ここから本文です。

ICT活用

「関治之」の写真の画像

ICT活用


一般社団法人コード・フォー・ジャパン 代表理事  関治之

行政はどのようにICT活用を行うべきか? 行政における課題解決方法は? 「テクノロジーで地域をより住みやすく」をテーマに組織の枠を超え、幅広く活動中の総務省地域情報化アドバイザーがICT活用に向けた考え方やポイントについて具体例をまじえ紹介します。

動画1再生

動画はYouTube統計局動画チャンネル(外部サイト)でご覧いただけます。

動画2再生

動画はYouTube統計局動画チャンネル(外部サイト)でご覧いただけます。

行政におけるICT活用のポイント

自治体職員のデータ利活用研修プログラム「データアカデミー」をはじめ、直近では東京都の新型コロナウイルス感染症対策サイトのオープンソース化など、自治体の現場で走り続ける関治之氏に語っていただいた。

3つのポイント

  1. 業務フローの棚卸しをして、優先順位を決めよう。
  2. データ活用の入り口は「ペーパーレス」の促進から。
  3. 課題解決の7ステップ。難しく考えず、最初の一歩を踏み出そう。

自治体におけるICT活用の必要性

なぜ自治体でICT活用は必要なのでしょうか?

 見逃せない社会の変化として、そもそも人口減少があります。国立社会保障・人口問題研究所の公表データによると、2015年から2040年で、日本の総人口は1億2709万人から1億1092万人まで減るとされていますが、その内訳が大変重要です。

 生産年齢人口(15〜64歳)が、約7700万人(60.8%)から約6000万人(53.9%)に減ります。一方、高齢者人口(65歳以上)は、約3400万人(26.6%)が約3900万人(35.3%)まで増加します。

 つまり、労働力の絶対量が不足するにもかかわらず、担うべき社会保障が増えていくことになります。さらに、産業自体の担い手も不足しますし、自治体職員の成り手も減っていきます。インフラ自体の老朽化も進んでいくでしょう。そういった労働力が少ない中、「どれだけちゃんと社会を回していくか」というのが重要な論点になってきます。

 一方、ICTの技術は進んでおり、できることが増えています。特にICTというのは、自動化や、時間・距離を縮めることが得意です。ICTの得意分野をうまく活用し、減っていく労働力の中で、生産性をどれだけ上げていくか、がこれからの自治体業務の中で重要になります。
 特にペーパーレスや、クラウド活用、業務の自動化などを積極的に活用していくことがポイントになっていきます。

図1 なぜ自治体でICT活用が必要か?

そのような状況の中で、どのような対応が考えられますか?

 必要な対応としては、まず「業務効率の向上」です。
 手続きのための作業を自動化していきます。窓口で受け取ったものを手続きに沿って粛々とやるというよりも、自動化できるものは自動化し、本来人間しかできない、市民との細やかなコミュニケーションや政策の立案といった本来行うべき業務に専念する時間を増やしていくといった考え方が必要になってきます。

 2つめは、「圏域での業務共通化による連携」です。1自治体だけで物事を進めていくというのは、非効率な点が多いので、なるべく広域で連携をしていくことが必要になってきます。

 3つめは、データをうまく活用していくということです。
 データを使うことで、そもそもこの業務というのは何のためにやっているか? そもそもやらなくていいのではないか、など、「やらないこと」を決めていく、つまり優先順位を決めていくことにデータ活用ができます。

 また、うまくデータを活用することで、4つめの「民間との連携」もできるようになります。

ICT活用のためのポイント

それでは、まず「業務効率の向上」からくわしく教えてください。

図2-1 業務効率の向上のポイント

 リモートワークは、真っ先に導入すべき項目でしょう。費用対効果が高く、職員のメリットも大きいはずです。
 災害時には特に大きな力を発揮します。子育て中でも、リモートワークだと、短時間だけ働くことが可能になるので、これまでは仕事を辞めざるを得なかった人たちが、実際に働くことができるようになっていくという効果があります。また、リモートワークができる環境を突きつめていくことで、自然とペーパーレスにもつながっていくでしょう。

 そして、「自動化」。
 最近、自治体でもAIやRPA活用が話題になっていますね。RPA(※)は自動化の典型です。PC上で何度も行う作業、誰が行っても同じようになるものに関しては、自動化し、無駄な作業をなくすことができる可能性があります。ただし、RPAは万能ではなく、そもそも業務フロー分析とセットで導入しないと意味がない点に注意しましょう。

