どのようなデータを用いてどのような分析を行いましたか。
国勢調査等のデータからライフステージ別の人口増への寄与度を明らかに
65歳未満人口の増減分析では、国勢調査や住民基本台帳人口移動報告などの統計データを使用しました。(指定都市及び東京23区の区別データを対象)
具体的な分析方法は、自然減の影響を受けにくい「65歳未満人口の増減」に対し、「1.大学進学(15〜19歳)」、「2.就職(20〜24歳)」、「3.結婚(25〜29歳)」、「4.出産〜子が就学前(0〜4歳)」の4つのライフステージを、5歳階級別転入超過率に置き換え説明変数とし、「R」を活用し重回帰分析*2を実施して人口増への寄与度合を明らかにしました。
さらに、上記4つのライフステージの移動に何が重視されるのかを、アンケート調査結果に基づき選定した指標を使い、重回帰分析などでそれぞれのライフステージに対する指標の寄与度合を明らかにしました。
65歳未満人口増加率に与える各ライフステージの影響度分析
分析によりどのようなことがわかりましたか?
ライフステージで移動に影響を与える指標が異なる
65歳未満人口の増減は、4つの5歳階級別転入超過率を説明変数とした重回帰分析で、決定係数*30.88の結果が得られており、結婚、就職、出産〜子が就学前、大学進学の順番で、ライフステージが65歳未満人口の増加に寄与することが分かりました。
各ライフステージの転入超過率を目的変数とした重回帰分析でも、決定係数はそれぞれ0.6を超えており、例えば、全産業に占める情報通信業の従事者割合が高いエリアは、就職時に転入超過率が高く、また、大学進学から結婚までは、人口あたりの貸家の新築着工戸数が多いエリアで転入超過率が上がり、ライフステージが進むにつれて、地価が高くてもより便利な地域を選好する傾向が分かりました。
この結果に基づき戦略体系図を作成したほか、各ライフステージで重視される指標に紐づく既存政策を一覧化し、全体を俯瞰した上で、特に重要な政策については、「R」を使って政策効果の分析を行い、追加・拡充・縮小・廃止の見直しを行っています。
独自に算定した将来推計人口をどのように活用しましたか?
算定結果を庁内で共有し、保育所の配置検討などに活用
将来推計人口は、指定都市であれば、国立社会保障・人口問題研究所が作る5年ごと5歳階級の区別推計が一般的ですが、粒度が粗すぎることが課題でした。そこで、神戸市では小学校区別将来人口推計を1歳階級で毎年独自に算定し、ダッシュボードで庁内共有することにしました。
独自に算定した将来推計人口は、子育て、教育部門をはじめ様々な部門から要望があり、政策検討用として個別に共有を開始し、使われ始めています。例えば、保育所の最適配置の検討では、現状分析や将来推計人口などのデータを活用し、保育所の最適配置などを検討しています。
ダッシュボードを活用する際に工夫した点はありますか?
政策議論がしやすいよう分野別に作成
具体的に人口減少への適応を検討するダッシュボードとして、小学校区別で、人口データと公共サービスデータを重ね、小学校区別や全市で切り替えて俯瞰して見ることができるダッシュボードを、道路や公園などの施設管理、福祉サービス、こども・教育サービスなど分野別に作成し、政策議論がしやすいように工夫して庁内で共有しました。
人材育成にも取り組まれたそうですが、どのような研修を行いましたか?
現状分析と政策効果分析のスキル習得を目的とした研修を実施
各部局で政策立案や政策評価に携わっている職員を対象に、現状分析(広義のエビデンス)と政策効果の分析(狭義のエビデンス)のスキル習得を目的とした研修を実施。
前者では、各部局より2名程度参加し、データ可視化ツール「Tableau」*4を使用して、それぞれ部局のKPI*5ダッシュボードを作成し、各部局のミッションの進捗状況を把握・共有できるようなハンズオン*6研修を実施しました。
後者では、政策効果の因果効果を測る手法や、プログラミング言語「R」を使ったハンズオン研修、実践編として、「R」による分析を実際のデータを使って行う研修を実施しました。
研修の体制作りで苦労した点や工夫した点はありますか?
サポート環境の充実や幹部への報告会を開催するなど様々な工夫を実施
現状分析の研修では、庁内で先行してTableauを活用している職員によるメンター制や相談会等のサポート環境を充実させました。また、研修で選ばれたKPIダッシュボードを研修受講者自らが市長や企画調整局長などに発表する報告会を開催することで、各局で組織的に考え、より実効性のあるダッシュボード作成に結びつくよう工夫しました。
政策効果分析の研修では、導入編のほか実践編として実際のデータを匿名加工し、「R」を使用して、移住促進政策の最適ターゲットに関する分析を実施しました。また、研修受講者と東京大学政策研究教育センターで意見交換を実施するなど、意欲的な職員がより活躍できる機会を設けました。
今後の展望をお聞かせください。
人口動態を俯瞰的に議論できる環境整備、データ分析できる人材育成を強化
65歳未満人口の増減分析の結果をもとに、関連指標と合わせて1か月ごとに更新されるダッシュボードを作成し、その推移を庁内で共有することで、人口動態を俯瞰的に捉えられるようにし、人口減少抑制政策の議論を活性化していきます。
将来推計人口は、毎年4月末時点のデータで更新していくとともに、庁内の需要が高い世帯数や死亡者数の推計も算出する予定です。また、令和5年度中に区別の将来推計人口を神戸市ホームページ「神戸データラボ」で公開する予定です。
また、具体的な政策立案につなげていくためには、各局でドメイン知識*7を生かしてデータ分析できる人材を増やしていくことが必須であり、人材育成をさらに強化していきます。
脚注
*1 ダッシュボード:
複数の情報源からデータを集め、概要を集計値や表、グラフ等でまとめて一覧表示する機能や画面、ソフトウェア。
*2 重回帰分析:
結果となる数値(目的変数)と要因となる数値(説明変数)の関係性を数式モデルで表す手法。
*3 決定係数:
結果となる数値(目的変数)を要因となる数値(説明変数)でどの程度説明できるかを0〜1の割合で示しており、1に近いほど数式モデルの当てはまりが良いとされる。
*4 Tableau:
Business Intelligence ツールの1つである。Business Intelligence ツールはデータの可視化等意思決定のためのアプリケーションソフトウェアの総称。
*5 KPI:
Key Performance Indicatorの頭文字をとったもので、施策などの成果指標のこと。
*6 ハンズオン:
直訳は「手を触れる」となり、教育分野では体験学習をさす。
*7 ドメイン知識:
ある専門分野に特化したの知識のこと。