ここから本文です。
リサーチペーパー 第10号
タイトル
『家計調査』を用いた長期データの作成と応用:パネルデータによる家計消費の分析
著者 (原稿執筆時の所属)
宇南山 卓 (神戸大学大学院経済学研究科助教授)
刊行年月
2008年3月
要旨
家計調査の各月のデータを世帯ごとにマッチングすることで、6ヶ月のパネルデータを作成した。先行研究では、十分に考慮されなかった世帯識別コードの特徴を考慮することで、先行研究で採用されてきたレコード照合の方法を改善した。
また、照合された家計調査および貯蓄動向調査を用いて、海外の研究でも用いられてきた「擬似パネルデータ(Pseudo Panel もしくはSynthetic Panel)」を構築した。擬似パネルデータを構築することで、より長期の家計行動を分析可能となった。
さらに、構築されたデータを実際の経済分析に応用した例として、退職時点での消費の変化を観察した。特に、2つのパネルデータ(真の6ヶ月パネルデータと擬似パネルデータ)の結果を比較することで、擬似パネルデータの妥当性を検証した。真のパネルデータと擬似パネルデータは互いに整合的で、両者を利用することで家計調査の利用価値は大きく高まった。
経済学的な結果としては、日本の家計は退職時に消費を変化させないことがわかった。これは、海外の先行研究で、退職時に消費が減少するとされ「パズル」とされていた現象が、日本では観察されなかったということである。この結果は、日本の家計が合理的であり、老後に十分に備えた消費・貯蓄活動をしていることを示唆している。
キーワード: 家計調査、貯蓄動向調査、パネルデータ、擬似パネル、退職消費パズル