 ※RPA(Robotic Process Automation  ロボティック・プロセス・オートメーション)
 これまで人間のみが対応可能と想定されていた作業、もしくはより高度な作業を人間に代わって実施できるルールエンジンやAI、機械学習等を含む認知技術を活用し、業務を代行・代替する取り組み。(一般社団法人日本RPA協会より https://rpa-japan.com/

 AIについては、最近は各方面で活用が進んできていますが、特にベテランの人がしていた「判断」に関しては、その人の判断基準をテンプレート化し、コンピュータに覚えさせることで、ベテランがもつ業務ノウハウを新人に移転するような仕組みが可能になります。
 また、チャットボットと言われる自動応答システムを使えば、FAQ(よくあるお問い合わせ)的なやりとりについては、職員が答えなくても定型の返答に関しては返してくれます。これもAI活用の一つです。

 次の「クラウド活用」。
 三層分離の影響で自治体ではなかなか進んでいないところもありますが、LGWAN対応のサービスも増えつつあり、徐々に利用範囲が拡大してきています。それらを活用しながら、これまで自分のPCの中でしかできなかったようなこと、もしくは紙でしかできなかったような業務をオンライン側に移していくことが重要になってきます。これにより、リモートワークの効果もさらに高まるでしょう。

「広域連携」のポイントを教えてください。

図2-2 広域連携のポイント

 広域自治体で、業務を共有化する事例が徐々に増えてきています。
 業務の効率化という側面もありますが、例えば防災や観光などに関しては、そのターゲットとなる人々は、その自治体の枠の中だけで活動しているわけではないので、複数の自治体で連携していくことが重要になっていきます。

 また、うまく業務を標準化していくことによって、どこの自治体でも同じような業務については同じシステムが使えるようになります。
 これまで1つの自治体ごとにカスタマイズしてシステムを作っていたのが、同じソフトウェアを使うことで、全体のコストも下がり、覚えるべきことも少なくなっていくといった効果があります。

 圏域で業務を共通化していくためには、コミュニケーションをうまく進めていくことが重要ですが、その際に大変重要なのが「業務フローの棚卸し」です。

 自分たちの業務は、どういうフローで回っているのか?ということをきちんと把握することです。
 例えば、自分たちの課にはどういった業務が何個くらいあって、どういう手続きがいつ行われているのか? どんなデータがどこからきて、最終的にどこに出ていくのか? その間にどういった作業するのか? などを「見える化」していきます。

 これにより、他の自治体と比べたときに、他の自治体はこういうことをやっているのか、それはなぜ必要なのか? 合わせられないのか? うちは実際、本当にこれは必要なのか? などということを考えられるようになる、つまり「広域連携」は業務フロー自体を見直すきっかけにもなるのです。

「データ活用」のポイントを教えてください。

図2-3 データ活用のポイント

 データ活用は、これからの自治体に必須の項目です。
 データ活用を進めていくために重要となってくるのが、やはりペーパーレスです。紙を基点に仕事をしてしまうと、どうしてもそれをデジタルに変換することが必要になります。逆に、デジタルから印刷して配布するコストもかかっていきます。ですので、まずはデジタルを入り口にすることから始めましょう。

 業務フローの中で、どんなデータが入ってきて最終的にどんなデータが出ていくのかというところをしっかり考え、その中で、なぜペーパーが必要なのか、減らせないのか、という考え方をもつことが重要です。

 この脱ペーパーができると、業務効率における自動化もどんどんやりやすくなっていきます。データが分析できるようになります。データ分析ができるようになるとEBPM(Evidence Based Policy Making 証拠にもとづく政策立案)も進めていきやすくなります。

 このあたりは、結構大変なところではありますが、一度進めるとそれが価値を産んでいくことになりますので、どのようにデータ活用をやっていくかというのは大変重要な観点といえます。

「民間との連携」のポイントを教えてください。

図2-4 民間との連携のポイント

 民間との連携については、最近では企業との連携だけでなく、最近は地域のシビックテック(※)団体との連携も考えられます。その際、キーとなるのが「データ連携」です。データをうまく活用することで、様々な民間団体と連携をすることができます。

 ※シビックテック‥シビック(市民)とテック(テクノロジー)をかけあわせた造語。住民参加型でテクノロジーを活用し、地域の課題や社会問題を解決する取り組みや概念をいう。

 例えば、保育園・幼稚園の空き状況や預かり時間、一時預かりの有無などのデータをオープンな形式で提供することによって、民間の団体がそのオープンデータを使い、スマートフォンで自分に合った保育園を探せるアプリを作成する。こういった事例が実際に出てきています。

