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統計Today No.12
統計を通じた国際貢献 − カンボジアの2008年国勢調査
総務省統計局長 川崎 茂
昨日(2009年9月7日)、カンボジア政府の計画省統計局が2008年国勢調査の結果を公表しました。(詳細はここを参照。)この結果は、今後のカンボジアの国づくりにいかされるものとして期待を集めており、その公表に当たっては、首都プノンペンでフン・セン首相の出席の下、記念式典が盛大に挙行されました。カンボジアの国勢調査の実施に関しては、2005年から総務省統計局が中心となって技術支援を行っており、この度の公表がこの支援活動の一つの節目となりました。
カンボジアの統計整備に対する日本からの支援
カンボジアの最初の国勢調査は、1962年に行われました。しかし、1970年代から長期にわたって国が内戦状態となり、国勢調査が行えないだけでなく、政府の統計組織も崩壊し統計作成のノウハウが失われてしまいました。1991年のパリ和平協定により内戦が終結して治安が回復したのに伴い、1998年には国連人口基金(UNFPA)の全面的な支援により36年ぶりに国勢調査が行われました。国勢調査といっても、当時はまだ一部に政情の不安定な地域もあったため、その地域は除外して実施されました。
2回目の国勢調査が実施されたものの、その後、国の社会・経済の復興に必要な統計の整備が十分に進まないことから、弱体化した統計組織の能力向上を図るため、カンボジア政府は2003年に日本政府に支援を要請してきました。これを受けて独立行政法人国際協力機構(JICA)が検討を行った結果、2005年、同国の国勢調査の実施を中心に政府の統計能力の向上を支援することを目的として「カンボジア政府統計能力向上プロジェクト」を開始することとなりました。このプロジェクトの企画及び推進には総務省統計局が参画してきました。その実施に当たっては、総務省統計局、 同統計研修所、独立行政法人統計センター等の職員を含む官民の統計の専門家がアドバイザーとして現地に毎年派遣され、同国の統計職員に対して助言や研修・指導などを行ってきたほか、毎年数名のカンボジアの統計職員を日本に受け入れ、総務省統計局、独立行政法人統計センター等で実地研修を行ってきました。また2008年1月には、政府の統計職員への研修を恒常的に行う施設として、プノンペンの計画省統計局に「研修棟」がJICAの資金により新設され、その建物と機材一式がカンボジア政府に供与されました。この研修施設は現在もフルに稼働し、カンボジア政府の統計能力の向上に活用されています。
国勢調査の実施は国連の提唱する計画の一環
「カンボジア政府統計能力向上プロジェクト」において国勢調査を中心に支援することとされたのは、国勢調査の実施が統計整備の最も中心となる業務であり、支援の効果が最も大きいと期待されるためです。国勢調査の重要性は、カンボジアに限らず世界各国でも同じことです。
国連では、世界の国々で国勢調査が2005年から2014年の間に必ず実施されるよう「2010年世界人口・住宅センサス計画」(注参照)を提唱しています。国連の調べによると、世界の208の国・地域で国勢調査の実施が予定されて(又は既に実施されて)いますが、25の国・地域では予定が明らかでなく実施が危ぶまれています。カンボジアで2008年国勢調査が実施され、きちんと結果公表が行われたことは、カンボジアの統計が世界的に見て一定の水準に達しつつあることのあかしであると言えるでしょう。
国連が世界的に国勢調査の実施を推進しているのは、国勢調査が国際的にも国内的にも重要な役割を担うものであるからです。まず、国勢調査から得られる様々な統計は、世界の持続的な発展を考える上で最も基礎的な情報として欠かせません。地球環境の保全、天然資源・食料の確保・配分、貧困の撲滅など、グローバルな課題を検討する上で正確な統計が必要です。また、国勢調査は、各国の政治・行政の運営を客観的かつ公平に行うためにも必要なものです。多くの国々で、例えば、議員定数の画定、国から地方への財源の配分などを国勢調査のデータに基づいて公平に行うよう努めています。さらに、国勢調査は各国の統計機関の業務の中で最も基本的なものであり、特に開発途上国の統計機関では、この業務経験を通じて他の様々な統計を作成する能力も向上すると期待されます。
国勢調査が重要なのは、発展途上国だけではなく、日本のような先進国も同じことです。総務省統計局では、来年10月1日の国勢調査の実施に向けて準備を進めているところです。今日の日本では、国民のプライバシー意識の高まりや、オートロックマンションの普及など生活様式の変化に伴って調査が難しい環境となっています。総務省統計局としては、新しい調査方法等を導入することとしており、国民の皆様の御支援を得ながら調査を円滑に実施し、正確な統計を作成するよう最大限の努力をしてまいります。日本のこのような取組は、今後、諸外国の統計関係者にも参考となるものであり、この経験を将来の国際協力に役立てたいと考えています。
(注) 国勢調査は、英語で「Population and Housing Census」と称されるため、国勢調査のことを「人口・住宅センサス」、あるいは単に「センサス」と称する場合があります。
発展途上国の人づくりに寄与する統計の国際協力
統計の分野における国際協力は、発展途上国に対する日本の開発援助の中であまり目立たないものであり、その存在に気付かれない方も多いのではないかと思います。しかし、統計の国際協力は、相手国の統計の整備に貢献するのはもちろんのこと、政府の統計職員に対するきめ細かな研修や実務指導を通じて発展途上国の人づくりにも寄与するものと思います。この度のカンボジアでの記念式典では、アドバイザーとして指導を担当した職員がカンボジア政府から表彰されました。統計という専門的な仕事を通じて国を越えた人と人のつながりが生まれることは、相手国との信頼関係を築く上で大切なことであると思います。
総務省統計局では、今後とも、自らの統計技術の向上にたゆまず努めるとともに、業務を通じて得られた知見を海外にも広め、これを通じて国際貢献を行っていきたいと考えています。
国勢調査イメージキャラクター センサスくん
(平成21年9月8日)