
平成27年に福山市総合戦略を策定し、雇用や新しい人の流れの創出を目指した施策を実施してきました。しかし、各施策に関連して設定した数値目標に対する実績を見ると、人口増減に関連する項目は目標に達していない状況でした。
人口減少社会においても都市の活力を失わないよう、特に「現役世代を減らさない」取組の強化が必要だと考えました。しかし、従来の行政の施策は総花的になりがちで、期待する効果につながっていませんでした。目標の実現に向けて、選択と集中が必要だと考えました。
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広島県福山市 人口問題 子育て・教育 公的統計データ 行政データ 民間データ 新規に調査 2020
人口減少対策にペルソナ*1マーケティングの考え方を導入し、ターゲットを絞った実効性ある施策の構築・実行を目指したプロジェクトです。人口動態に係る課題を統計調査から分析し、進学、就職など社会増減の起こるタイミングと、専業主婦、共働きなどライフスタイルの違いを踏まえた9つのペルソナ像を設定しました。それぞれの満足度を高めるためのアクションプランを作成するとともに、市内の企業が主体的に実行するための会議体を設置し、事業を展開しています。
導入費 約499千円(市政に対するニーズ把握のための定量調査)(平成30年度)
運用費 約434千円(ライフスタイル応援会議講師謝礼)(令和元年度)
人口増減に関する施策の数値目標が達成できていない。効果的な施策を打ち出したい
定量的*2なデータと定性的*3なデータを組み合わせてペルソナを設定。ターゲットを絞った強化策を構築し、実行へ
国や県の統計データを活用。補完のためにアンケートやグループインタビューを実施
定量データ×定性データで具体的な人物像と仮説を設定
ペルソナの満足度を高めるための事業計画を作成。市内企業や地域団体を巻き込んで実行へ
ターゲットを絞った効果的な人口減少対策が必要
平成27年に福山市総合戦略を策定し、雇用や新しい人の流れの創出を目指した施策を実施してきました。しかし、各施策に関連して設定した数値目標に対する実績を見ると、人口増減に関連する項目は目標に達していない状況でした。
人口減少社会においても都市の活力を失わないよう、特に「現役世代を減らさない」取組の強化が必要だと考えました。しかし、従来の行政の施策は総花的になりがちで、期待する効果につながっていませんでした。目標の実現に向けて、選択と集中が必要だと考えました。
定量データと定性データを組み合わせてペルソナを設定
客観的なデータ分析に基づいて取組の方向性を見極め、部局横断的に実行していこうと考えました。加えて、取組の実行段階では、雇用確保や仕事と子育ての両立などを実現する上で核となるプレーヤーが積極的に関わり、実行する仕組みも必要でした。そこで、市役所内の複数部署のメンバーでチームを結成し、民間企業とも定期的に意見交換するなど、当初から民間視点を取り入れました。
施策の基本となるペルソナは、統計調査などの定量的なデータに、市役所窓口やイベントなどで集めた定性的な意見も反映し、これらを複合的に整理して設定しました。サービスを利用するユーザー像を明確に描き、その満足度を高める強化策を打ち出そうと考えました。
統計データを活用。アンケートやグループインタビューで補完
進学時から子育て期までのライフステージごとの人口動態の現状や課題を明らかにするために、自然増減、社会増減の状況や産業構造など国や県の統計データを幅広く活用しました。
ただし、これだけでは不十分なため、補完的にアンケート調査やグループインタビューを実施しました。市内の高校へのヒアリングや、子育て中の女性へのインターネットアンケートなど、様々な手段でより詳細なデータと声を拾いました。
世の中全体のトレンドを反映するために、希望の働き方や移住に関する民間データも活用しました。
(活用した統計データ:国勢調査、住民基本台帳に基づく人口・人口動態及び世帯数、日本の地域別将来推計人口、人口動態調査、経済センサス-活動調査、広島県学校基本調査、市政に対するニーズ把握のための定量調査、移住・定住に関する意識調査、高校生の「進学・就職」に関する意識調査、高校生進学先調査、大学生・大学院生の就職観等に関するアンケート、福山市子ども・子育て支援事業計画に関するニーズ調査、福山市子どもの生活実態調査、若者の移住や働き方に関する民間データなど)
定量データ×定性データで人物像と仮説を設定
各種統計調査は、クロス集計やボリュームゾーンの分析などを行いました。外部の専門家の協力も得て、集計表から何を読み取るべきか、一緒に議論しました。
分析から、大学進学時や就職期の転出超過、出生数の減少の要因など、注力すべき課題を抽出し、ターゲットとすべきペルソナを定めました。
アンケートやインタビューからは、統計調査では把握できない就職観や結婚・子育てに関するニーズなどを読み取り、定量データと定性データの組み合わせで、ペルソナの具体的な像と、満足度を高めるための仮説を設定していきました。
(活用したツール等:e-Stat*4ほか)
新たな人口減少対策アクションプランを策定
政策ターゲットとして、社会増減が起こる進学、就職、移住の3つのターニングポイントと、専業主婦(夫)、共働き(子どもあり)、共働き(子どもなし)、シングルの4つのライフスタイルでとらえ、具体的な像を描きました。9つのペルソナを設定し、ペルソナの満足度を高めるための事業計画として「新たな人口減少対策アクションプラン」を策定しました。
ペルソナの一例として、「子育て共働き女性(25〜39歳)」があります。子どもの成長に幸せを感じながらも、家庭内の育児負担の偏重や経済面の不安から、3人目の出産をためらう女性をイメージし、仕事と子育ての両立支援や育児支援の具体施策を考えました。ほかのペルソナについても同様に、人物像と施策を提案しています。
初期段階から行政以外のプレーヤーを巻き込んで実行
行政以外のプレーヤーが積極的に関わり、実行する仕組みとなるように、市内企業や地域団体と連携して「みんなのライフスタイル応援会議」を設置しました。会議は年に4〜5回開催し、活発に議論を行っています。この会議が中心となり、市主体の取組と民間主導の取組の両輪で、アクションプランを推進しています。
前例のない取組で、市役所内では、行政が特定のターゲットに絞ることの是非を問う意見もありました。そのような考えも理解しつつ、丁寧に必要性を説明し、意義を共有しながら進めていきました。
「子育てパパ活躍ウィーク」など取組を実行。EBPM*5の効果も確認
アクションプランの事業の一つとして、男性の子育て参加促進と女性の負担軽減・リフレッシュを目指す「子育てパパ活躍ウィーク」を実施しました。休暇取得や在宅ワークなどで育児参加を応援する企業と、親子で参加できるイベントなどを企画・実施する協力企業による取組です。そのほかの取組も含め、EBPMの効果も現れています。
2019年、2020年とアクションプランを策定し、実行してきましたが、新型コロナウイルスの感染拡大により、住民の意識も変わってきています。その変化を把握するため、子育て世代や高校生、大学生などにアンケートを実施しており、今後、ペルソナを再構築していく予定です。大学や民間企業ともさらに連携し、分析力を高め、次期アクションプランの策定につなげていきます。
*1 ペルソナ:
サービスを利用する象徴的なユーザー像のこと
*2 定量的:
数値で表せること
*3 定性的:
数値で表せない性質や特色を表したもの
*4 e-Stat:
政府統計の総合窓口(e-Stat)は各府省等が公表する統計データを一つにまとめ、統計データを検索したり、地図上に表示できたりするなど、統計を利用する上で、たくさんの便利な機能を備えた政府統計のポータルサイト。
*5 EBPM:
エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキングの頭文字を取った言葉。証拠に基づく政策立案という意。