 シビックテックと言われますが、地域には、ITを使って地域の課題を解決したい、自分たちで解決したいと思っている人たちがいます。そういった人たちが自治体に文句を言うのではなく、必要なデータをもらえれば、自分たちで加工して便利なサービスを作るのでデータを使用させてほしい。といった流れが実際にできてきています。

 すべて自治体でやるのではなく、アプリ開発が得意な人や、地元の企業にどんどん任せていく。このような関係性を作っていくことが大事になります。そのためにも、データをうまく活用しましょう。

 外部人材を採用する自治体も増えてきています。ICT技術者を自治体内だけで育てるのは相当難しく、任期付職員などの制度を活用し、ICTの専門家を雇ったり、アドバイザーのような形で委嘱したり、さらに企業からの人材受け入れも進んでいます。

 これまで自治体内でやっていたことも、他の企業と一緒にやれるのではないか、地域の人たちにお任せしてもいいのではないか、自治体のやるべきことは何なのか?ということをしっかり考え、優先順位を決めていくということが必要だと思います。

課題解決7ステップ

課題解決はどのように進めていけばよいでしょうか?

図3 課題解決7ステップ

 自治体の中で課題解決を進めていくには、様々な方法がありますが、私たちとしてはこの7ステップというやり方で進めています。

 大きく3つのパートがあります。「課題と分析対象の決定」「分析実施」「分析結果の判断」です。
 それらを細かく分けて7ステップとしています。

 (1)〜(3)の課題の分析プロセスでは、どんな課題を解くのか? 課題が解決された状態はどのような状態なのか?を決めなくてはいけません。そこで重要になるのが仮説です。分析をする際に、データだけを並べてここからどんな結果が導かれるかというように考えても、あまりいい答えは出てきません。

 自治体業務の中で、そもそもこの仕事は何のためにやっているのか?というところからちゃんと捉え直すことです。そもそもこの部署はどういう目標を立ててやっているのか? その目標に対してどのような仮説があるのか?

 それらをしっかり洗い出し、仮説が決まって、初めてデータが出てきます。この仮説が正しいといえるにはどんなデータが必要か? どんな数字が出るとよいのかを決めるわけです。ようやくここではじめてどんな分析手法をとったらいいのか、を決めるわけです。

 (4)の分析実施のプロセスに関しては、すべて自分たちでやる必要はありません。仮説とこのような手段で検討してほしいというのがある程度決まれば、そこから先は外注したり、統計部署にお願いすることもできます。

 そして、分析結果を基に判断をしていくわけですが、ここで大事なのが、もともとの仮説が正しかったか、間違っていたのかの判断です。

 間違っていた場合は、最初のプロセスに戻り、仮説の立て直しからやることが大事です。
 政策の実施がすでに決まっていて、そのための正解を探すためのデータ分析というようなことがたまにありますが、それはそもそも本来の課題解決にはつながりません。ぜひとも7ステップをグルグル回しながら進めていただきたいです。

 さて、仮説が正しいと評価されたら政策を立案しますが、この政策の効果をどのように測るのかを決めておき、実際に政策を実施したら、その結果をまた分析していくということになります。もし良い成果が出たら、それをどんどん範囲を広げていく形で進めていきましょう。

最後に、自治体の方々へのメッセージをお願いします。

 大事なのは、とにかくやってみるということです。
 課題解決を7ステップで説明しましたが、難しそうに思えても、実際やってみるとそんなことはありません。

 そもそも、自分たちの業務は何のためにやっているのか? その業務は何が達成できたらうまくいったといえるのか? 市民の役に立ったといえるのか?
 こういったことを改めて考え直して、もしかしたら今までのやり方を変えられるのではないかと考えてみてほしいです。

 そして、それを助けるのがやはりデータ活用であり、ツールの活用です。

 とにかく失敗を恐れずに、小さなことでもいいからまずやってみる。最初の一歩を踏み出していただくと、どんどん変化がつながって、より良い方向に変わっていくと思います。

参考サイト

プロフィール

一般社団法人コード・フォー・ジャパン 代表理事 関治之 せきはるゆき

「テクノロジーで、地域をより住みやすく」をテーマに、会社の枠を超えて様々なコミュニティで積極的に活動する。東日本震災時に情報ボランティア活動を行なったことをきっかけに、住民コミュニティとテクノロジーの力で地域課題を解決することの可能性を感じ、2013年に一般社団法人コード・フォー・ジャパン社を設立。その他の役職:総務省 地域情報化アドバイザー、内閣官房 オープンデータ伝道師 等

サイトマップ
ページ上部へ アンカーのアイコン画像