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統計Today No.59
「天地明察」と地域メッシュ統計
−平成22年国勢調査地域メッシュ統計について−
総務省統計局統計調査部調査企画課地理情報室長 米澤 哲一
緯度・経度の測定
江戸時代には主に暦を作成するため天文観測により、日本の緯度・経度を測定していました。この時代の日本は中国を通じてもたらされた暦を用いていましたが、中国の都を基準にして作成したものであったため、日本との経度の違いによる誤差が生じていました。この誤差を修正するために天文観測により緯度・経度を測定し、日本の新たな暦を作成したそうです。その様子は、昨年秋に公開された映画「天地明察」(冲方丁氏の史実を基にした同名の小説)でも描かれています。
その後、地球は完全な円球でないことから、明治時代に地球の楕円モデルとしてベッセル楕円体を採用し、当時の東京天文台の緯度・経度を、天文観測により決定し、この位置を日本経緯度原点としています。そして、全国に設置された基準点の緯度・経度を日本経緯度原点からの相対的な位置として定め、この測地基準系を「日本測地系」と呼んでいます。
そして、近年、VLBI(超長基線電波干渉法)や人工衛星を用いた観測による地球の正確な形状と大きさに基づいた世界測地系が国際的に定められ、我が国も平成14年に測量法の改正を行い、世界測地系に移行するとともに、日本測地系は平成24年2月をもって失効しました。
日本測地系の緯度・経度で表されている地点を、世界測地系で表すと、例えば、東京付近では、緯度が約+12秒、経度が約−12秒変化します。これを距離に換算すると、北西方向へ約450mずれることになります。
緯度・経度に関する年代別のキーワードを一つ挙げると(全てに天文観測は含まれますが)、江戸時代は六分儀、明治時代はベッセル楕円体、昭和時代は航空写真、平成時代は人工衛星になると思います。
時代ごとに緯度・経度の測定精度は異なっているものの、それぞれ緯度・経度はしっかりと測定されています。
地理情報の進展とCMS
このような地理情報の進展を踏まえ、統計局では、平成2年国勢調査で基本単位区(街区又は街区方式に準じた区画)を導入し、その後、地方公共団体や各府省等において統計データの高度利用を図るため、「基本単位区」及び「調査区」(一人の国勢調査員が受け持つ1の区域)並びに「町丁・字等」の境界を、各種小地域の統計データと組み合わせて利用する地理情報システム(GIS)であるCMS(Census Mapping System)を開発し、基本単位区境界などの入力整備を進めてきました。これにより、手間を要していた調査区地図の作成を、平成22年国勢調査では、全てCMSで作成することができ、事務の省力化、効率化が図られました。
緯度・経度と地域メッシュ統計
地域メッシュ統計とは、緯度・経度に基づき国土を隙間なく、網の目(Mesh)の区域に分けてそれぞれの区域に関する統計データを編成したものです。
統計局では、昭和40年国勢調査、昭和41年事業所統計調査から、両調査に関する地域メッシュ統計の編成結果を公表しています。その当時は日本測地系しかないので、緯度・経度は日本測地系で定められたものを用いています。しかし、世界測地系への移行により、同じ地域メッシュの区域(地域メッシュコードが同じ。)が、例えば、東京付近では北西方向へ約450mずれます。したがって、統計局では、国勢調査に関しては、平成7、12及び17年調査については両測地系で編成した結果を公表し、平成22年調査からは世界測地系の編成結果のみを公表しています。
地域メッシュ統計の作成
地域メッシュ統計の作成の方法は、初めて作成した昭和40年国勢調査地域メッシュ統計では、人手により紙の調査区地図にメッシュ線を引き(緯度・経度により)、メッシュ線で分断された調査区については、市街地は分断された面積のうち最も大きく占めている地域メッシュに、市街地以外は調査区内の人口が集中している箇所(人口分布点)のある地域メッシュに国勢調査データを結び付け(同定)ています。また、昭和50年事業所統計調査地域メッシュ統計では、従業者数が30人以上の事業所については、基本調査区地図上で個々の事業所の位置を人手により確認し、その所在地を含む地域メッシュに同定しています。
以降、平成12年国勢調査地域メッシュ統計までは、同定精度の向上のため面積による同定、人口分布点による同定や事業所の住所による同定などの同定方法の改善をしてきたものの、人手による同定作業が中心となっていました。
その後、平成17年国勢調査地域メッシュ統計では、人手による同定作業からCMSを利用した同定に切替え、その際、市販の電子地図とその住宅情報を活用する住宅建物同定を導入しました。また、平成18年事業所・企業統計調査地域メッシュ統計では、個々の事業所の所在地情報に基づき、緯度・経度の座標値を取得してメッシュコードを付与する方法(アドレスマッチング)に変更しました。しかし、市販の住宅地図情報を用いても緯度・経度が取得できない場合は、所在地付近のCMS情報と背景地図とを重ね合わせたものをディスプレー上に表示し、目視により同定を行っています。
今回公表した平成22年国勢調査地域メッシュ統計の同定方法は、平成17年国勢調査時と同じ方法を用いていますが、道路や建物などの背景地図の精度向上などにより、CMSの機能を活用した同定作業を行い、同定から編成結果公表までの期間を平成17年調査時と比べ約1か月間短縮することができました。
平成22年国勢調査地域メッシュ統計結果より
図1は、基準地域メッシュ(約1km四方)ごとに人口総数を人口規模別に色づけした地図です。一つの地域メッシュの面積は約1平方キロメートルとほぼ一定であることから人口密度の地図ともいえます。また、常住者のいる基準地域メッシュは全国で約18万区域でしたので、約18万の色の付いた区域から成る地図です。
この地図から大都市圏・都市圏に人口が集中していることが分かります。また、北の山岳地帯には人が余り住んでいませんが、南に移るほど山岳地帯にも人が住んでいる様子が読み取れます。
図1 平成22年国勢調査に関する地域メッシュ統計 人口総数
図2は、基準地域メッシュごとに65歳以上人口の割合をランク別に色づけした地図で、図3は、基準地域メッシュごとに男女同数、男性が多、女性が多の3区分別に色づけした地図です。
両地図を見ると、平均寿命は、女性の方が男性より長いため、65歳以上人口の割合が高い地域では、女性の方が多くなっている平均的な傾向が読み取れます。しかし、首都圏、名古屋圏では、65歳以上人口の割合が低く、男性の方が多いですが、首都圏、名古屋圏以外の大阪圏、北九州・福岡圏などでは、65歳以上人口の割合が比較的低いのにもかかわらず、女性の方が多くなっていることが読み取れます。
図2 平成22年国勢調査に関する地域メッシュ統計 65歳以上人口割合
図3 平成22年国勢調査に関する地域メッシュ統計 人口性差
≪出典≫
(図1及び図2)総務省統計局ホームページ「地域メッシュ統計」ページの「地域メッシュ統計地図」より
(図3)統計Today No.58で紹介されている「地図で見る統計(統計GIS)」から、「平成22年国勢調査−世界測地系(国勢調査-世界測地系1kmメッシュ)」の「男女別人口総数及び世帯総数」の統計データをダウンロードし、ArcGIS(市販ソフト)を用いて作成
(平成25年2月4日)