ここから本文です。

過去の気象・被害データに基づいた災害規模予測の導入

宮城県 仙台市 危機管理室 防災計画課

宮城県仙台市 総務大臣賞 防災・危機管理 行政データ

「過去の気象・被害データに基づいた災害規模予測の導入」サムネイル画像

概要

 事前の気象情報から災害規模と市が取るべき体制を正確に判断できるように、災害対策立案を支援する仕組みを構築したプロジェクトです。
 過去の風水害時の気象データと被害記録を統計処理して災害発生時の被害状況と市が取るべき体制レベルを予測するモデルを開発し、そのモデルを基に、起こり得る災害規模の予測結果を共有するツールを作成しました。災害時に予測情報を共有した結果、迅速な災害対応が可能になりました。

導入費・運用費

導入費 ―(開発にかかった人件費のみ。10人日程度)
運用費 ―(予測モデルのパラメータ調整などにかかる人件費のみ)

受賞

  • 「第5回 地方公共団体における統計データ利活用表彰 総務大臣賞」(2020)
  • 「令和元年度 業務改善実績 仙台市 市長表彰」(2019)

取組の流れ

  • PPDAC-problemアイコン画像

    大雨による災害の発生が見込まれる場合に、災害規模と市が取るべき体制を事前に予測し、実施すべき必要十分な災害対策を即座に判断したい

  • PPDAC-planアイコン画像

    「市職員が未来の災害規模を簡単に予測計算でき、かつその予測結果から危機意識を共有できる」仕組みの構築

  • PPDAC-dataアイコン画像

    気象情報と市の過去の被害記録を収集

  • PPDAC-analysisアイコン画像

    重回帰分析とニューラルネットワーク*1の手法に基づいて、気象データと被害記録を統計分析し、開発した予測モデルにより、起こり得る災害規模を予測

  • PPDAC-conclusionアイコン画像

    大雨による災害の発生が予想される数日前から、災害規模予測の結果に基づいた迅速な災害対策立案が可能になった

ヒアリング・ここが知りたい!

どのような課題がありましたか?

大雨情報だけでは被害予測が困難。対応に迷いが生じていた

 大雨時、災害に備えて市が取る体制レベルは3段階あります。関係部署間の連携を強化する「情報連絡体制の強化」、災害発生時にすぐ対応できるように職員を集めておく「警戒配備」、市役所内に災害対策本部が立ち上がる「非常配備」です。
 しかし、予想雨量など気象庁から発表される気象・防災情報だけでは、災害規模と体制レベルの予測・判断が難しく、さらに体制判断のトリガーとなる気象警報等は発災直前にならないと知ることができないため、事前に対策を立てることが難しい状況にありました。そのため、部署内の職員の危機意識もばらつきがあり、迅速な災害対策立案を妨げていました。

エビデンス(データ)収集のために、どのような計画を立てましたか?

市職員が簡単に災害規模予測を計算し、危機意識を共有できるツールを計画

 市職員が簡単に災害規模予測を計算でき、危機意識を共有できるツールを構築するために、入手しやすい気象情報を予測計算に活用することにしました。市が記録している過去の被害記録と気象データを基に、災害規模と体制レベルを予測するモデルを開発し、そのモデルに基づいた予測計算ツールを構築しようと考えました。

災害規模予測ツールを使用した対応案
災害規模予測ツールを使用した対応案

データの収集はどのように行いましたか?

気象庁の観測雨量、警報発表履歴、市の被害報*2などのデータを収集

 予測モデルの開発に利用したデータは、過去の気象情報と、市内で風水害が発生した際の記録である被害報です。仙台市で風水害が起きた事例におけるアメダス観測雨量(総雨量、最大1時間雨量)、警報発表履歴、地上天気図などや、市の被害報からは家屋浸水、道路冠水、土砂災害などの被害発生件数と、避難者数などを収集しました。
(活用した統計データ:アメダス観測雨量、警報発表履歴(大雨警報、土砂災害警戒情報)、地上天気図、市の被害報)

どのような分析を行いましたか?

