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リサーチペーパー 第15号
タイトル
労働力状態の移行に対する労働市場需給の影響
著者 (原稿執筆時の所属)
太田 聰一 (慶應義塾大学経済学部教授)
玄田 有史 (東京大学社会科学研究所教授)
刊行年月
2008年10月
要旨
本稿では「労働力調査特別調査」(1988年〜2001年2月調査)および「労働力調査」(2002年〜 2006年2月調査)を用いて、経験年数12年以内の若年について、現在と直前時点の労働力状態を、就業、非就業の他、正規雇用、非正規雇用ならびに失業、非労働力などに区分し、各状態間の移行に対する調査年と学卒年の有効求人倍率水準がもたらす影響を計量分析した。その結果、両時点の有効求人倍率の変動が移行確率に与える影響は、学歴および性別によって大きく異なることが明らかとなった。
主な事実は、以下の通りである。
(1)高校卒および中学卒等の低学歴男性で学卒年不況の世代効果が強まる背景として、求人倍率の低い時期に卒業した世代ほど、その後も非就業から就業への移行は困難になっていることの影響が挙げられる。
(2)高校から進学した高学歴男性では、求人倍率の低い時期に卒業した世代ほど、正規雇用から非労働力への移行が抑制されるなど、学卒時に獲得した正規雇用の機会を維持する傾向が強くみられた。
(3)調査時点の労働需給の影響として、正規雇用の状態にある低学歴男性であっても、求人倍率が下がると、非正規雇用もしくは非労働力に移行する確率は高まる。低学歴男性では、正規雇用が不況期の雇用安定を保証する機会とは必ずしもなっていない。
(4)一方、高学歴男性では、調査時点の求人倍率上昇により、非正規雇用から正規雇用への移行が高まるなど、景気回復により就業状況を改善する機会が、より顕著に確保されていた。
(5)同じ正規雇用にある低学歴層でも、女性の場合は男性と異なり、求人倍率が高い場合ほど非正規雇用及び非労働力化が促進され、好況を就業選択の機会拡大と捉える面がみられる。
(6)また学歴を問わず、不況期に学校を卒業した女性労働者は、非正規雇用として就業する傾向が強い。さらに不況期に卒業して就業した高学歴女性ほど、その後失業プールに陥りやすい。
以上の移行に関する分析から、ひとくちに正規雇用といっても、獲得の量的機会のみならず、就業の安定性の質的度合いおよびキャリア選択上の位置付け等について、学歴や性別によって異なることが示唆される。
キーワード:移行確率、有効求人倍率、世代効果、学歴間格差、男女間格差