上に可視化して、情報の関係性やパターン、傾向を示した。

*6  ヒートマップ:
データの分布や集中度を色や濃淡として表現したデータ視覚化の手法の一種のこと。

*7  スタックチャート:
複数のデータを比較する際に用いられるグラフの一種である積み上げ棒グラフのこと。

参考サイト

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