重回帰分析とニューラルネットワークを併用

 分析は、重回帰分析とニューラルネットワークの2つの手法を使いました。まず、重回帰分析では、市の体制レベル、各被害の発生確率を目的変数とし、総雨量、最大1時間雨量、警報情報等を説明変数として分析を行いました。次に、ニューラルネットワークでは、市の体制レベルやカテゴリに分けた各被害の件数を目的変数とし、説明変数には主に天気図を用いました。ここで天気図は、天気図にある台風や低気圧など7つの要素の位置を数値化し、これを入力値としました。一般的に、予測雨量など量的な予測は大きく外れる場合があるため、天気図をベースにしたニューラルネットワークの予測を組み合わせることで、被害予測の精度を担保しました。
 この2つの分析を基に予測モデルを開発し、このモデルに基づいて災害規模を予測するとともに、その結果を部署内で共有するツールを構築しました。新たに大雨が予想される際は、そのツールに必要なデータ(予測雨量や、低気圧等の予想位置)を入力するだけで災害規模と体制レベルが出力される仕組みになっています。
(活用したツール等:Excel)

重回帰分析とニューラルネットワークの予測結果
重回帰分析とニューラルネットワークの予測結果

結果としてどのような政策に結びつきましたか?

予測結果をレポートで周知。早期の体制準備と避難情報発令を実現

 予測結果は、「災害規模予測レポート」にまとめて、部署内で共有しています。このレポートには予測結果である体制レベルや、土砂災害警戒情報発表確率、家屋浸水、道路冠水、土砂災害および避難者の発生確率と件数の記載に加え、災害対応に役立つようにその災害における留意事項も記載しています。さらに、後日、実況・実測と比較した「検証レポート」も作成して周知することで、災害対応にあたる職員の災害予測に対する理解力を高めるとともに、予測精度の向上を図っています。
 また、このツールは、大雨が予想されるたびに、何度も活用しています。近年では令和元年東日本台風(台風第19号)の接近時に、数日前からデータを入力して予測計算を実施し、事前に被害の発生が予測できたため、雨が強く降り始める前に避難準備・高齢者等避難開始や避難勧告を発令する判断を行うことができました。ツール導入前と比べると、より迅速で的確な災害対策立案ができるようになり、市民の皆さんの安全を守ることにつながっていると思います。
 さらに、メディア等で報道されている災害発生の危険性について、災害規模予測の客観的な情報に基づいて判断することで、必要十分な体制の構築にも活用されています。

検証レポートの記載例
検証レポートの記載例

データ利活用(収集や分析)において工夫した点や難しかった点について教えてください。

市職員が簡単に使えるツールになるよう工夫

仙台市内災害規模予測ツール画面
仙台市内災害規模予測ツール画面

 気象データと被害記録をどう関係づけるかが、この予測モデルを構築する際のポイントで、もっとも悩んだ点でした。類似の研究はほとんどなく、ゼロから開発しましたが、重回帰分析とニューラルネットワークの2つの分析を組み合わせる工夫で想定以上の予測精度を実現できました。
 開発にあたって留意したことは、誰もが簡単に使えるツールにすることです。人事異動もあるなかで持続的な取組とするには、属人的にせず、ツールに災害対応の判断のノウハウや知見を継続的に蓄積していく必要があると考えています。

その政策によって、どのような効果が現れましたか?
また、今後どのような改善点や展望をお考えでしょうか?

予測に基づく判断と職員の意識の底上げに貢献

 運用開始以来、特に体制レベルの予測は精度が高く、危機意識の統一や迅速な意思決定ができるようになってきました。今後は、異動してきた職員のための研修ツールとしても活用したいと考えています。このツールの使用を通して、雨量と被害規模の感覚を身につけることができれば、部署全体の意識が底上げされて災害対応がさらに迅速に進み、最終的には市民の安全確保につながると期待しています。
 今後の課題は、避難情報を発令するタイミングです。気象データと被害記録を時系列で取り込んで解析し、避難情報発令のタイミングを事前に予測するモデルを開発するなど、災害対策立案をさらに支援するようなツールに発展させていきたいと考えています。

脚注

 *1 ニューラルネットワーク:
 脳の神経回路を模倣した数理モデルで、画像認識などでよく使われる手法

 *2 被害報:
 風水害時の被害情報を記した書類

サイトマップ
ページ上部へ アンカーのアイコン画像