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地域医療に従事する公衆衛生専門家の参事就任による市役所内データ利活用の活性化

茨城県 つくば市 保健福祉部

茨城県つくば市 健康・福祉 行政データ

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概要

 市役所に集積するデータの保健福祉行政への活用を市職員と共に推進するために、公衆衛生と臨床医学を専門とする医師が参事として市の行政に参画しています。医療介護レセプト等のビッグデータを大学等に提供して学術活動に役立てるだけでなく、専門的な研究成果を市の施策に反映させる橋渡しを行い、研究者と行政の双方にとって有意義なデータ活用のあり方を模索しています。

導入費・運用費

導入費 −
運用費 −

取組の流れ

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    研究者と市職員の間のコミュニケーションが十分ではなく、分析結果を施策に反映させることには困難。個人情報の取り扱いにも課題。

  • PPDAC-planアイコン画像

    公募した専門家(医師)を中心にデータを洗い出し、市職員のデータマインドも醸成

  • PPDAC-dataアイコン画像

    保有データの効用と限界を議論。若手職員と医療レセプトデータ(KDB*1)と市民意識調査データを分析

  • PPDAC-analysisアイコン画像

    記述的分析と多変量解析で700万件のデータを分析

  • PPDAC-conclusionアイコン画像

    見落とされていた問題点が明らかに。詳細な状況把握や因果関係の推定まで可能に

ヒアリング・ここが知りたい!

どのような課題がありましたか?

研究者と市職員のコミュニケーションに壁、個人情報のオープン化も課題

 つくば市では、平成20年から高齢者福祉計画のためのアンケート調査を筑波大学に提供し、データの学術的利活用に取り組んできました。しかしながら、多忙な研究者と市職員の間の橋渡しは十分でなく、一部の試験的な試みを除いて得られた分析結果を直ちに施策に反映させることには困難がありました。
 また、個人情報を含む市のデータベースは外部の研究者には開示できないため専門家の助言を得にくく、市職員による利活用は限定的でした。そこで、新たな取り組みとして、データと施策を橋渡しする専門家を公募・採用し(平成31年4月)、大学と共同で研究者が利活用できる医療介護レセプトを突合したデータベースを構築し、分析する事業を開始しました。

市職員向けへのアンケート結果

エビデンス(データ)収集のために、どのような計画を立てましたか?

筑波大学と組み、保険福祉部内のデータを洗い出し
職員のデータマインド醸成も

 まず、筑波大学との共同研究体制を構築しました。令和元年8月(2019年8月)に筑波大学ヘルスサービス開発研究センターと、医療介護分野のデータ解析に関する覚書を締結しました。そして、保健福祉部内のデータの洗い出しを行いました。保健福祉部参事として採用された黒田直明医師を中心に、つくば市保健福祉部内で利用可能なデータとそれらの特性を把握することに着手しました。また、保健福祉部内の職員を対象にアンケートを取り、データ利活用の困難点を洗い出しました。
 市職員のデータマインドの醸成活動も行いました。若手職員のデータ利活用への関心とスキルを高めるために、保健福祉部内で定期的に研修を行い、実際にデータ解析の計画・準備・実施・考察を行いました。

データの収集はどのように行いましたか?

半年間の週1ミーティングで保有データの効用を調査

 半年かけて週一回のミーティングを設定し、部内各課の保有データを網羅的に収集し、効用と限界を検討しました。そして、筑波大学に匿名化データを提供する覚書を締結し、医療介護連結データベースを作成しました。加えて、若手職員と、国保データベース(KDB)と市民意識調査データを分析しました。
(活用した統計データ:国保データシステム(KDB)・地域包括ケア見える化システム他(別紙学会ポスター)、高齢福祉計画アンケート調査)

どのような分析を行いましたか?

記述的分析と多変量解析で700万件のデータ分析

 市役所内で利用可能なデータベースを年齢・性別・地区別に層別化して集計する記述的分析を行い、多変量解析(いくつかある独立変数からなる多変量データを統計的に取り扱う方法)を用いた700万件のレセプトデータの分析にも着手しています。
(活用したツール等:e-Stat*2、Excelなどの表計算ソフト、SPSS、SAS、Stataなどの分析ソフト)

結果としてどのような政策に結びつきましたか?

疾患への合理的な施策づくりの参考に

つくば市役所

 今年度から始めた取り組みのため、具体的施策に繋げていくことは今後の課題となっておりますが、以下の3点がすでに成果として出ています。
 1、年齢階層別に国保データベースを加工して他の自治体と比較することで、これまで気づかれなかった当市における生活習慣病の疾病構造の課題点が明らかになってきています。来年度の事業計画の優先順位を付ける際にこの結果は参考にしています。
 2、国民健康保険、後期高齢、介護保険など課単位で別々に見ていた医療介護の状況を、データを軸とした全体像として描くことができました。そうして、疾患の発生・慢性化・重症化という縦断的な経過を踏まえた合理的な施策を打つことの重要性を共有できました。
 3、年齢・性別の調整の必要性(交絡因子への対処)、健診結果を市民の健康状態の指標とすることの注意点(サンプルの代表性)など医療統計学の基本的概念について身近な実例を用いて例示することができ、職員のデータへのリテラシー向上に寄与しました。

データ利活用(収集や分析)において工夫した点や難しかった点について教えてください。

人材確保と個人情報の取り扱いに試行錯誤

 一つは人材の確保です。公衆衛生学修士の学位の取得などにより大規模データの解析・利活用の知識を持つ医療者は日本ではまだ多くありません。大半は研究職または臨床職に専従しており、キャリアを中断して市の常勤職にリクルートすることは難易度が高いことが実情です。そこで、今回の取り組みでは臨床医としての業務や研究を継続しながら、市の業務にも十分に従事できるような週3日の短時間勤務の条件としました。このような働き方は、医療専門職者からみても従事可能性が高く、社会的意義の面からも訴求性があり、さらに市にとっても人件費の抑制に繋がる好事例と考えています。
 もう一つは、個人情報の取り扱いです。大学への医療介護レセプトの提供は、個人情報の取り扱いを中心に、市条例、大学の研究倫理委員会など複数の規定を遵守して進める必要がありました。

その政策によって、どのような効果が現れましたか?
また、今後どのような改善点や展望をお考えでしょうか?

ビッグデータ活用でパーソナルな医療介護を提供へ

 保有データの活用・分析を行うことで、国保データベースなどに記載されている平均値を他市町村と比較して課題を抽出するアプローチでは見落とされていた問題点や圏域毎の特性などを明らかにすることができました。
 また、医療介護レセプトの突合データベースの分析により、さらに詳細な状況把握や因果関係の推定までが可能となるとともに、学術的な成果として国内外に発信することで社会貢献にも繋がります。今後は市役所内でもビッグデータを解析できるようIT環境を整えていき、市民一人ひとりに対して適切な医療介護体制を構築していきたいと思います。

脚注

 *1 KDB:
 国保データベース(KDB)の略称。国保連合会が保険者の委託を受けて行う各種業務を通じて管理する「特定健診・特定保健指導」「医療」「介護保険」などの情報データベースのこと。

 *2 e-Stat:
 政府統計の総合窓口(e-Stat)は各府省等が公表する統計データを一つにまとめ、統計データを検索したり、地図上に表示できたりするなど、統計を利用する上で、たくさんの便利な機能を備えた政府統計のポータルサイト。

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