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リサーチペーパー 第17号
タイトル
若年層は経済回復期に安定雇用に移行できたか
著者 (原稿執筆時の所属)
永瀬 伸子 (お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科教授)
水落 正明 (三重大学人文学部准教授)
刊行年月
2009年10月
要旨
本稿は、企業の採用意欲が低水準から回復に向かった2002年−2007年の総務省『労働力調査』の個票データを用いて、若者が初職に安定雇用に就けるようになったかどうか、また無業やアルバイトに就いたとしても、正社員への移行がすすんでいるが、さらにパート・アルバイト経験が長いことは賃金率にどのような影響を与えるかについて計測した。
景気回復期の若年者の就職状況を個票の特別集計から見ると、2003年度をボトムに正社員比率がわずかに上昇し、無業者比率がやや下落している。とはいえ、新卒者に対する求人が増加した2006年度を見ても、学卒後1年目について、大卒層で平均的に1割程度、高卒層は平均的に3割程度、卒業無業者がいる状況が続いている。
34歳までの男女をみると、多変量解析の結果、学歴が高いほど、年齢が上がりすぎないほど、またパート・アルバイトに就いているよりは、派遣社員(女性)や契約社員等を含むその他雇用(男性)に就いている方が、正規職に移行しやすいことが示された。また労働需給や個人属性などの要因をコントロールすると、非正規雇用や無業を経験する若年は年々上昇する傾向があることが見いだされた。
このことは、非正規雇用に入った者についても人材育成が可能である仕組み作りの必要性を示唆する。政策の効果として利用できる統計が少ないが、ジョブカフェの効果を、若年人口にしめる県別のジョブカフェ利用者割合として推計に入れると、地域が企業・個人・学校とを連携する取り組みをすることは、正規就業化を助けるというゆるい正の効果が見出された。今後は雇用政策の効果を実証的に測る数値データの一層の拡充が必要である。
正社員の仕事に転職できた場合、賃金は非正規雇用よりも有意に上昇するが、これも30歳代に入ってからの移行では、効果が弱まり、男性は32歳以降の移行でほとんど正の効果がなくなることも示された。
キーワード:初職、非正規雇用、移行、ジョブカフェ、男女格差