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統計Today No.36

デフレの原因はひとつではない

総務省統計局統計調査部消費統計課長 吉岡 真史


 まず始めに、この度の東日本大震災により、亡くなられた方々の御冥福をお祈りするとともに、被災された皆様に心からのお見舞いを申し上げます。1日も早い復興を祈念しております。


1.デフレの続く日本経済

 日本経済は「物価の持続的な下落」という意味でのデフレに陥っています。総務省統計局が発表している全国消費者物価指数の生鮮食品を除く総合指数(コアCPI)をみると、2009年3月からほぼ2年間連続して前年同月比で下落し続けています。


   全国消費者物価指数 生鮮食品を除く総合指数の前年同月比の推移

   出典: 総務省統計局 消費者物価指数


 単純に物価が下がるだけであれば実質所得が増加し、購買力が向上するため、かつては「よいデフレ論」もみられましたが、企業収益の悪化に加えてリストラや賃金の伸び悩みなどから家計の支出も影響を受け、企業活動からも家計行動からも景気の悪化要因となることが広く認識されています。これを簡潔に描写したのが次の図です。


   デフレの経済への影響

   出典: 内閣府「国民生活白書」平成15年、P7


2.デフレの原因に関する諸説

 世界経済の中で、昨年来の商品市況の高騰を受けて、新興国を始めとして、先進国でも英国などはインフレ懸念を強める中で、どうして日本だけデフレが続いているのでしょうか。基本的に、物価は需給ギャップにより決定される部分が大きいと考えられていますが、その原因は必ずしも単純ではありません。本稿では、このデフレの原因について、需給ギャップに加えて、マクロ経済を構成する幾つかの経済主体に着目して解き明かしたいと考えています。まず、マクロ経済を構成する経済主体は四つあります。国内では家計と企業が民間経済部門を構成し、政府と合わせて国内経済を形成します。これに海外を加えて4主体となるわけです。

 分かりやすいところで、政府部門がデフレの原因の一つになっています。物価を司る金融政策です。デフレの一つの面は財と通貨の相対的な希少性に起因すると考えられます。つまり、通貨供給が財に比較して希少となっていれば財の価格低下、すなわちデフレにつながります。これは財と通貨、日本の場合は円について当てはまることですが、同時に、世界各国の通貨の間で、つまり、為替市場でも当てはまります。通貨当局による円の供給が相対的に外貨より少なく希少であれば、例えば、ドルやユーロに対して円が高くなる円高という為替相場の変動が生じることになります。円高により輸入品が値下がりすれば更にデフレに拍車が掛かる方向で作用します。加えて、金融政策当局により通貨供給が過小にコントロールされているのであれば、需給ギャップの拡大を通じて更にデフレが悪化することになります。この議論は、私を含めたリフレ派のエコノミストが主張するものです。

 目を政府から企業に転じ、賃金と物価の関係に着目します。世界と日本がもっとインフレだった頃には、例えば、1970年代前半の第1次石油危機の時期においては明らかに物価と賃金のスパイラル的な上昇が観察されました。現在のデフレにおいては、この逆が観察されます。すなわち、景気が思わしくない中でデフレもあって製品価格の上昇が望めず、コスト削減のために賃金が抑制され、更に需要が低迷する、という構図です。この関係は、山田久『デフレ反転の成長戦略』(東洋経済新潮社)の中で「値下げ・賃下げの罠」と呼ばれています。

 さらに、家計について考えると、高齢化が進んで生産年齢人口の割合と絶対数が減少していることが挙げられます。消費意欲の高い生産年齢人口の年齢層が絶対的にも相対的にも減少するため、「人口の波」の動きによる需要の変動によりデフレが続いていると、藻谷浩介『デフレの正体』(角川書店)などは主張しています。家計も含めた日本経済全体が「人口の波」により物価下落が継続しやすい構造になっている可能性は否定できません。図3は 国立社会保障・人口問題研究所の推計による我が国の人口ピラミッドの推移です。


   人口ピラミッドの推移


3.デフレ脱却のために 〜 今夏の消費者物価指数の基準改定にも注意

 このように、デフレの原因に関しては諸説あり、ここで述べた以外にも幾つかの要因が複雑に絡まり合って現在のデフレをもたらしていると考えるべきです。このように複雑な経済現象を単一の要因で単純に説明することは無理があり、場合によっては誤解を招きかねません。逆に、「デフレの唯一の原因はxxだ」とする主張があれば疑問を呈してみるべきです。

 最後に、現行の平成17年基準消費者物価指数の制度的な要因により、2011年4月の統計から全国のコアCPIの前年同月比はプラスを記録し始める可能性がありますが、これをもって「デフレ脱却」と単純に判断することはできません。今夏には消費者物価指数が平成22年基準に改定されるからです。幾つかのシンクタンクなどから基準改定の影響に関する試算が発表されていますが、基準改定により−0.5〜−0.6ポイントの下方改定が予想されています。春先の統計だけでなく、基準改定後の統計も見通したうえで「デフレ脱却」か否かの判断が求められるところです。


(平成23年4月11日)


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