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長崎県の転入・転出に係る構造分析および動態把握事業

長崎県 県民生活環境部 統計課

長崎県 特別賞 人口問題 公的統計データ 新規に調査

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概要

 「就業構造基本調査」の統計ミクロデータ*1を法令に基づいて使用し、住民票の届出情報では把握できなかった転入・転出の理由や属性別の特徴などを明らかにしたプロジェクトです。人口減少が続き、解決策を模索している長崎県は、転入・転出の実態をエビデンスに基づいて把握する必要があると考えました。分析の結果、これまでは推測していた内容について、エビデンスデータによる裏付けが可能となり、男性は進学と就職、女性は家族の仕事の都合と就職で転出超過が多くなっている実態が客観的なデータからもわかりました。

導入費・運用費

導入費 −
運用費 −

受賞

  • 「第5回地方公共団体における統計データ利活用表彰 特別賞」(2020)

取組の流れ

  • PPDAC-problemアイコン画像

    人口減少が続いているが、転出超過の実態(理由や属性)が客観的なデータで把握できていない

  • PPDAC-planアイコン画像

    調査項目に「居住開始理由」(転出理由)がある就業構造基本調査の統計ミクロデータ利用を計画

  • PPDAC-dataアイコン画像

    総務省統計局に統計ミクロデータの利用を申請

  • PPDAC-analysisアイコン画像

    転入・転出の理由などを属性別の分析で明らかに

  • PPDAC-conclusionアイコン画像

    県の人口減少対策検討会などでエビデンス資料として活用

ヒアリング・ここが知りたい!

どのような課題がありましたか?

続く人口減少。住民票の届出情報ではわからない転出理由を知りたい

 長崎県の人口は昭和35年をピークに減少傾向にありました。要因の一つが県外流出で、実数は住民票の届出情報から把握できるものの、転入・転出の主たる理由などは客観データによる実態把握ができていませんでした。
 これまでは届出情報にある年齢やヒアリング情報を基に、県外転出の理由を推測していましたが、人口減少への解決策を模索するにあたり、エビデンスとなるデータに基づく正確な現状把握が求められていました。

エビデンス(データ)収集のために、どのような計画を立てましたか?

公的統計のミクロデータ利用を計画

 総務省統計局が5年ごとに実施している「就業構造基本調査」に、県が必要としている「居住開始理由」(転出理由)の調査事項があり、その統計ミクロデータを使い、これまでに推測していた転入・転出者の移動理由などを分析し、転入と転出の実態を把握しようと計画しました。

就業構造基本調査票
就業構造基本調査票

データの収集はどのように行いましたか?

総務省統計局に利用申請。統計データ利活用センターにも相談

 個人情報保護の観点から、統計ミクロデータを利用するには厳格な申請手続きが必要です。利用目的と、統計ミクロデータを使って行う分析の詳細を記載した上で申請しました。利用申請に当たっては、総務省統計局統計データ利活用センターに相談し、アドバイスをもらいました。
(活用した統計データ:平成29年「就業構造基本調査」の統計ミクロデータ)

どのような分析を行いましたか?

男女、未婚既婚別の転入・転出理由を分析

 就業構造基本調査にある移動理由は「就職」、「退職」、「転勤」、「家族の仕事の都合」、「通学」、「結婚」などです。県では、統計ミクロデータを使って「移動理由別の転入・転出」、「未婚者の移動理由別の転入・転出」、「未婚者の『仕事につくため』を理由とする転入・転出」の3点を、主に分析しました。
 移動理由別の転入・転出について、男女別、年齢別、未婚・既婚別にクロス集計を行うほか、就職を理由としている人が、転出後にどのような産業、規模の勤め先で就業しているかも把握しました。
(活用したツール等:Excel)

結果としてどのような政策に結びつきましたか?

転出超過理由をエビデンスとして確認。進学、就職で県外へ転出

 長崎県からの転出超過の理由が、推測ではなくエビデンスとして確認できました。主な理由は、男性は「進学」、「就職」であるのに対し、女性は、「就職」と「家族の仕事の都合」でした。なお、女性の「家族の仕事の都合」について、配偶者(夫)に注目したところ、主に夫の「転勤」が影響していることがわかりました。さらに、家族都合の要因を除くために、未婚者の実態にも着目しました。未婚者の転出は、男性は進学のタイミングが多いのに対し、女性は、進学よりも就職のタイミングで転出が拡大する傾向にありました。
 また、就職のために転出した人の就業先は、情報通信業など長崎県があまり強みを持たない産業が多いことなども明らかになりました。
 近年、本県では女性の転出が特にクローズアップされる傾向がありましたが、女性の転出については、既婚者の場合は家族都合の理由が多いこともあり、その点を認識した上で、女性のみならず男性についても引き続きターゲットとした政策を進める必要があると確認できました。

未婚者にかかる転入・転出の理由別の分析
未婚者にかかる転入・転出の理由別の分析

データ利活用(収集や分析)において工夫した点や難しかった点について教えてください。

プロジェクトチームで何十回も集まり議論を重ねた

 難しかったことは、集計表を作ると独自集計表のポイントと思われる箇所がいくつも出てきて、すぐには着目点が定まらなかったことです。そこで統計課が所属する部の部長を中心としたプロジェクトチームで何十回も集まり、議論を重ね、議論を通じて様々な視点に気づき、分析が深まりました。

取組の結果、どのような効果が現れましたか?
また、今後どのような改善点や展望をお考えでしょうか?

データによる現状把握の重要性を認識。新たなアンケート調査を実施へ

 県庁内の人口減少対策会議などの場で、今回の分析がエビデンス資料として使われています。県庁内で推測していた理由について、データで裏付けをすることができ、より実効的な施策につながると期待しています。
 一方で課題もあります。一つは、直近の就業構造基本調査が平成29年に実施されたもので、現在から3年前のデータであり、やや年数が経っていること、もう一つは、調査設計上、市町別の分析ができないことです。人口減少対策に向けて、より効果的でタイムリーな施策を打っていくため、移動理由をリアルタイムに把握する必要があり、そのための新たな取組として、県独自の統計調査(移動理由アンケート*2)を実施することにしました。令和2年度は試行的・先行的に実施しており、令和3年3月から全21市町で実施する予定です。
 今回の分析を通して、県庁内で基礎的データによる現状把握の重要性が再認識され、新たな取組につながりました。今後は、この取組を踏まえ、確度の高い、より効果的な施策の立案やその効果把握など県内のEBPM*3定着が進むことを期待しています。

新たな「移動理由アンケート」
新たな「移動理由アンケート」

脚注

 *1 統計ミクロデータ:
 ミクロデータ(調査票情報)とは、調査対象の秘密の保護を図った上で、世帯単位や事業所単位といった集計する前の個票形式のデータのこと。

 *2 移動理由アンケート:
 試行結果を踏まえ、所要の見直しを行った上で、県内全21市町で令和3年3月から本格的に調査を開始。

 *3 EBPM:
 エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキングの頭文字を取った言葉。証拠に基づく政策立案という意。

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