統計力向上サイト
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箱の数が四十しかないわ!
全部で五十箱つくったよね。
ぼくの分、十箱。全部終わったよ。
そうか!平さんに残りを頼んだ分を数え忘れてた!
あら?何してるの。お菓子屋さんでもはじめるの?
ぼくの友達が全国の店で手作りクッキーの販売を始めるんです。けっこう美味です。
おいしいわ!味も三種類あるし売れそうね。
でも、店舗での手作りは、均一にできないので一袋の重さの平均を知りたいと相談されたんです。
面白い話ね!私も参加させて!
みんな、話に乗ってくれて、ありがとう!
今、どこまで進んでいるのかしら?
各支店でランダムに選んだ袋の重さを一つずつ測って、入力が終わったとこだ。
平さんの入れてぴったり50 箱よ。
それにしてもすごい量だね。
一箱に袋はいくつ入っているの?
47 袋!
五十箱で2350
うわ!おつかれさま!
測る前に、一人で各支店から集めた袋をさらに無作為に五十箱に入れ換えたしね。
で、これから全体の平均を出すということね。
そう。杏さん、実にタイミングよく現れたね。
ねえ、無作為の標本で平均が分かるって中心極限定理よね?
そう。ランダム抽出した各標本の平均値を計算して、ヒストグラムにすると釣り鐘型の正規分布になるんだ。左右対称の正規分布の中心値で全体の平均値になる。これが中心極限定理だ。
でも、中心極限定理には条件があるのよね。
1それぞれの標本は無作為抽出であること。これはクリアしてるぞ。
ふつう標本は30くらいだけど今回は50あるわ。
そして各標本が十分に大きいこと。これもクリアだよ。
これだけデータがあれば後は私にまかせて!
頼む。ありがとう。十箱も測ったからお茶してくるよ!
私は二十箱以上よ。大さん、お茶はごちそうしてね!
いいよ。杏さんの計算を見ていたいから、ぼくは残るよ。
これだけで全国の平均が推定できるのはスゴいわね!
そうだね。統計学者たちが二百年もかけて証明した定理だからね。
1730 年代に、ド・モアブルは二項分布の形の極限を正規曲線で近似できることを発見し、これを精密化したのがラプラスです。そして、今の中心極限定理の特別な場合に相当する「ド・モアブル- ラプラスの定理」を証明しました。最終的に、中心極限定理がどのような条件で成立するかの問題に決着をつけたのは、フィンランド人のリンデベルグとフランス人のレヴィですが、1930 年代のことです。ラプラスから200 年も後のことでした。
ピエール=シモン・ラプラスの中心極限定理
ピエール=シモン・ラプラスの肖像画
ピエール=シモン・ラプラス(1749-1827)
ピエール=シモン・ラプラスはフランスの自然科学者、数学者、物理学者、天文学者。「ド・モアブル- ラプラスの定理」を起源とする中心極限定理は、統計学で最も基本となる正規分布の応用範囲の広さを確立した。また、決定論者として、宇宙の全ての粒子の運動状態が分かれば、これから起きる全ての現象はあらかじめ計算できるという考え方で「ラプラスの悪魔」という概念を生み出した。
ド・モアブル- ラプラスの定理のグラフ
成功の確率 p、 試行回数 n の二項分布において、n が大きくなるほど分布は正規分布に近づく。
ラプラスの悪魔は、瞬時に全ての物質の力学的状態と力を知ることができ、それらのデータを解析できる能力と知性で、未来を完全に見通すことができるという空論上の概念的な存在なのね。でも、二十世紀のはじめには、原子の運動は確率的にしか把握できないことが分ってラプラスの悪魔でも未来を完全に計算することはできなくなったというわけね。
ほら、簡単にできるでしょ!
できたみたいね!
ぼうちゃんも平さんもありがとうございました。
ところでこのクッキー送り返すの?
相談料の現物支給だよ!どう売ってもいいって!
えっ!
ここで、クッキーの販売をするとはラプラスの悪魔でも見通せなかったろうよ。
じゃ、杏さん、ネットで売って、ついでにマーケティングしてあげよう!
えっ!