年金給付額の調整

 我が国の公的年金制度は、現役世代が納めた保険料がその時の受給者の給付に充てられる、いわゆる賦課(ふか)方式の仕組みを取っています。給付額は、賃金や物価の変動などを基準として改定することが法律で定められています。
 これに関して、保険料を負担する現役世代の人口の減少や年金給付を受ける高齢者の平均余命の伸びによる年金財政の悪化を避けるために、2004年に給付水準を自動的に調整する「マクロ経済スライド」が導入されました。給付水準の調整に当たっては、人口の増減や年齢構成の変化の根拠となる国勢調査(総務省統計局)や人口の将来推計、物価水準を示す消費者物価指数(総務省統計局)などの統計データが用いられています。

 年金給付額の改定は、基本的に賃金や物価の上昇率を改定指標として行ないます(※1)が、マクロ経済スライドによる調整では、賃金や物価の上昇率に応じて、将来の人口増減や年齢構成の変化などに応じて算定される一定の率(スライド調整率(0.9%)(※2))を引いたものを改定指標とします。その際は、賃金(物価)の上昇率によって、以下のような調整が行われます。

(1)賃金(物価)の上昇率≧スライド調整率(0.9%)のとき

『賃金(物価)の上昇率-スライド調整率=年金改定率』として、改定します。
 例えば、賃金(物価)の上昇率が2.0%のとき、
  年金改定率=2.0%-0.9%=1.1%
 となります。

賃金(物価)の上昇率≧スライド改定率(0.9%)のときの改定方法

(2)賃金(物価)の上昇率<スライド調整率(0.9%)のとき

 マクロ経済スライドによる調整によって、年金改定率がマイナスとなる場合、年金改定率を0.0%とし、年金給付額は前年と同額となります。

賃金(物価)の上昇率<スライド改定率(0.9%)のときの改定方法

(3)賃金(物価)が下落したとき

 賃金(物価)が下落した場合には、マクロ経済スライドによる調整は行わず、賃金(物価)の変動率が改定指標となります。
 例えば、賃金(物価)の上昇率が -0.5%のとき、
  年金改定率=-0.5%-0.9%=-1.4% ⇒ -0.5%
 となります。

賃金(物価)が下落したときの改定方法

(※1) 年金給付額の改定について、新規裁定者(年金受給し始める者)の年金給付額は、賃金の伸び率、既裁定者(年金を受給している者)の年金給付額は物価の伸び率(消費者物価指数)をそれぞれ用いて年金給付額の水準を改定しています。

(※2) スライド調整率は、「公的年金制度の被保険者数の減少率」と「平均余命の伸び等を考慮した一定率(0.3%程度)」を合計したものです。スライド調整率は、被保険者数の実績により変化しますが、2025年までは平均0.9%程度と推計されています。

 

参考文献

・第3回社会保障審議会年金部会 会議資料

・日本の年金政策―負担と給付・その構造と機能―、井口直樹、ミネルヴァ書房